Ⅲ‐Ⅰ 平和は突然崩れ落ちる

「は~、いい湯だった~」


 久しぶりのお風呂!!


 そしてその後の牛乳!!


 くぅ~!!


 五臓六腑に染み渡る~!!


「紅葉、おっさんぽい」


 やかあしいわ。


 そうでもしないともうやってられん。


 だって今日・・・



***


「それでは、本日はクレハさんとソウルさんでコンビを組んでもらいますね!」


 ミラさんの満面の笑みに、私は固まった。


 事情をなんとなく知っている美咲も笑顔で困った顔になった。


 私が?なんで?あいつなんかと?


 いやまあミラさんの前ではいい子にしてたから何も知らないだろうけどさっ!


「えっと、理由をうかがっても・・・?」


 ナイス美咲!


「今まで固定の人と組んでいやっていたじゃないですか?非常時はどうなるかわからないので、慣れてきた今練習しておくべきでは?と思いまして・・・」


 ・・・理屈はわかった。


 ・・・納得もした。


「・・・ちなみにこの組み合わせの理由は?」


 美咲・・・ほんとあんたは私の真の代弁者だ・・・


「あ、ただのくじです」


 くじなら仕方がない———!


「それでは、今日一日はこのペアでお願いします!」


 私はいつの間にか隣にいた小鳥遊を見た。


 相変わらず無愛想で、何を考えているのかわからなかった。


「・・・足引っ張らないでよ?」


「・・・紅葉もね?」


 ・・・たく。



 しかしいつ以来だろうか?


 小鳥遊と行動を共にするのは。


 確か最後は、中学2年の夏だったか・・・


 あんまり、あの時のことは思い出したくない。


 


 ・・・まだ私のこと名前で呼んでくれるんだな。



 それから数時間が経ち、実際に戦闘となった。


 結果は————


「————すごいわ。ここまで連携の取れた戦いは初めて見ました」


 私と小鳥遊。


 ————たった二人で、蟻の魔物の大軍を殲滅させたのだ。


 他の転移者の出る幕がないくらいの強さを、私たちは見せつけた。



日が暮れ始めたころに戦闘が終了し、私はミラさんのもとに呼び出されていた。


「————想像以上です。ここまで連携の取れた攻撃は初めて見ました。その・・・お二人は、何か関係がございましたか?ここまで連携が取れるのは信頼関係がなければできないことだと思うのですが・・・」


 ・・・素直に話さないとダメかな?


 すっごい嫌なんだけど・・・


「・・・別に、コイツ紅葉とは昔からの付き合いがあるだけ。だから、どうせコイツの動き、わかりやすいから」


 ・・・ほーう


「そっかそっかー。私の動き、そんなわかりやすいんだ~」


「・・・?うん、とても」


 ・・・馬鹿に、しやがって!!!


***



「なぁにが『動きが分かりやすい』だ!!どうせ私は単調な動きしかできませんよっ!!」


「・・・遊戯紅葉さんの動きが単調だったらもう私たちの動きはのろまな亀だよ??」


 雨宮さんがなんか言った気がするが、そしたらアイツ小鳥遊が悪い。


 だって、私で単調だったら、他の人たちはどうなんだ?って話だし。


「・・・たぶん蒼琉君はそういう意味で言ったんじゃないと思うんだけどな・・・・・・」


 なんだよ。


 美咲もそっち側かよ。


「たぶん、というか十中八九信頼してるから『動きが分かりやすい』ていったんじゃない?」


 ・・・・・・まさか。


「少しはプラス方向にも考えなよ?遊戯さん。じゃないと、気づけるものも気づけないよ?」


 雨宮さんものんびりとした口調で、美咲の援護をした。


 飼っている狼型の魔物の幼体(ぶっちゃけ子犬)の面倒の片手間に。


「———それでも、腹立つもん————————は?!」


  

 いきなり窓ガラスがいきなり割れ、鷹の大型魔物が侵入してきた。


「うっそ・・・今武器何も持っていないのに・・・というか、今私達ただのか弱い乙女なのに!」


 お風呂から出てきたばかりの私たちは、武器は一切持っておらず、鎧なんて着ているはずもない。


 つまりけっこう詰んだ。


 魔法は放てるけど、この距離で放つとかえって鷹の魔物からの反撃がどう出るかわからないからうかつなことはできない。


 ここは、冷静に距離を取って逃げ————


「ワンワンワン!!グルルルルッ」


 畜生このワンコめ!


 いっちょ前に忠犬っぷり見せやがって!!


 今じゃねえよ!!


「————これは、やるしかないよね?」


 美咲も覚悟を決めたみたいだ。


 雨宮さんも戦闘態勢に入っていた。


 さあ、やってやる。


 やってやるぞ!


 いっちょ私の光魔法を———


「————【フィルマーファ】」


 私が光魔法を放とうとした瞬間、穴の開いた外から炎魔法が飛んできた。


 小鳥遊の魔法だった。


 ・・・たく、つくづく癪に障るやつだ。


 だけどおかげで————


「———隙、作ってくれてありがとね?【運命の閃光】」


 私が放った光の巨大な光線が、鷹の魔物を一撃で貫いた。


 ・・・やっぱり『動きが分かりやすい』おかげか。


「・・・ありがとね。助けてくれて」


 私は小鳥遊の顔を見ず、礼を告げた。


「・・・・・・別に。死んだら目覚め悪いし」


 あいっかわらずかわいげのないやつ!!


 まあでも、プラスに考える・・・は無理にしてもマイナスには考えないよう気を付けるか。


 ————て、


「美咲—?雨宮さーん?どしたの?」


「ううん。私はなんでもないんだけど・・・雨宮さんが・・・」


「・・・ソウクレてぇてぇ」


 どうした?コイツ雨宮さん

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