Ⅳ‐Ⅲ どうしてこうなった・・・

 そのクソガキは身なりがとても綺麗だった。


 おそらく貴族の子供とかなのだろう。


 しかし、こいつは何をやらかしたんだ・・・・・・


 哀れなやつだ。


 ああいうのに目をつけられたらおそらく助かることはできないだろう。


 




 ————なんてことを考えていると、噂のクソガキが俺の手を引っ張った。




「———はぁ?!ちょ、おい!」


 気が付くとこの生意気そうなクソガキは、俺の足元に隠れてしまった。



「————あぁ?なんだてめえ?大人しくこのガキを俺らに渡せ。痛い目見たくねぇなら大人しく言うことを聞くことだな」


「———なぁ兄ちゃん!俺のこと守ってくれよ!お礼はなんでもするから!!」


 正直今すぐ何も見なかったことにして帰りたかった。


 どうしてこんなことになった・・・


 ・・・とはいえ関わってしまったのならば仕方がない。


「———コイツが、何をしたっていうんですか?」


 本当にただ『盗みを働きました』だったら即刻こいつらに突き出してやる。


「———お前が知る必要はない。黙って差し出せ」


 雲行きがどんどん怪しくなってきたぞ・・・


 絶対これなんかの事件じゃん・・・


 もうやだぁ・・・


 ・・・まあでも、どっちに味方するかは決まったかな


「————そうですか。では————【フィルマーファ】」


「————な?!コイツ、妙に落ち着きがあると思ったら・・・畜生っ!火の粉出前が見えねえ!」


 本当は王女から街中で魔法を使うなと言われているが、今回は非常事態だ。


 説明したら理解してもらえるだろう。


 たぶん。


 さて。



 できればこのままこいつらを戦闘不能に―——



「ここら一体を火事にする気か?!なんてことをしやがる!クソ、こうなったら——」


「待て!街中で魔法を使うな!騎士団にバレると面倒だ!何としてでもここは素手で・・・ツッ!」


「どうし————なっ!」


 俺が二回目の攻撃に移る前に、八百屋(のようなもの)の店主がフライパンで思い切り謎の柄の悪い大男たちを叩いた。


 やはりフライパンは最強か?


 というか店主さん、そんなヒョロヒョロなのにあそこまで強く叩けるのすごいな。


「今のうちに屋敷に戻りな!今下手にここで殺し合うと“騎士団”が着ちまう。そしたら、アイツらに手柄が横取りされちまう!だからそのガキを連れて一度第一王女のところの屋敷に向かいな!あそこなら何とかしてくれるはずだ!」


「あなたは大丈夫なんですか?!」


 正直役割逆のほうがいいと思うぞ?


 たぶん俺のほうが店主よりも長く戦えるだろうし・・・


「なぁに、俺はこれくらいじゃ死なねぇよ!何せ俺は元傭兵———おぉっといけねえ。とにかく、わかったら早く行きな!」


 いろいろ気になることはあるがひとまずこのガキを連れて俺は元来た道を戻るのであった・・・


 しばらく俺とクソガキで並んで走っていると、前から二人、おそらく先ほどの仲間であろう柄の悪い大男の仲間らしき男が二人、襲い掛かってきた。


 おそらく連絡を受け、待ち伏せしていたのだろう。


 俺はすんでのところでクソガキを抱え、ガラの悪い男たちの攻撃を避けた。


「———なぁ、お前何かアイツらに悪さしたか?」


 クソガキを脇で抱えながら、俺は彼に尋ねた。


「———俺は何もしてねぇ!!・・・でも、どうせたぶん俺の身代金とかが目的とかだろ」


「お前マジでナニモンなんだよ。ていうか、名前は?」


「・・・じゃあ、クロウで。無事生き残れたら本当の名を教えてやる」


 腹立つ奴だ。


 まあいい。


 とにかく急いで屋敷に向かわなくては・・・


***


 回想終了。


 今現在、俺たちは案の定大男たちに追いつかれ絶賛かくれんぼ中だ。


 俺たちは今市街地の路地裏の家が密接しているところに隠れている。


 まだ王女の屋敷まではもう少しある。


 どうしたものか・・・


 正直ここで魔法を使うには、場所が狭すぎる。


 下手に魔法を使って家を燃やすわけにはいかないため、こちらから打って出ることはできない。


 しかしそれは向こうも同じのようだ。


 彼らも魔法を使えば俺らのことを一瞬で捕らえることができるだろう。しかしそんなことをすれば騎士団が黙っていない。


 結局のところ、“睨み合い”が続いているわけだ。


「———おい、クソガキ。お前、どこから来た?」


 俺は目線をガラの悪い男達が潜んでいるであろう辺りに向けながら質問した。


 ただかくれんぼしているだけに飽きてきたのだ。


「————ちゃんと俺が安全に従者に会えたら話す」


「———じゃ、違う質問だ。歳はいくつだ?」


「・・・今年で10になる。それとクソガキって呼ぶな。もう俺は社交パーティーに出られるくらい大人なんだぞ!」


「そんなこと俺に言われても知らん!」


 コイツけっこうどこぞの坊ちゃんだな・・・


「———そういうお前は誰でどこから来たんだよ!俺も話したから話せよ!」


 めんどくせー。


 これだからガキは嫌いなんだ。


「・・・蒼琉だ。今年で16になる。後あんまり大声を出すな。ただ様子見だからと言ってこっちからは隙を見せるなよ———?」


 —————しかし振り向くと、そこにクロウの姿はなかった。


「離せ——————!!ソ、ソウル————!!助けて——————!!」


 声のしたほうを見ると、俺とガラの悪い男たちが睨み合っている少し先のほうで黒ずくめの仮面をつけた男がクロウを攫っていったのであった。






 そう、黒い影の中に——————


 

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