Ⅱ‐Ⅴ あの子たちはきっと———
順調に進軍を進めていき、遠征に出てから7日目の夜、紅葉たちは小さな町に着きそこで一休みすることになった。
「————殿下、失礼足します。・・・・・・また散らかしておられますね?」
「う・・・で、でも大丈夫!明日までにはちゃんときれいに片付けるから!!」
「・・・その言葉、信じますよ?」
執事であるバランのの一言に、必死でうなずくミラ。
バランは軽くため息をつくと、懐から手紙を取り出した。
「アーホルン公爵からです。やはりこの先、対立は避けられないかと・・・」
「———そう。やっぱり・・・」
ミラは悲しそうに目をつむった。
アーホルン公爵は、異世界転移者を前線に立たせるのは反対派だ。
何も知らない、戦闘経験のない、ただ巻き込まれた子たちを国の勝手な都合で戦場に送り出したくない・・・というのが表向きの理由だ。
もちろん、その理屈はわかるし、私もその意見には賛成だ。
しかし、彼の真の目的は自分の配下である騎士に魔王を討ち取らせたいからだ。
そしてこの国を牛耳っていく・・・それが彼の野望・・・・・・と、噂されている。
正直ミラは魔王を討ち取ることができれば、なんでもいいと思っていた。
しかしアーホルン公爵のやり方は好ましくなかった。
平民や奴隷は使い捨て。
貴族至上主義。
自分に従わないものはすぐ罰を与える。
これでは国を豊かにすることができない。
もともと彼女は王位継承などはどうでもよかった。
しかし今の第一王子である兄アムレトは体が弱く、王位を継ぐつもりはないと宣言してしまっている。
第二王子である腹違いの兄シグヌムは政治に無関心。
いろいろな女性に手を出し、とっかえひっかえしているということで有名だ。
王位継承順位的には、シグヌムのほうが上だ。
後ろ盾にはアーホルン公爵がついているため、もっとも有力候補だと言われている。
しかしミラは彼らにこの国を担えるとは思えなかった。
彼らが国を乗っ取るくらいなら、私が王になる。
それがミラの考えた答えだった。
ミラは自分自身が国を引っ張っていけるとは最初から思っていない。
しかしそれでも、国民のために少しでもやれることをしていきたい。そんな思いで今まで頑張ってきたのだ。
実際、ミラの国民からの評判はいい。
しかし貴族たちがほとんど第二王子派、ひいてはアーホルン公爵派であるため、状況的には不利なのだ。
加えて
なんとかしてこの状況を打破できないかと考えていた矢先、クレハたち異世界転移者が来たのだ。
これを利用しない手はないと思い、思い切って魔王討伐を王に提案したのはいいのだが————
「やっぱり、心苦しいな・・・・・・」
もともとミラは相手を利用したりするのは好まず、苦手だ。
そんな自分は王などに向いていないだろう。
できる限り兄たちの手伝いをしていきたいと考えていたがこのありさま。
正直今すぐにでも王女をやめたかった。
「———お嬢様が頑張っておられるのは、このわたくしがしっかり見ております」
「・・・ありがと。バラン」
ミラは心配させまいと少し微笑んだ。
「・・・それで、手紙にはなんと?」
「———“我々も、騎士を派遣いたしましょうか?”ですって・・・裏の魂胆が丸見えだわ」
「国王の病もあまり芳しくありません。おそらく数年以内には・・・」
「・・・・・・わかっているわ。そのためにもやっぱり
「———お言葉ですが、彼らにそこまでの影響があるとは思えませんが」
バランの口調は、まるで子供に諭すようだった。
「————理由を聞いてもいいかしら?」
「確かに彼らは見どころがあり、戦闘経験がないにしても成長する見込みがあります。———しかし確実性は何もありません」
「———それは他の人だとしても同じでしょう?」
ミラも黙っていない。すかさず反撃に出た。
「えぇ————しかし、夢ばかり見るのはよろしくありませんよ?お嬢さま」
「————それでも、賭けるだけの価値は私にはあると思うわ」
バランは少し驚いた。今までの彼女なら“賭ける”という不確定要素の強い言葉を使ってこなかったのだ。これが成長というものなのだろうか?バランは密かに感慨深く思った。
「———いつもなら、ここでむくれてヘしょげておりましたのに・・・すっかり立派になられましたな」
「ちょっと!それっていつの話をしているのですか?!私はもう子供ではありません!!もう今年で23ですよ?」
「ははは!私にとっては、いつまでもあなた様はワガママ姫ですよ」
「んもう!!」
ミラは顔を赤らめながら手紙を丁寧に折りたたんで、鞄の中の手紙入れにしまった。
「それはそうと、お片付けはお進みですかな?先ほどから全く手が動いておられませんが・・・?」
意地の悪い執事はニヤリと笑った。大変イイ笑顔だ。
「い、今から終わらせるます!!て、手伝ってもらわなくてけっこうですからね?!」
「はいはい。では、おやすみなさいませ。お嬢さま」
「絶対寝れるわけないわけないじゃない・・・」
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