ガールズバーで恋をして

砂山 海

第1話

「ただいま」

 鍵を開けてドアを開きながらそう報告するけど、反応は返ってこない。その代わり日中閉め切っていた部屋からむわっとした熱気が出迎える。うんざりしながら私は鍵をかけ直し、小さなテーブルの傍にカバンを置くと窓を少し開けた。夕暮れ時の風が少し入るけど、ここ数年はこの時間帯でもまだ暑い。

 十畳ワンルームの安アパートは狭い我が家。必要最低限の物しか置いていないはずなのだが、足の踏み場もない狭さだ。浴室は一応あるけどシャワーしかないし、それだって水流が弱いので汚れは落ちても疲れが落ちない。それでも一日働いて汗でべたついた体をすっきりさせたくて、私は着ていた物を乱雑に洗濯機の中に放り投げると溜息をつきながら浴室へと入った。

 汗を落とせば少しは気持ちもましになる。けれど入浴後のスキンケアなんかする気にならない。どうせ誰からも愛されない女なのだ、磨いたってしょうがない。年だって今年で三十一になる。もう若いとは言えない。同年代ならば結婚しているか、バリバリ仕事をしてキャリアを積んでいるか、まだ若さを維持しつつキラキラしているだろう。

 でも私はどれでもない。仕事と言えば派遣社員として食品加工工場で働いていてほぼ最低賃金みたいなものだし、恋人もいない。田舎の両親は健在だけど、もう何年も連絡を取っていない。私も向こうも、お互い苦手なのだ。

 そもそも恋人だってレズの私からすれば到底無理な話。今まで生きてきて「実は……」なんて声も聞こえなかったのは単に運が悪いのか出会いが悪いのか、それとも私自身が悪いのかわからない。ただ私はお世辞にも美人でもなければ可愛くも無い、疲れて化粧っ気のない三十過ぎの女。夢も希望も、貯金も無い。体も貧相で鏡に映った自分を見ればいつも溜息しか出ないけど、今はそれすら出ない。趣味すらほとんど無い。毎日働いて、食べて、寝るだけの生活なのだ。

「あー、醤油切らしてたか。仕方ない、豚骨にするかぁ」

 戸棚を開けて食べようと思っていた醤油味のカップラーメンが無いのに気付くと、予備を買っていない自分に呆れる。袋麺の方が安いけど、それすら調理するのが面倒臭い。特売の時に安かったから買った豚骨味のカップラーメンはいまいち口に合わないけど、仕方ない。あぁ最近私、どんな事でも仕方ないって言ってる気がするなぁ。

 それでもお腹を満たすと、少しずつ気力が戻る。今日は週末、明日は休み。ようやく仕事を終えて解放されたんだという気分になってくる。そうなってくるとやる事は一つ。私は流しにカップラーメンの容器と箸をお湯につけると洗面所に行き、精一杯のメイクを始める。

 週末の私の楽しみ、それは唯一とも言える趣味であるガールズバーへ通う事。

 三年くらい前から見つけた私の趣味。存在はもっと前から知っていたし、女の人が行ってもいいんだとわかっていたけど、勇気が無かった。実質二年くらいは悩んでいた。そんな葛藤に耐えきれなくなり、拒否されたり馬鹿にされたら死のうかという思いを抱いて行ってみたら、一気に人生観が変わった。

 どこか落ち着いた店内に煌びやかなキャスト達。どの子もすごく綺麗で可愛くて、しかもこんな私でもチヤホヤしてくれるし、親身になってくれる。拙い話だって盛り上げてくれるし、沈黙だって嬉しそうに見詰めてくれる。夢にまで求めて得られなかったものがお金を払えば叶えられるという事に、私はひどく興奮したものだ。

 自分のために投資をするなんてドブに捨てるようなものだとばかり思っていたけど、他人に対して使うお金は感謝されると知った私はもうそれ無しの人生なんか考えられなくなった。自然と貯まっていたなけなしの貯金もそこに注ぎ、色んなキャストと親しくなった。去年までのお気に入りはカナちゃん。一見ギャルっぽくて私と対照的なんだけど話が面白くて、見た目に反して親切なところが良かった。何万もするお酒だって入れた事もある。

「よし、行くか」

 支度を終えると私は家を出た。帰ってきた時はよれよれのシャツにジーンズだったけど、今じゃ最大限にオシャレしている。馬子にも衣裳、似合わないのなんて承知だけど私に似合う服も無い。ならばせめて世間一般並の格好をすれば問題無いだろう。そう自分を励ましながら私は夜の街へと向かう。

 目的の駅から少し歩いて繁華街の一角に目的のお店はある。『ピグマリオン』というネオン看板を掲げたそのお店はビルの二階部分のフロアにある。エレベーターで二階まで上ればすぐにオシャレな木製のドアがあり、中に入ればそこは煌びやかな世界。間接照明ではあるがしっかり明るく、今日も多くのお客とキャストで賑わっている。

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 出迎えてくれたのは眼鏡をかけた肉付きの良い女の子だった。このお店の制服である黒のベストに白いシャツ、真っ赤なタイトスカートをはいている。明るいその声かけに私は静かにうなずくと、カウンター席へと案内された。

「あー、千晶さんどうもー。何飲みます?」

 すると早々に顔馴染みのキャストが私の所へ来た。このお店は満席でもほぼキャストとお客さんが一対一で話せるようになっているので、待ち時間と言うものがあまり無い。もちろん静かにお酒や雰囲気を楽しみたい時は断れるのだが、ここに来てそういう事をする人はまぁ滅多にいない。

「えぇと、じゃあカシスオレンジで。レンさんも同じの飲みます?」

「いいんですか?」

 顔をぱあっと輝かせてすぐにお酒を作り始めるのを見て、私は日常を少しずつ忘れていく。安いお酒だけどセット料金とは別なので良い顔をしようとすれば金額はそれなりになる。裕福じゃない私にとってお気に入りじゃない子に奢るのはちょっときついけど、これもお店の方と仲良くなるために必要な事。もちろんお気に入りじゃない子におごらなくてもいいのだが、多少はやっておいた方が顔も覚えられて良い面だってある。

「はいどうぞ。じゃ、乾杯しましょう」

 手早く作られたカシスオレンジを手に、私達は乾杯する。軽く一口飲めばアルコールと心地良い柑橘系の香りに心地良くなった。思わず顔がほころんだのだろう、そんな私に彼女は少しだけ顔を寄せてくる。

「千晶さん来たってリオンにも伝えるね。知ってるんだよ、今のオキニだって。千晶さん、そうじゃないキャストにもおごってくれるから評判いいんだよー。リオンも千晶さん来たら喜ぶからすぐ来ると思うけど、忙しかったら私でよければ相手するからね」

「ありがとう、レンさん」

 そう言うと肩まで伸ばした金髪のレンさんは嬉しそうに笑った。

 ここは私にとって夢の国。普段なら金髪の人なんて怖くて近寄りたくないのだが、ここでは親し気に話しかけてくれるし、こんな私と話していても嬉しそうにしてくれる。人の多い所が苦手だけど、ここでは大歓迎。知らないキャストと話すのはまだちょっと苦手だけど、客商売だからか誰もが優しい。

「あ、向こう空いたみたい。じゃあまた後でね」

 すっとカウンターの向こう側へ目を向けるとレンさんはにこりと笑ってグラスを空にすると、去って行った。入れ替わるよう私の前に立ったのは今のお気に入りのリオンちゃん。金髪や茶髪など明るい髪が多い中で腰まで伸びた綺麗な艶のある黒髪。前髪をパツンと切り揃えており、他の人がすれば髪の伸びそうな市松人形、でも彼女がしていると優雅なお嬢様のよう。

「いらっしゃい、千晶さん。会いたかった」

 クールな見た目とは裏腹に、愛らしい対応。もう見た目や喋り方が好み過ぎて、一気に私の胸が高鳴る。それがすぐ表情に出てしまう。

「リオンちゃん、私も会いたかったよ」

 私は元来、他の子をちゃん付けで呼ぶ事なんかできない。中学生くらいから抵抗があり、友達ですらさん付けだった。もちろん名前呼びなんてもっての外。それがここでは私の壁が取り払われる。去年このお店で働き始めた彼女は二十四歳で、私よりも年下だから自然とそうなった。

「ふふ、千晶さんからこうして名前呼ばれるの好き。何か飲みます?」

 私は半分ほど残っていたカシスオレンジを一気に飲むと、メニューに目を移す。

「じゃあテキーラサンライズを。リオンちゃんもどうかな?」

「ありがとうございます」

 静かに柔らかく微笑むと、しなやかな手つきでお酒を用意する。一つ一つの仕草が年下なのに艶っぽく、服装だって別にいやらしくないはずなのに彼女のどこかミステリアスな雰囲気のせいかそう見えてくるのが不思議だ。他の子と話していてももちろん楽しいんだけど、リオンちゃんはもう雰囲気から美しい。切れ長の目も私のタイプ。

「じゃあ、いただきます」

 そっと言葉を置くようにリオンちゃんがそう言ってグラスを口に付け、小さく傾ける。添えた指もほの赤い唇も、静かに動く喉元も何だかいやらしい。ただ飲んでいるだけなのに。まったく、こんなに素敵な人を他に見た事が無い。

「私ばかり飲んでいるのを見られるのは恥ずかしいですよ。千晶さんも飲んで下さい」

 私の視線に気付いたリオンちゃんがどこか拗ねたようにそう言うと、苦笑しながら私も飲む。視線が口元に集まっているのがわかる。恥ずかしいけど、リオンちゃんだから許せる。彼女だからこそ、もっと見て欲しい。

「恥ずかしいね」

「でしょう。ほらほら、お話ししましょうよ。今日はあれじゃないですか、千晶さんの応援してる野球チームが勝ったじゃないですか」

 運動は全くできないけど、どちらかと言えばスポーツを観戦するのは好きだ。趣味と言えるほど熱量は無いけど、ぼんやりと面白いと思えるくらいには楽しんでいる。

「そうだね。秋野がいいピッチングしてたのを岡山が援護したのが良かったなぁ」

「私もさっきニュースで見たんですけど、上手くすくい上げて打ちましたね」

 私の知り合いに野球が好きな女の人はほとんどいない。けれどリオンちゃんはその話題すら乗ってくれる。野球に限らず、リオンちゃんの知識の幅は広い。政治でも歴史でもお笑いでもコスメでも何だってある程度はできるし、知らないなら知らないで興味深く聞いてくれるので話していて一番楽しい。

 他のキャストなら女性客と言う事でコスメやランジェリーなんかの話題を振ってくる事が多いのだが、私自身どうもそれらが苦手だ。それこそドラッグストアなんかのプチプラくらいしか使っていないし、服や下着もほぼ通販。数年に一度、サイズをしっかり合わせてもらうために店舗に足を運ぶけど、ああいう店員さんとのやりとりがすごく苦手なのでできるなら極力行きたくない。例え親切心で教えてくれているのだとしても、そもそも興味が無いからその時間が苦痛でしかない。

 だから話題の広いリオンちゃんと話しているのが楽しい。彼女と話していると無機質な自分の人生が潤うようで楽しくて、何ならもう彼女に会いたいから必要最低限のお金以外はそこに費やしている。食費だってギリギリに切り詰めて。

「ここに来るため晩ご飯少なめにしたから、フルーツの盛り合わせでも食べようかな。一緒に食べてくれる?」

「ありがとうございます。フルーツ好きなんですよ」

 自分の飲み物は一時間のセット料金に含まれているが、キャストの飲み物やフード料金は別だ。しかもフルーツ盛り合わせはそこそこ高い。それでもオキニの子と一緒に飲んで食べるなんて、夢のよう。きっとデートってこんな感じなのかもしれない。

「千晶さん、お仕事の疲れは取れました? フルーツには疲労回復効果もあるんですよ」

「おかげさまでね。でもリオンちゃんと話しているのが一番疲れ取れるかな」

「ほんと、お上手なんですから」

 照れたように微笑むリオンちゃんが愛おしい。この笑顔が見られるなら一万や二万の出費なんか惜しくもない。時折じっと私の顔を見るのが嬉しいし、静かに私の話を聞いている姿勢も好きだ。リアクションこそ他の子より大きくないけど、冷たいわけじゃない。いやむしろそれがいい。嘘くさく無いからだ。

 お酒と彼女の雰囲気に酔って、結局私は延長して二時間半もそこにいたのだった。


 陽の高い日中は過酷な現実の時間、つまりは労働。食品加工工場は最寄駅から会社がバスを出しているので、十数人くらい乗って郊外のそこへと運ばれる。バスに乗る時からマスクは必須なので、相手の顔はあまりよくわからない。そもそも他の人に興味が無いのでどうでもいい。後部座席で数人が小さな声で仕事の愚痴を話しているけど、その輪に加わった事は無い。大抵私は前の方の座席でぼうっとスマホを見ているだけ。

 工場に着くと従業員専用の出入口から入り、すぐ傍にある更衣室で制服に着替える。支給された白いキャップに水色の制服、白いゴムの長靴。空調が効いているとはいえ、作業していれば暑い。年中一定の気温なので夏や冬は多少ありがたくもあるが、当然工場内で私語厳禁。ほとんど話し相手のいない私には関係無いのだが……。

「おはようございます、工藤さん」

「おはよう三浦さん」

 同じ派遣会社の後輩である三浦恵里さんだけはたまに話す間柄だ。いつもマスクをしているのでよくわからないが、それでも私と同じで化粧っ気も無い。二十歳そこそこらしいのにわざわざこんなとこで働いて、しかもオシャレとは無縁な場所なので多少私と同じ感じなのかなと勝手に思っている。

「工藤さん、なんかお疲れですね。また飲み過ぎですか?」

 更衣室の片隅で着替えをしながら、三浦さんが私の顔を覗き込む。マスクからわずかにそばかすが見え隠れしているのがいつも気になってしまうが、さすがに口に出した事は無い。私だって人にあれこれ言える顔をしていないし、それはさすがに人としてどうかとも思うから。

「あー、まぁ。どうしても行っちゃうんだよね、いつものとこに」

 三浦さんは私がガールズバーに通っている事を知っている。以前話しの流れでついポロっと言ってしまったのだ。だからか私の様子を見るなり、軽くため息をつく。

「あぁいうとこってあまりハマらない方がいいですよ。お金もかなり使うでしょうし、飲み過ぎにもなりますから」

「そうなんだけど、そうしないとやってられないのよ」

「いつか体壊しますよ」

 呆れたようにそう言いながら彼女は肩までの黒髪をキャップの中にしまった。

 ホストにハマるなんてバカみたい。そう私は長年思っていた。大金を使って叶わぬ恋をして、無理にお酒を飲んで依存して、最後には何も残らない。待っているのは借金苦と失った健康。テレビの特番でもよくやっているし、社会問題にもなっているので嫌が応にも目に入る度に呆れ続けていた。

 そんな私がガールズバーにハマるなんて、人生何があるかわからない。

 ただガールズバーは本来男性向けに特化されたお店なので、女の人が好きな私にとってそこは彼らと同じくらい天国だった。別にいやらしい格好ではないけれど華やかなキャスト達、ムードある店内、それなりのお酒で喜んでくれてチヤホヤしてくれる。それこそ女の人と恋愛をしたくてもできない私にとって、叶わぬ恋だとしてもその一端を味わいたかった。

 そう、ホストにハマる人達と私はそこが違う。彼女達はしようと思えば男の人をつかまえ、恋愛できるじゃない。でも私はその相手がそもそもいない。どこにいるのかもわからない。そういう出会い系アプリやバーなんかも知っているけど、それって何かこなれた人達と言うか、いわゆる陽キャの人じゃないと無理だろう。それに三十過ぎて地味で綺麗でも可愛くも無い私なんかじゃ需要も無い。

 だから私があそこに行くのは仕方ない事なのだ。


 その日、私は仕事で大失敗をやらかしてしまいひどく落ち込んでいた。

 原料の液卵を台車に乗せて運んでいた所、勢い余ってひっくり返してしまったのだ。一ケース十キロ入りの容器を四つ乗せていたため、計四十キロもの卵液をぶちまけてしまい工場長からはひどく怒られ、始末書を書かされる羽目となった。掃除をしている時の惨めさと言ったら言葉に表し難く、もう死んでしまいたいとずっと考えながら涙目で床を拭いていた。

 それでも二年ここで働いていた事が考慮され、現場を去らずに済んだ。一緒に働いているパートさんや派遣の三浦さんなんかは慰めてくれたけど、明日からどんな顔をして出勤すればいいのかわからない。何もかも捨てて逃げてしまいたかったけど、そうなると次の仕事が決まるまでの貯金も無いので生きていけない。ここに住めない。つまりはリオンちゃんと会えなくなってしまう。

 家に帰ってからしばらく情けなくて一人で泣いた。それは仕事でミスをしたというのももちろんあったけど、それ以上に逃げる度胸も資金も何も無い私に。いざと言う時のリスク管理一つできていない私に。そしてミスをしたからといい歳して大泣きしている私に。

 私は知っている。他の人なら落ち込みはするけど仕事で取り返そうと泣きもせず、しっかりと踏ん張る人を。しっかりハッキリ大きな声で謝り、怒られを最小限に済ませる人を。やってしまった事は仕方ないとすぐに前を向く事の出来る人を。

 でも私にはそんなの出来ない。難しくない仕事なのに大きな損害を出し、ひたすら落ち込んで自分を傷付ける事しかできない。深い深い奈落の底に、後悔と恥ずかしさと申し訳なさと自己嫌悪の刃がミキサーのように私を削りながら落ちていく。逃げたいとか消えたいとか死にたいとか、そんなのも叶えられずに。ただメソメソ泣くばかり。

 部屋も暗くなって辺りの物が見えにくくなった頃、ようやく涙が枯れた。そこら中に鼻をかんだティッシュが散乱し、私は虚ろな瞳のまま暗い壁をぼうっと見ているだけ。このまま寝ようかな、シャワーも浴びていないし服も着替えていないけどもう何もやる気がしないからとしばらく考えていたけど、不意にリオンちゃんの顔が浮かぶ。

『私、千晶さんと話しているの好きなんですよ』

『千晶さんって知識が豊富だから話すのすごい楽しいです』

『また会ってくれますか』

 あぁ、私を世の中と繋ぐか細い糸はリオンちゃんだけだ。仕事なんて彼女と会う手段でしかない。彼女と会ってお話をするという目的を達成すれば何かしら報われるはずだ。

 私はのそりと立ち上がると部屋の電気を点けてカーテンを閉める。そして財布の中を覗くと、四千円と小銭が数枚。クレカはもう今月使えない。これじゃあ心許ないからと、私は食器棚の裏側に隠してあった家賃分のお金から二万円引っ張る。絶対手を付けてはいけないと今まで決めていた。でも今は私の生き死にがかかっていると言っても過言じゃない。死ねば家賃どころでは無いし、大家さんだって困るだろう。だったら一ヶ月くらいの滞納、目をつぶってくれるはず。

 シャワーを浴びるのもおっくうな私は手櫛で簡単に髪を直すといつもより香水をふりかける。別にこれも高いものじゃない、ドラッグストアで数百円で買った安物。オキニと会うのに雑なのかもしれないけど、今の私にはもうこれで身なりを整えるのが限界だった。とにかく一刻でも早くリオンちゃんに会わないと、魂が死ぬ。

 例の一張羅に着替えると私は『ピグマリオン』に向かった。

 すれ違う人達はきっと私の事を奇異の目で見ているに違いない。会社から帰って泣き濡れて、ロクに化粧も直していない。シャワーだって浴びていないし、髪もボサボサ。人前に出るような感じでも無いし、お店に近付くにつれこんな格好で会うなんてリオンちゃんに失礼なんじゃないかと思ったりもしたけど、もう今更引き返すなんてできない。私は覚悟を決めてエレベーターに乗り込み、二階へのボタンを押した。

「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」

「はい。リオンちゃんと話したいんで、空くまで待っていてもいいですか?」

 快く承諾してもらい、顔見知りのキャストの子にお酒を作ってもらう。余裕が無かったのでお礼だけ言って彼女にはおごらず、私は静かに飲み始める。疲労とストレスと空腹でアルコールを入れると胃がきゅうっと締め付けられる感じがした。彼女は接客中らしく、少し離れたところで中年の男性と話している。あぁ、いつ見ても美しい。腰までの黒い髪は艶があり、大笑いせず静かに微笑むその姿はこうしたお店に似つかわしく無い程に清楚。どうして私の周りにはあんなに綺麗な人がいないのだろう。あんな人がいれば私の人生、もっと彩り豊かになれるはずなのに。

 いやでも、仕方ないよね。綺麗な人は派遣で工場勤務なんてしないだろうし、もっと自分を輝かせる場所で煌めいている。世界が違うのだ。一見平等をうたっているけれど、目に見えない階層が確かに存在していて、下層で生きる私はお金を払って上の世界を垣間見る事しかできない。今までの人生の積み重ねの結果なのだから。

「お待たせしました。千晶さん、こんばんは」

 虚ろな眼差しでお酒を飲んでいると、ふと頭上から挨拶された。待ち望んでいた声に反応して顔を上げると、リオンちゃんが私を見て微笑んでいる。あぁこの笑顔だ、この顔を見るために私は生きている。彼女に会うため、辛い現実を何とか投げ出さずにいられる。私は嬉しくて微笑むけど、それはきっとぎこちなかっただろう。だって気を抜けば泣き出してしまいそうだったから。

「何だかいつにも増してお疲れ気味ですね」

「うん、ちょっと仕事でミスしてさ。何もかも嫌になっちゃって。あぁごめん、辛気臭くて。とりあえずお酒作ってもらおうかな。一緒に飲んでくれる? リオンちゃんが飲みたいもの、一緒に飲みたいな」

 じゃあとリオンちゃんがアプリコットフィズを作ってくれた。ほのかに甘く、サッパリとした酸味で飲みやすい。

「お仕事、大変なんですか?」

「別に、誰でもできる簡単な仕事だよ。なのに大きなミスしちゃってみんなに迷惑かけちゃってさ。情けないよ。ただでさえ取り柄も無いし、仕事だって人並以下。顔も悪いし社交性も無い。恋の一つだってした事も無いからさ、何のために生きているのかわからなくなっちゃう」

 一度口をつけばもう止まらない。誰にも話せなかったネガティブな言葉が後から後から湧いて出る。本当はリオンちゃんにこんな話したくない、でもリオンちゃんにしかこんな事を話せない。

「わかります、私もそう言う気持ちになったりしますから」

 困らせるかなと思っていたのだが、静かにリオンちゃんが私を見詰める。その眼には慈しみがあり、馬鹿にしたり面倒臭がっているようには見えなかった。

「本当に? リオンちゃんほど綺麗で素敵な人でも?」

「もちろんありますよ。落ち込んでしまうとつい周りと比較してしまい、理想の自分やありもしない高さの世間一般と比べちゃったりしちゃいます」

「そういう時、どうしてるの?」

 中空を見上げ、答えを探しているその顔も美しい。顎のラインから首筋がとても綺麗な彼女なので、画になる。やがて考えがまとまったのか、少し残っていたお酒を空にすると優しい眼差しで見詰めてきた。

「ひたすら面白い動画を見たり、可愛い動物の画像を見たりします。気分が乗らないと見ていても辛い時もあるんですけど、やがて辛い気分が薄らいでいくんですよね」

「そっか。笑えばストレスにいいって言うもんね。私さ、こういう話を普段誰にもできなくて、抱え込んじゃうんだ。リオンちゃんにも申し訳ないからと思って普段は言わないようにしてるんだけど、今日はどうしても……。ごめんね」

「謝る事なんか無いですよ、千晶さん。ここは普段出せない自分を出したり、話せない事を話す場所でもあるんですから。それに私、千晶さんのお話しだったらどんなのでも聞きたいです」

 その言葉が胸に刺さる。辛く苦しいって意味じゃなく、優しさで泣き出しそうだ。そうだよ、お金払っているんだもの。それで気を遣い続けてどうするんだろう。ワガママになってもいいのかな。何話しても良いんだよね。だって、何でも聞きたいって言ってくれたんだから。

 私はジントニックをリオンちゃんの分まで頼むと、乾杯した。先程より少し強いからか、より胃が締まる。すごい勢いで酔いが回ってくるのがわかる。だけど今はシラフでいたくない。アルコールの力を借りてでも、自由になりたかった。

「さっきさ私、恋の一つだってした事無いって言ったの覚えてる?」

「はい。でもいい人と巡り合えるかどうかは縁ですからね」

 優しく微笑むリオンちゃんに、違うんだよと心の中で呟く。

「縁とかじゃないの。私ね、女の人が好きなの。恋愛対象が女の人。だからここにも通うようになったし、その中でも特にリオンちゃんが好きなの。ルックスもそうだし、話し方や話題の広さ、心の綺麗さ、何もかもが好き」

 酔い半分、冗談四割、本気一割。それでもリオンちゃんはさすがに一瞬驚いたように目を丸くしたけど、すぐに微笑みを取り戻して私を見詰めてきた。

「好きって言われて嫌な人なんかいませんよ。私も千晶さんの事は好きですから」

 その言葉に思わず色めき立ったけど、頭の片隅でここはそういう飲み屋なんだから真に受けるなとガンガン警告が入る。けど、好きって言われた。だけどそれってお金を払っているからだろう。あぁもう、わからない。

「だからね、普通に生きてきても出会いなんて無かったんだ。好きと言われた事も無いし、そもそもチャンスすら転がっていない。そういうコミュニティも怖いし、出会いを求める意気地も無い。もしかしたらなんて噂のある人がいても、何もできないままだった」

「そうですね、そういうのって怖いですよね。私も使った事は無いんですけど、出会い系とか変な人とか来たら怖いですし、何があるかわからないですもんね」

 欲しい言葉を言ってくれたから、私は思わず前のめりになり大きくうなずいた。

「そうなの。だからここに来て話したり見るだけで満足していたのに、リオンちゃんが素敵過ぎてつい言っちゃった。初めてだったんだよね、人に想いを乗せて好きって言ったの」

 自分で言っていて恥ずかしくなり目を逸らす。けれど目の端に映ったリオンちゃんの顔は歓喜で染まっていた。

「素敵です、その言葉。私もそんな情熱的に想いを言われたのが初めてなので、何だか嬉しくなっちゃいます」

 それから私はぐらぐらに酔った頭でお腹が空いているからとお寿司を頼み、お酒を飲み、気付けば多めに持ってきたはずのお金をほとんど溶かしてしまった。お店を出る直前は上機嫌だったけど、夜風が私の熱を奪い去ると急に冷静さを取り戻す。家賃分のお金まで使ってしまった。その事実に少しずつ青ざめる。

 話を聞いてくれるのも、好きだと言ってくれるのもお金を払っているからだ。金銭でのみのやり取りや関係。心を通わせているつもりでも、店から出ればまるで何も無かったかのように思っているだろう。確かに楽しい夢が見れる、でも夢は夢、簡単に醒める。

 あぁ虚しさばかりがまとわりつく。死んでしまいたい。けれどそうしたら夢さえ見られなくなってしまう。だったらもう、夢を現実だと錯覚するくらい通い詰めればいいのかもしれない。結局お金だとしても、リオンちゃんが喜ぶのならばそれでいい。

 もしかしたらそれが本当の愛として、伝わるかもしれない……。


 告白と呼ぶにはスマートな物では無かった。どちらかと言えばカミングアウトに近かったかもしれない。酔っ払って不格好で、お金の力を使って。それでも人生で初めて自分の口から自分の意志で言えたというのは大きく、幾らかの自信となった。

 それ以上に、私はリオンちゃんに会う事に歯止めが利かなくなっていた。

 告白し、無下に拒絶されないどころかある程度受け入れられたというのが嬉しくて、毎日本当にそればかり考えている。寝ても覚めても、仕事をしていても。以前は週に一度会えば満足していたのだが、今では三日に一度か二日に一度のペースで足を運んでいる。当然お酒もたくさん飲むし、お金も使う。食費は極限まで削り、ほぼ食べないような生活となってしまったけど後悔していない。

 仕事でミスも増えるようになった。頭もぼうっとしているし、体も常に重たい。以前なら怒られて死にたくなった事もあったけど、この時間が過ぎ去ればまたリオンちゃんに会える、慰めてもらえる、そう思えば苦痛でも何でもなくなっていた。私を怒る人達も私を心配する人達も、まるで影のよう。現実感が伴わなくなっていた。

「千晶さん、頻繁に来てくれるのは嬉しいけどその……大丈夫?」

 今日も『ピグマリオン』でリオンちゃんと一緒にお酒を飲んでいると、ふとそんな事を言われた。嬉しいのに大丈夫とは一体どういう事だろう。私は微笑みながら小首をひねると、空腹にアルコールを入れる。炭酸系のやつを飲めばお腹も膨れるから、一石二鳥だと最近気付いたのだ。

「最近顔色悪いし、疲れているみたい。それにあまり言いたくないんですが、お金とかも結構使っているみたいですけど大丈夫なんですか?」

「毎日大変だからね、疲れちゃうよ。でもリオンちゃんと会えるから、それは大丈夫。好きな人と会うって素敵な事なんだって私、やっとわかったの。お金だって大事に抱えていても幸せにはなれない。使うべき時に使わないとね。それより」

 私はグラスを置くと、じっとリオンちゃんを見詰める。

「心配してくれてありがとう。私、そんなリオンちゃんが好きだよ」

 こうして愛の言葉を伝えられるのって、本当に素晴らしい。好きと言うだけで私の心も高鳴るし、満たされる。きっとリオンちゃんも同じ気持ちだろうとその眼を見れば、何故だか悲しそうにしていた。

「私もね、千晶さんの事は好きですよ。でも、無理をしている姿は辛い。ここは楽しく夢を見る場所だから」

「だけどここに来ないと私はリオンちゃんに会えないから、しょうがないよ。それに私は無理なんかしていない。愛する努力をしているだけ」

 拒否なんかされていない、愛してくれているからこそ心配してもらっているだけ。それに今言ったように、ここに来ないと会えない。来ない事には私の恋愛は終わってしまう。誰だって恋愛を成就させるため、頑張るじゃないか。

「そうですか」

 訪れかけた沈黙を嫌うよう、私は次のお酒を頼む。リオンちゃんは静かに頭を下げてファジーネーブルを作ってくれると、私の前に静かに置いた。だがグラスから手を離さない。一体どうしたのかと思って顔を見てみれば、何やら思い詰めたような表情だった。

「千晶さん、私の事が好きなんですか?」

「もちろん。大好きだよ」

「じゃあ、一回だけ店外でデートしましょうか」

 思いがけない申し出に私は目を丸くし、固まる。好きだ好きだとは思っていても、所詮お店の中だけの関係だとばかり思っていた。このお店にはそういうシステムが無いから絶対にそう言う事はできないと思っていたのだが、まさかの申し出。私は返事も忘れ、じっと彼女を見詰める事しかできない。

「ただ、その時はありのままの私で行きます。それでも愛してくれると言うのなら、私も前向きに考えさせてください」

 そう言って微笑むと、リオンちゃんがグラスから手を離した。ありのままとは一体どういう事だろう。考えたってわからない。ほんの少しの怖さがあったけど、でも前向きに考えてくれると言ってくれたから私は笑顔でうなずいた。


 リオンちゃんと交わした約束の日時と場所に私はいた。『ピグマリオン』に近い最寄り駅の改札口、そこに夕方六時半に会おうと言う約束。仕事を終えた私は急いでそこに向かうが、楽しみ過ぎて約束の三十分前に着いてしまった。キョロキョロと辺りを見回すけど、それらしい人はいない。人通りが多く人の入れ替わりが激しいので、私は壁際に避難してぼうっと待つ。

 私服のリオンちゃんは一体どんな感じなのだろうか。やっぱり清楚なのだろうか、それとも案外ストリート系とかかな。お嬢様系でもゴスロリでも地雷系でも、リオンちゃんなら似合いそう。いや、思っているより地味なのかも。でもあんなにも可愛い顔立ちや雰囲気、隠しきれるものではない。

 私は改札口の方をじっと見る。ここを指定してきたからには電車で来るだろう。どうっと押し寄せる人波の中にきっとダイヤのような輝かしい人がいるはずだ。そう思いながら何度もそこへ目を遣るけど、見当たらない。

 すると不意に反対側、改札口ではなく階段方面からトントンと肩を叩かれた。

 私はもう一気に嬉しくなり、満面の笑顔で振り返る。あぁ、待ち望んでいたリオンちゃんに違いない。一気に鼓動が高鳴り、気持ちが沸騰したかのように高揚する。そして振り向いた先に見えたのは黒いキャップをかぶり、うつむきがちな姿。その姿は私が振り返るのを確認したのか、ゆっくりと顔を上げる。

「私ですよ、工藤さん」

 そこにいたのは会社の後輩である三浦さんだった。黒いキャップに柄物のシャツと青いジーンズ姿。リオンちゃんじゃ無かった事にガッカリした私はあからさまに溜息をつき、肩を落とす。

「なんだ三浦さんか。私ね、今待ち合わせをしているの。だから折角だけど」

 そこまで言うと三浦さんがくつくつと小さく笑い始めた。人の話を聞かずに笑い始めるなんて失礼な人だなと不快感を溢れさせた目で見ていると、三浦さんがじっと私の顔を見てきた。

「ほんと、気付かないんだから。鈍いにも程がある」

 彼女は笑いを止めない。私は不快感の中に、ある種の奇妙な妄想が浮かぶ。でもそれを認めたくなかった。ありえなかった。だって、似ても似つかない。

「何? 一体何の用なの?」

「私ですよ、リオンです。千晶さん、こんばんは」

 その名前が出た途端、私は目を大きく見開き、口元を手で押さえた。ガールズバーに通っている事は三浦さんも知っているけど、その名前を出した事は無い。それに今、彼女から聞こえた声は確かにリオンちゃんの声。普段はマスク越しだし、声も多少低い。でも確かに聞き覚えのある声と言い方だった。

「嘘……何で……?」

 三浦さんはくすっと一つ無邪気に笑うとじっと私を見詰めてきた。

「幻滅しました? それはそれでかまいませんよ」

「え、だって髪の長さも違うし。いやそもそも、なんであそこで働いてるの?」

 動揺が収まらない。私は何度もじろじろと彼女を見る。背格好は言われてみたら似ている。でも髪の長さが明らかに違う。リオンちゃんは腰まであるけど、三浦さんは肩までしかない。艶も違う。

「髪はウイッグで変えているんですよ。化粧だけじゃあれなんで、身バレ防止のためです。私、奨学金の返済もあってあまりお金が無いから、夜も働かないとならなくて。あのお店、結構稼げるんですよ」

「なら昼だってあんなとこで働かなくても」

 夜職で稼げるならば、昼間なんて別にあんな地味な所で働かなくてもいいだろう。あの美しさと気遣いがあれば、もっともっと稼げる場だってあるはずだ。

「元々、人と話すのはそんなに向いていなくて昼職の方が性に合ってるんです。でも、あのお店でウィッグかぶってメイクして、リオンちゃんでいると色々できるんですよ。それに夜の方の稼ぎばかりあてにしたくないですし」

 何だかもう、眩暈がしてきた。確かに工場で会って話す三浦さんは特に社交的と言うわけではなく、私以外の人とはそんなに話したりしない。リオンちゃんだって別にお喋りなキャラじゃないけど、それにしても日中とのギャップがあり過ぎてまだ同一視できない。

「何でじゃあ、私に正体を言おうって思ったの?」

「だって工藤さん、破滅しそうな感じしたから。そういうお客さんたくさん見てきたの。ただまぁ、知り合いというか昼職の先輩にそんな風になって欲しくなくて。ずっと我慢していたんですけど、昼も夜も段々辛そうで」

 何かも知られていたんだ。日中仕事もできずにヘマばかりしている私も、夜に女の子相手に浮かれてレズだと告白した私も。会社で決して見せなかった私を全部知っていたんだ。知った上で三浦さんとしても、リオンちゃんとしても接していたんだ。

 血の気が引き、私はもう何も言えなかった。

「とりあえずここで話すのもなんですし、お腹も空いたんでご飯食べに行きましょう」

 もう主導権は彼女が握っていた。私は心ここにあらず黙ってうなずくと、三浦さんの後をついていった。そうして駅から近いハンバーグ屋に入る。ここは私も好きな場所だけど、今は正直喉を通る気がしない。

「いやー、最初に接客した時は焦りましたよ。もうビックリして、どんな風に話せばいいのか軽くパニックになってましたもん」

「そうは見えなかったけど」

「いや本当ですってば。ポロっと共通の話題をしたらどうしようかとか、工場の話をされている時とか、結構ドキドキなんですよ。でも工藤さん、話題の幅が広いから何とか誤魔化す事が出来て。あ、でも私もスポーツ観戦は好きなんですよ。これは本当に」

「そうなんだ」

 食事が運ばれる前も、運ばれてからも三浦さんはよく喋る。対して私はどうも素っ気なくなってしまう。だって会話をしていても楽しくないから。でもそれは仕方ないだろう。私は今日、リオンちゃんと会えるものだとばかり思っていた。けれど蓋を開けてみれば今話しているのはリオンちゃんじゃなく、三浦さんなのだから。

 姿も違えば話し方も違うし雰囲気も違う、おまけに昼間会う三浦さんと違って今はどこかテンションが高い。それは完全にプライベートだからだろうか、それと私の秘密を知っているからだろうか。女の人しか愛せないという私の大きな秘密を。

 気持ち悪いと思われているのか、この行為は同情なのだろうか、一体何なんだろうか。

「ところで工藤さん、この前相談された付き合うって事なんですけど」

 すっと三浦さんがフォークとナイフを置くと、じっと私を見詰めてきた。

 きた。ゆすられるのだろうか、それとも馬鹿にされるのだろうか。そう思い私は心を身構え、見えないようぎゅっと自分の太もも辺りを握る。遠い昔、秘密を知られた時に気持ち悪いとか散々言われて以来、人間不信になって絶対守り通そうとしていた秘密。それを知られてしまったからにはまた傷付くんだ。

「実は私もそうなんですよ。いわゆるレズってやつ。だからよかったら、お試しで付き合ってみません?」

 あっけらかんと思っていたのと別の事を言い出したので、その言葉が何を意味するのか私にはすぐに理解できなかった。

「え、今なんて?」

「だから私も出会い無くて、淋しいんですよ。工藤さんもお相手いないみたいですから、どうかなって。私も別に工藤さんならまぁ、許容範囲ですし」

 言ってることが理解できなかった。軽いのだ、彼女の言葉が。私がずうっと抱えていた悩みなんかまるで無いもののようにとらえ、あっけらかんと喋っている。だから私は何を言っているのかやっぱり理解できず、ぽかんと固まってしまった。

「あれ、それとも私じゃ嫌でした? それならそれで別にいいんですけど」

 少し淋し気な表情を浮かべた三浦さんに私は首を大きく横に振った。

「あ、いや……その、じゃあよろしく、お願いします」

 色んな事が頭を駆け巡り、様々なものが心の天秤に乗った。いわゆる社内恋愛は面倒だとか、でもこうして好きと言ってくれる人は他にだいないとか、今まで三浦さんに対して恋愛感情を抱いていなかったから大丈夫なのか、でも彼女はリオンちゃんになれる……。

 ぎこちなく答えた私に対し、彼女はにこりと笑う。清々しく、明るかった。

「じゃあ、これからよろしくお願いします。あ、でもこれは他の人に秘密でお願いします。お店も来てもいいですけど、あまり使い過ぎないように。お酒なら一緒にプライベートで飲みましょうよ。そうだ、なんならこの後飲みに行きますか。大丈夫です、今日は全部おごるって決めていたんで」

 あまりの展開に頭がついていかない。いや、心が一番ついていっていない。だって彼女は単なる会社の後輩で、恋愛対象として今まで見ていなかったから好きになる理由がわからない。タイプだとかタイプじゃないだとか言う以前に、そもそもそんな風に見た事が無いからわからないのだ。幾ら私がレズだからと言っても、出会う人全員を見定めているわけじゃない。好きと言われて悪い気はしないけど、でもまだそこしか好きになる糸口がない。こんなので本当にいいのだろうか?

 そんな相手があのお店でずっと恋してきたリオンちゃんだと言われても、もう何が何やら。テンション高く喜ぶ姿に対し、私は冷静と言うか気持ちが上向きにならないまま愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 三浦さんが次に連れて行ってくれたお店はニ十席ほどのイタリアンバルだった。割と活気があり、テーブルの感覚も若干離れているからかそれぞれがそれぞれの世界に没入しているみたいだった。

「ここ、お店の終わりにたまにキャストの子と行くんですけど穴場なんですよ。値段も手頃ですし、美味しいんです」

「あぁ、確かにそんなに高くないかも」

 メニューに目を落とすが、確かにそうかもしれない。とりあえず二人とも梅酒サワーを注文し、軽くつまめるものを頼む。しかし、普段お店では私があれこれおごっているのにここではおごられるなんて、何だか良くわからない。巡り巡って私のお金なのかな?

「あまりこういうの訊くのはよくないのかもしれないけど、他のお客さんともこういう事をしているの?」

 まず一番最初に浮かんだ疑念を思い切ってぶつけてみた。付き合うと言ってくれたものの、正直他の人と仕事とは言えこういう事はして欲しくないと思っていたし、何よりリオンちゃんがそんな事をしているだなんて信じたくない。

「いえ、しません」

 けれど三浦さんはキッパリと否定し、安心させるよう微笑みかけてきた。

「確かに誘われる事はありますし、何なら結構多いです。でも一度も行った事はありませんよ。私自身そこまでしたくないですし、したいって思える人もいませんでしたから。あくまであの場でお話しをしたりお酒を飲んだりするだけです。連絡先の交換だってした事無いですから」

「なるほどね」

 すっと私がお酒に口をつけると、三浦さんが嬉しそうに笑うのが目の端に映った。

「あ、もしかしてそれって嫉妬ですか? だったらなんか嬉しいかも。私、実は工藤さんの事を結構前からいいかもって思っていたんですよ。結構顔もタイプですし、酔ったら甘えてくるとことか」

「そうなんだ」

 うわぁ、恥ずかしい。やめて欲しい。顔はともかく、酔った姿なんて散々見せてきた。普段の私に見合わず大きい事も、ベロベロ酔っ払って好きと言ってとねだった事も。けれど私はそれらの感情を押し殺し、静かに飲む。恥ずかしがれば今の三浦さんにまた、燃料を投下するみたいで嫌だった。

「んー、なんか元気無いみたいですけど疲れちゃいました? 最近体調悪そうでしたし、もうお開きにします?」

 ふと彼女のテンションが落ちて、やや真顔気味に私を見てきた。心配そうな、不安そうな眼差し。深く考えなくてもわかる、私が会話にノッていないからだ。私だってこんな対応をされたら嫌になるだろう。でも、それには理由がある。誤魔化す事だって出来るけど、その眼を見ていると本音を言わないといけないような気がした。

「いや、そういうわけじゃない。ただその、恥ずかしい話だけど付き合った事無いからどうすればいいのかわからなくて」

「あー、なるほど。じゃあその、工藤さんさえよければ形から入ってみます? 例えばタメ口とか、下の名前呼びとか」

 どれも今までほとんどした事が無いので、できるかどうかわからなかった。けれど、そうする事によってより親密になれるのかもしれない。そうすればきっと私の心も変わるかもしれないと考えれば、自然とうなずいていた。

「恥ずかしいけど、そうしようか。私、本当に慣れていなくて変な感じになるかもしれないけど、それは許して」

「大丈夫、心配しないで」

 さっそくタメ口になった三浦さんに、慣れているなぁと思わずにはいられなかった。

「それで、私の事は恵里って呼んで欲しいな。いいよね、千晶さん」

「そこはさん付けなんだ」

 苦笑する私に恵里はあっと口を押え、恥ずかしそうに笑う。

「そうだよね、ごめん。それで呼び慣れていたから。千晶、でいいかな。あっちと区別するために」

「いいよ、私もそっちの方が嬉しいかも」

 嬉しそうに喜ぶ恵里を見て、私も少しだけほっこりとした気持ちになれたけどまだまだ高揚感と呼ぶにはほど遠い。こうして大人になってから初めてタメ口だったり下の名前で呼ぶと言う特別な事をしていても、やっぱりリオンちゃんとは違うんだという冷めた思いが去来していたから。


 それでも私は私なりに愛そうと思った。だって今まで求めていても手に入らなかった恋人というものをこうして初めて得られたのだから。でも恋人らしい事って何をしていいのかわからない。いやもちろん知識としてはある。デートしたりキスしたり、その先だって。でもそんなの恥ずかしいし、どのタイミングで持ち出せばいいのかわからない。

 恵里からそういったことを言い出したり誘ったりする事は今のところなかった。だから私達は仕事の時は今まで通りだったけど夜になればメッセージを送り合ったり、彼女が空いている時に食事をしたり飲みに行ったりするくらい。それだって一週間が過ぎたけど、食事や飲みなんて一度しかしていない。

 そもそも日中も夜も働いている恵里は忙しそうだった。

 恋人がいて、その人は私の事が好き。いなかった時にはあれほど恋焦がれていたものなのに、いざその状態になっても私の心は昂らなかった。むしろ一緒にいて話していても物足りなさや虚しさばかりを抱えるようになり、どうすればいいのかわからなくなってしまっている。いない時は孤独で苦しんでいたのに、いたらいたでどう接すれば良いのか困っているなんて私の身勝手だろうか。それともみんなこうなのだろうか。

 ある日私は仕事を終えて家でだらけていた。夕食もスーパーで買った半額のお弁当で済ませ、何するわけでもなくスマホをぼんやりと見ている。それは恵里と付き合う前と同じ行為。特に趣味も無い私はただそうしているだけ。

 そしてあの時と同じように、今もまた満たされない。

 一体何が不満なのだろう。そばかすのある顔だろうか、馴れ馴れしい話し方だろうか。気遣いはあるだろうけど、それでも今までの私の悩みや不安を一切共有できなさそうな態度だろうか。別に私はタチでもなくネコでもなくリバなのかもしれないし、相手に求めるものもどちらでもいい。しいて言えば相手がタチだったらいいなくらいなのだが、そういう服装でも雰囲気でもない。マニッシュかフェミニンに振り切れて欲しいのだが、恵里はいたってノーマルな感じ。それも結構地味。

 大きな不満と言うものは無いけど、好きになる決定的な要素もまだ無い。付き合っているうちに何か変化があるのかと思っていたのだが、まだそれが何かわからないまま。このまま付き合っていて、何があるのだろうか。この先、好きになれるんだろうか。

「会いに行こうかな」

 恵里はお店に来てもいいと言っていた。頻度や金額が高くなければいいのだろう。恵里と付き合っているからこそ、リオンちゃんにまた会いたかった。会って何が違うのか確かめたかった。

 ……いやきっとそれすら、言い訳なのかもしれない。

 私は起き上がるとすぐに支度をし、家を飛び出した。


「いらっしゃいませ」

 一週間ぶりに訪れた『ピグマリオン』は何だか懐かしい感じがしつつも、やはりその雰囲気から高揚してしまう。どことなく妖艶な雰囲気と活気ある感じが好きだ。私はカウンターに案内されると、さっそくレンさんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、千晶さん。何を飲みます?」

 美しい金髪を揺らしながらレンさんが挨拶すると、私はジントニックを注文する。あぁ、本当にここは天国だ。右を見ても左を見ても美しいキャストがいて、私を心地良く出迎えてくれる。手早くお酒を作ってもらうと、私はレンさんにも同じのを奢る。

「わぁ嬉しい、ありがとうございます。今日もあれでしょ、リオン目当てでしょ。わかるんだよー、雰囲気が違うんだもん。ちょっと嫉妬しちゃうな」

「うん、そんなとこ。でもレンさんも綺麗だから話していて楽しいよ」

「ほんと? あ、でもこれはリオンに秘密にしておくね。あの子あぁ見えて割とやきもち焼きなんだよ。可愛いよね」

 ちらっとレンさんが右の方へ視線を向ければ、リオンちゃんが他のお客さんの相手をしていた。相手は中年の男性。私と変わらないように接客している姿に仕事だとわかっていてもモヤッとしてしまう。それを目ざとく気付いたレンさんがにやりと笑った。

「ふふ、千晶さんも同じだね。でもそれでいいと思うよ。そう言うのが可愛げなのかもしれないよね」

「可愛げを前面に出して許される歳でも顔でも無いけどね」

「そんな事無いよー。千晶さん、自分で気付かないだけかもしれないけど可愛いんだから。よく自虐しているけど顔だって別に悪くないし、むしろ私は好みだけどなぁ」

 真正面から真顔でそう言われ、つい恥ずかしくなり私はグラスに口をつける。本当にここにいれば私の欲しい言葉を幾らでも与えてくれるのが嬉しい。普段生きていてもこんな言葉、かけられた事が無い。

「あ、リオン変わるみたいだから私も変わるね。じゃあまた飲もうね、千晶さん」

 そう言うなりレンさんは私の前から去り、入れ替わるようにリオンちゃんが私の前に立った。いつもと変わらない美貌、雰囲気。お互い正体を知っているものの、私にはやっぱ恵里だとは思えない。そしてリオンちゃんもまた、一切それを感じさせなかった。

「こんばんは千晶さん。何か飲みます?」

「じゃあスクリュードライバーを一緒に飲もう」

「ありがとうございます。では作りますね」

 丁寧に頭を下げ、すぐにお酒を作る。その眼差しも姿勢も言葉遣いもなにもかもが美しい。艶のある髪の毛に透き通るような肌、切れ長の目に淡く色づいた唇。それを見ているだけで私の心が燃え上がるのをハッキリと感じる。

「じゃあ乾杯」

 すっとグラスを上げると、それが乾杯の合図。そうして飲むお酒はとにかく美味しくて、恵里とプライベートで飲んでいる時よりも美味しく感じる。

「お仕事は忙しいんですか?」

 知っているくせに。そう心中笑いながら、私はこれまた合わせるようにうなずく。

「年間通してあまり波が無いからね、いつも忙しいよ。何のために働いているんだろうって思う時もあるけど、ここに来るためなのかもね。リオンちゃんに会えたら、そういうの一気に吹っ飛ぶよ」

「ありがとうございます。でも、何だか恥ずかしいですね」

 わずかに頭を下げ面映ゆそうに笑う彼女がとても愛おしい。

「けれど支えと言うのは大事ですもんね。私、結構色んな所に分散しているんですよ」

「へぇ、例えば?」

「好きな野球のチームの勝利、好きな選手の活躍、朝の占いだったり天気だったり。でも、こうして千晶さんとお話しできるのが一番の支えかもしれません」

 静かに、けれど嬉しそうにそう言うリオンちゃんに私の心はもう鷲掴みにされた。きっと私はだらしなく頬を緩ませ、にやけている。でも隠す気はなかった。だって嬉しいんだもの。誰が何と言ううと、どう思われようと、幸せはここにあるのだから。

「ほんと嬉しい事言ってくれるよね。もうね、リオンちゃんのその言葉で嫌な日常全部忘れてお釣りがくるくらい。リオンちゃん、大好き」

「私もですよ、千晶さん」

 もう今の私にはその裏の恵里が見えなかった。ただ目の前の美しいリオンちゃんが笑って私を好きだと言ってくれる、それが全てだった。お酒が無くなれば注文し、目の前で作ってくれる。一緒に飲めば喜んでくれ、これでもかと感謝してくれる。こんな美人が私にへりくだっている。あぁもう最高。気持ち良すぎる。

 結局一時間延長し、六杯ほど飲んだ。少し飲み過ぎてしまったけど、お店を出て夜風に当たっても罪悪感は生まれない。むしろ火照った身体を冷ましてくれて、それがまた人生楽しいと思えた。

 あぁやっぱりリオンちゃんと飲むのが楽しい。世界で一番、幸せな気分になれるなぁ。


 それからも私は恵里と時間を見つけては映画に行ったり食事をしたり、たまにお酒を飲んだりして親交を深めた。最初の頃に比べて緊張とかはあまり感じなくはなったけど、でもまだ何の進展も無い。キスはおろか、手すら繋げていない。そして、恵里と付き合っている楽しさというのもまだ見えないまま。

 でも『ピグマリオン』でリオンちゃんと会ってお酒を飲むのは楽しかった。素直に甘えられたし、話したい事も話せるし、たくさん笑える。そして恵里もお店に来ることについては何も言わなかった。一度気まずくなり謝った事があるけど、彼女は微笑みながらかまいませんよと言ってくれたのだ。

 頻度こそ一時期よりは減ったものの、私はガールズバー通いをやめられずにいた。


「あの、今日はうちで飲みませんか?」

 仕事終わり、恵里にそう言われた私は思わず目を丸くした。というのも今までお互いの家に行った事が無かったから。私も別に誘おうと思わなかったし、そのために部屋を片付けるのも面倒だったので言い出していなかった。そして別に恵里の家に行きたいとも思わなかった。行きたいと思う以上に面倒だなと思っていたから。

「え、いいの?」

 だけど思えば恵里から何らかのアクションを起こしたのは付き合ってから初めてだったのかもしれない。だから余計に驚いたし、あらぬ妄想すら考えてしまう。でもいざそうなった時、上手くできるのだろうか。何の経験も無いけど、されるがままというのは年上としては微妙な感じだろう。

「はい。と言ってもお互いこのままってのはさすがになんで、六時半に高塚駅の改札口で会いませんか」

 スマホを取り出して時刻を確認すれば、午後五時十分。急いで帰ってシャワーを浴びれば間に合うだろう。そうまでするのは面倒だなとやっぱり思ったけど、こうして誘われたら恵里の家がどんな感じなのか少し興味が出てきた。

「わかった、じゃあその時間で。遅れそうなら連絡するね」

 そう言って別れると私は気持ち足早に家に帰り、急いで支度する。念のためにと少し可愛い下着を身に着け、以前気紛れで買ってからほとんど使っていない香水をふりかける。スカートはさすがに恥ずかしかったのでジーンズとシャツで、普段通りの印象を与えようと装う。

 そこまでして、私は思わず苦笑してしまう。あぁ期待してるんだって。

 恵里にしっかり期待している自分がおかしかった。気持ち悪いとまではさすがに思わないけど、あまり好きでもない相手の家に呼ばれて何かあるかもしれないと口臭を念入りに手入れし、爪をチラッと確認する私に苦笑いしか出てこない。でもやっぱり付き合っている以上はそう言う事だって含まれるよね、と。

 高塚駅の混雑はピークを越えていたからか、かなり緩和されていた。改札口付近は人もまばらで、誰かを見つける事もたやすい。約束の時間の十分前に到着すると、既に恵里がいた。水色のブラウスにクリーム色のスカートと普段あまり見ない格好に、彼女もきっと同じ思いなのかもと思えば自然と笑みがこぼれた。

「お待たせ。恵里、可愛い格好だね」

 そう言うと恵里は笑みをこぼし、少しだけ顔を赤くした。

「千晶にそう言われたの、初めてかも。ところでご飯はまだだよね?」

「あ、うん。急いできたから」

「じゃあ丁度良かった。簡単な物なら作るよ。お酒ももう買ってあるから」

 駅を出てまっすぐ彼女の家へと向かう。道すがら二言三言話したけど、特に内容も無い話だった。ただ無言だと変な緊張をし、耐えられなくなりそうだったから職場の嫌な社員の悪口を少しだけ。そうこうしていると大きな通りから住宅街の中へと入れば、すぐに恵里があそこだよと示してくれた。二階建ての、いかにも安そうなアパートだ。

「ごめん、ここでちょっと待ってて。すぐ準備するから」

 玄関前でそう言うと、恵里は中へと入って行って私は外で待つことになった。

 築年数五十年は過ぎていそうな、古めのアパートは周囲からもやや浮きかけている存在になっていた。壁もひび割れ、オートロックとは無縁のここは若い女の人が住むには防犯上の観点からもやや不安が残る。私も人の事言えるような場所では無いけど、さすがにもう少しだけは立派な場所だ。

 上ってきた階段だって鉄さびが酷く、手すりをつかもうって気にはなれない。これは部屋の中を見ずとも大体の想像がつく。ほんの少しだけ期待や気持ちが萎えたけど、でもここまで来た以上は引き返せない。

 ……にしても、遅いな。

 部屋の片付けでもしているのかと思ったけど、それにしてももう十分は経っている。よほど普段から汚いのだろうか。それとも今日私を誘おうって、急に決めたのだろうか。もう少し計画性のある子だとばかり思っていたけど、そうでもなかったのかな。

「お待たせしました、どうぞお入りください」

 ガチャリとドアを開けて出てきたのはリオンちゃんだった。

 切り揃えられた前髪と腰まで伸びた艶のある髪、そばかすを全て隠した綺麗な肌、お店のように黒のベストに白いシャツ、真っ赤なタイトスカートじゃなくて先程までの恵里の格好だけど確かにそこにいるのはリオンちゃん。私は驚き固まっていると、スッと手を引かれたのでそのまま勢いで家の中に入る。

「こんなお部屋で申し訳ないのですが」

「あ、ううん、いいの。ありがとう、わざわざ」

 家の中はイメージ通りだった。古ぼけた木造の壁に褪せたフローリング。それを隠すようにカーペットが敷かれているけど、それも少しけば立っている。壁にはカレンダーがかけられているだけで、他には何も無い。狭い台所が見え、奥にはシングルベッドが置かれてある。カーテンこそピンク色で女の子らしいが、物が少ないからかおよそ若い女の子の部屋には思えなかった。

「まずは何か飲みますか? と言ってもお店のような品ぞろえとまではいきませんが」

「じゃあお任せで」

 私はもう満面の笑みでうなずくと、リオンちゃんが冷蔵庫から何やら瓶を取り出して手早く作ってくれる。あぁ、お店なんかじゃなく完全にプライベートで私のためにお酒を作ってくれている。この古ぼけた部屋もリオンちゃんの部屋だと思うと、味わい深い。それに当たり前の話だけど、彼女の匂いが充満している。幸せだ。胸がこれ以上ないくらい早鐘を打っている。

「どうぞ、テキーラサンライズです。今、おつまみ出しますね」

 お酒と共に事前に用意していただろうクラッカーの上にクリームチーズをのせたおつまみを座卓の上に出すと、リオンちゃんはクッションを用意してそこに座るよう促してきた。私が脇にバッグを置いてそこに座るなり、リオンちゃんも向かい合うようにして正座する。

「ではさっそく、乾杯しましょうか」

 すっと差し出されたグラスに私もグラスを差し出す。そしてお店では決して行われないグラスの縁をカチンと合わせた乾杯をした。それがもう特別に思え、私はきっと目も細めていたのだろう。

「そんな嬉しそうな顔、お店でもなかなか見れませんね」

「だって、プライベートでリオンちゃんに会ってるんだよ。嬉しくないわけないよ。お酒もおつまみも美味しいし、幸せ。あぁもうリオンちゃん、好き。リオンちゃんも私の事好きだから家に呼んでくれたんだよね」

「そうですね」

 そう言いながら静かに深くうなずく仕草に私はもう完全にやられ、天を仰ぐ。

「あー、もうそんな事言われたら幸せ過ぎて死んじゃう。愛してる、リオンちゃん。誰よりもだよ」

 満面の笑みでお酒を飲もうとグラスに手を伸ばす。オレンジの爽やかな香りとテキーラの豊潤な香りが混ざり合い、幸せの味がした。私はもうニヤニヤを抑えきれず、そのまま一緒にリオンちゃんと飲もうと彼女の方を見れば、ぎょっとして固まってしまった。

 リオンちゃんは表情を曇らせ、つうっと涙を溢れさせていた。私はその涙の意味がわからず固まっていると、ぽろぽろと彼女の両の目からとめどなく涙が流れ出す。そして悲し気な眼差しを涙目で私に向けると、すっとウイッグを外した。その下から現れたのは肩までの髪の毛。艶はあるけど、先程までのものじゃない。

「別れましょう。千晶の心を満たせるのは私じゃなく、あのお店のリオンなのだから」

「あ……」

 涙でメイクが崩れていくその姿を見て、私はようやく自分の愚かさを目の前につきつけられたような気がした。そしてとっさに慰めの言葉も謝罪の言葉もなにもかも、出てこなかった。ただ猛烈な罪悪感、やってしまったという取り返しのつかなさだけが心を占める。

「ごめん、その」

 どんどんとリオンちゃんではなく、恵里が現れる。マスカラも取れ、涙の下からうっすらとそばかすも見え始める。そこにもうリオンちゃんはいなかった。

「ごめんなさい、今日はもう帰ってもらえますか。一人にさせて」

「でも」

 私は腰を浮かし、何とかしようと言葉を探っている途中だった。

「出てって」

 突き刺すような強い拒絶の言葉に私の心は一瞬で凍った。ざあっと血の気が引き、もうまともに目も合わせられない。

「ごめん、本当に」

 そう言うと私はバッグを持ち、逃げるように外へと出る。錆びた鉄の階段をガンガンガンと激しく音を立てて駆け下りると、振り返る事も無く駅へと走った。でもすきっ腹にお酒を入れたせいなのか、百メートルもいかないうちに息が切れ、目の前が滲んで気持ち悪さで立ち止まると、その場にしゃがみ込んだ。

 馬鹿だ、私は本当にどうしようもない馬鹿だ。私は一体何をしているんだ。ずっと恵里は私を好きでい続けてくれたじゃない。私の欲求を飲み込み、束縛もせず、笑ってくれていたじゃない。なのに私は恋愛経験も無いくせにその言動が軽いだの悩みが無いだのって勝手に思って楽しませる事もせず、好きになる努力もしなかった。心のどこかでどうせ軽い女だからと思っていたのかもしれない。惚れたのは向こうなのだから、と。だから軽く見ていたんだろう。挙句リオンちゃんに会えたからとはしゃいでしまった。

 あぁそうだ、私はずっと恵里その人ではなくてリオンちゃんになれる人だからと思って付き合っていた。一方的なワガママの押し付けをしているくせに上から目線で私の事が好きなら付き合ってあげる、なんて思い上がっていた。どこかでリオンちゃんを愛せば恵里も愛する事になるだろうとたかをくくっていた。

 だから泣かせた。あんな涙、リオンちゃんなら流さない。いつも明るく接してくれる恵里もまた、きっと流さない。それだけの事をしてしまったんだ。本当になんて馬鹿なんだ、私は。今更悔いたって、取り返しなんかつかないのに。

 私は路上でうずくまり、そのまま泣いた。声を押し殺して泣いた。道行く人はゼロではなく、足音や雰囲気も感じたけど嗚咽や涙を止められなかった。そして誰一人、大丈夫ですかなんて言ってくれない。わかってる、ここに至ってまだ甘い考えを持っている自分がどんなに愚かなのかって。そんな自分だからこそ愛されないどころか、愛する事すらできないんだって。

 今この自分をみっともないとか思わなかった。格好悪いとか世間がどう思っているかとか、そんな所まで考えが及ばなかった。ただひたすら、自分の愚かさが恥ずかしかった。恵里もリオンちゃんも泣かせてしまった自分がとにかく恥ずかしかった。


 翌日以降、恵里が私に話しかける事は無かった。あれだけやり取りしていたメッセージの交換すら、一切行われなくなった。私も気まずくて軽々しく謝れないなと思えば声もかけられず、この針のむしろすら受け入れるべき罰だと思って距離をおいた。

 ずうっとその間、罪悪感が私をむしばむ。寝ても覚めても、夢の中ですらも苛まれ続けている。図々しいけど、恵里と離れてわかる淋しさと彼女の思いやり。どうすれば彼女がまた私の方を向いてくれるのか。また好きになってくれるのかずっと考えているけどわからない。

 ……いや、嘘だ。もう答えなんて出ている。言うべき事も、やるべき事もわかっている。でもそれを認めるのが怖くて、それをしてしまうと本当に何もかも失いそうで動けない。でもやらないときっと私はこれから誰にも愛されないし、誰も愛せない。それが成功したとしても、失敗したとしてもだ。

 あぁ辛い。思えば私、ずっと逃げてきた。自分の実力を認める事も努力する事も、優しくされる事すらも。受け入れるのが怖かった。自分がここまでの人間だって、大した人間にもなれないままなんだって認めたくなかった。漫画や映画の主人公みたいにもっとすごい人間なんだって、そんなありもしない希望にすがり続けていた。

 でもきっとみんな、そんな思いなんてとっくに通り過ぎて自分と向き合っている。そうして自分なりの身の丈で誰かを愛し、愛されるようになっているんだ。そんな事すら私、三十一にもなって気付いていなかった。

 今から変われるかな、私……。


 私は今、馴染みのガールズバー『ピグマリオン』の前に立っている。身だしなみは整え、出来る限り綺麗な格好もしてきた。いつもはお店の前に来ると高揚感で胸がいっぱいになっていたけど、今日は違う。どちらかと言えば悲壮感と言うか、緊張感が心を占めている。ビルの二階に充満するむっとした夜の空気を吸い込むと、私はそのドアをゆっくり開けた。

「いらっしゃいませー。お一人様でしょうか? カウンターの方へどうぞ」

 慣れた感じで受付を済ませカウンターに座ると、丁度空いていたのかリオンちゃんがすぐに私の前に立った。彼女の表情に変わりはない。ただいつものように微笑みをたたえ、姿勢良く私を見詰める。

「こんばんは千晶さん。何にします?」

「モスコミュールをお願い。リオンちゃんもどうかな」

「ありがとうございます。ではすぐに作りますね」

 ニコリと笑うと手早くお酒を作る。それは本当にいつもと変わらない仕草のはずなのに、やっぱり寂しそうに見える。泣いているかのよう。当たり前だ、もう私の顔なんて見たくないだろう。

「どうぞ、モスコミュールです。では乾杯しましょうか」

 グラスをかかげ、乾杯の合図。重ねたりなんかしない。そうして私は軽く一口飲むと静かにグラスを置き、真剣な眼差しでリオンちゃんを見た。

「リオンちゃんあのね、私好きな人ができたの。だから私、勝手だけど貴女への好きと言う想い、もうやめるね」

「そうなんですね。それは淋しいですけど、千晶さんが選んだ事ならば仕方ないですね。ちなみに他のキャストの子ですか?」

 ほんの少しだけ淋し気な顔をしたけれど、すぐに微笑みを取り戻すリオンちゃんに私もそっと笑いかけた。

「ううん、会社の子。三浦恵里って言う子なんだ。その子ね、私の事を好きって言ってくれて、こんな私の事も受け入れてくれたの。ただ私が馬鹿過ぎて泣かせて怒らせちゃったんだよね」

 あの日の事が思い出される。目の前のリオンちゃんの姿に浮かれ、恵里の事を見ようとしなかった。そして涙で現れたリオンちゃんの下の恵里の顔。忘れるわけがない。私が過去一番と断言してもいい、取り返しのつかない事。それを思い返せば今も胸を強く引き裂かれるかのよう。

「私さ、恋愛経験が無い事がコンプレックスだったんだ。きっとみんな当たり前のようにしてきたことを三十一にもなってできていない事がすごい恥ずかしくてこじらせちゃって、恋愛に前向きな人って軽いって勝手に思ってたの。そんなわけないのにね。わからなかったんだ、愛されるって感覚。急にそれが与えられたものだから戸惑いつつも、思い上がっちゃってさ。いい歳して本当に馬鹿だよね」

 リオンちゃんは何も言わない。ただ私の話をじっと聞いてくれている。この姿勢が本当に好きだ。でも今は微笑みのその先がどうなっているのか考えると怖い。逃げ出したいくらいだけど、ここで全部さらけ出さないともう私は立ち直れない。

「今更彼女に何を伝えても駄目かもしれない。でも今度こそ本気で向き合ってみたいんだ。相手からしてもらうばかりで私、何もしてこなかった。知らないから、恥ずかしいから、怖いからってずっと受け身だった。でもそれじゃ駄目だよね。だから今度は一歩ずつ私の方から向かおうと思うの。それでまず、リオンちゃんに別れを告げようと思ったんだ。だって、浮気は駄目だよね」

 胸が苦しい、恥ずかしさと後悔で張り裂けそうだ。喉も乾く。私はグラスに手を伸ばそうとしたけれど、我慢した。誤魔化したり逃げたり、そんなのばかり。今くらい、黙って相手の言葉を待とう。お酒に逃げるなんて、今はこらえよう。

「ねぇリオンちゃん、私今度こそ上手くいくかなぁ」

「……それは多分、難しい道かもしれませんね」

 優しく、でもハッキリとそう言われた私は頭がぐわんと揺れ、心が凍り付くかのようだった。手足が冷たくなり、胸がえぐられる。でもきっと、その通りかもしれない。あれだけの事をしておいて今更また付き合って愛して欲しいだなんて、虫が良すぎる。

 目の前が暗くなりかける私の視界の片隅で、リオンちゃんがグラスに手を伸ばしたのが見えた。

「ただ……本気の気持ちや言葉ってのは人を動かす力があると思いますよ」

 コトリとグラスを置くリオンちゃんが私に微笑みかける。私はいつもの癖でこういう時に相手の言動の裏を考えようとしたけど、やめた。ただ素直に受け取る夜も必要だろう。

「そうだね。じゃあもう今度こそ、精一杯伝えてみようと思う。私、恥ずかしさもあってちゃんと伝えられていなかった。対等に話していたつもりだったけど、全然できていなかった。今度こそ、ちゃんと向き合ってみようかな。やっぱりさ、好きなんだろうね。朝目が覚めた時、一番に考えているんだもん。どうなのかなって」

「上手くいくといいですね」

「ありがとう。そしてさようなら、リオンちゃん」

 私はぐいっと半分ほど飲むと、優しく寂しく微笑むリオンちゃんに一つ笑いかけてから席を立った。賑やかな店内で注がれる静かな視線を感じていたけど、後ろは振り返らなかった。そうしてしまうときっとまた、何かあれば戻ってしまうような気がしたから。それはこれからの愛の不純物。

 それに今の私はリオンちゃんじゃなく、恵里を抱き締めたかった。あの無邪気に笑うそばかす顔を今度こそ私の愛でちゃんと笑わせたい。もっと色んな話をして夜遅くまで語り合いたい。服だって一緒に買うのもありかもしれない。お互い地味でダサいから。

 入店して出てくるまで三十分もしなかったように思う。それでも夜の風は温度も湿度も変え、火照った私の熱をどこかへと運んでいく。どこからか良い匂いがする、どこからか煙草の匂いがする、生ごみの匂いもする。そんな雑多な空気が私を包み、ほの暗い夜へと消えていく。私は道の端に寄り、メッセージを入力する。

『大事な話があるの。時間が出来たら連絡が欲しい』

 送信が終わると私は夜空を思わず見上げた。月すらまともに見えないネオンの闇。私は前を向くと、ゆっくりと駅へ歩き始める。一杯も飲んでいないのに身体が熱い。あぁ、大人になって初めて燃えているかのようだ。アルコールなんかじゃなく、自分の意志で。

 返事が来るのは日付をまたいでからだろうか。その間どういう結末になるのか苛まれ続けるのは私の罰。彼女がメッセージに気付くまでの間、きっと色んなお客さんを相手にする。微笑み、笑い、時に親身になってわずかに心を寄せるだろう。それを詳細に思えばやるせなくなる。こんな事、今まで考えなかったのに。

 あぁ、好きになっちゃった。もうこんなにも、好きになっちゃった。

「千晶」

 不意に後ろから大声で呼ばれたので、びくりと体を震わせつつ慌てて振り返る。そこには恵里がいた。小脇にバッグを抱え、肩を上下させて荒い呼吸を繰り返しているので走ってきたのは誰の目からも明らかだった。ウイッグも外し化粧も落とし、そばかす面の恵里は苦しそうにしながらも私をギロリと見ている。

「恵里……お店、どうしたの?」

「できるわけないでしょ、あんな事言われて」

 涙目になっているのは走ってきた苦しさからか、それとも溢れる感情からか。それでもしっかりと私を見詰め、強くそう言葉をぶつけてくる。

「あれからすぐ、着替えてメイクも落として追いかけてきたの。もう、どんな気持ちで私が聞いていたと思ってるの?」

「ごめん、本当に。ごめん」

 私はもう泣きそうな顔で近付くと、強く恵里を抱き締める。道行く人が私達を見ているのがわかる。時折うわぁすごとか、マジかなんて声が聞こえるけどもう私は止まらない。恵里も驚いて引き剥がそうとしていたが、やがて諦めたのか今は脱力している。

「何よもう、自分勝手なんだから」

「わかってる。ごめん」

「今までしてこなかったくせに、こんなみんなの前で」

「それもごめん。でも、今は離したくないの」

「それにあんな事お店で言って。私が何も言えないのわかってるのに、ずるいんだから」

「うん、本当にそうだね。でもどうしても言いたかったの。伝えたかったの」

「もう本当にさぁ、本当に……ずるいよぉ、こんな、こんなの」

「ごめんね。私、慣れてないから」

「言い訳ばっかり」

「そうだね。それで傷付けてばかりいた」

「私、ずっとずっと好きだったんだよ。愛して欲しかったんだよ。無理矢理にでも笑っていたんだよ」

「気付くの遅れてごめんね。やっとわかったんだ、私」

「私を見て欲しかったの。私だけを、ちゃんと」

「うん、もうこれからは恵里だけ見るよ。約束する」

「あぁもう、ずるいよぉ。もうそこまで言われたら、何も言えないじゃない」

 わんわんと泣き出す恵里を私はひたすら抱き締めていた。

 泣きすがる彼女が、伝わる体温や息遣いが、溢れ出る言葉や感情が愛おしくて私はより強く抱きしめる。その全てを感じる度に好きだという思いが溢れる。そしてこの姿を見ていると、付き合ってからの恵里が無理をしていたんだってのがわかる。私のため、頑張っていたんだと。

 だから私はキスをした。衆人環視の中、泣きじゃくる恵里に。涙の味がしたキスはやがて私を抱き締める力を増した。その熱を夜風が奪おうとしたけれど、どうやら叶わなかったみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガールズバーで恋をして 砂山 海 @umi_sunayama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ