第02話:ギルドホールの囁きと震える手
――冒険者の
冒険者の
(この
彼はさりげなく左手を握りしめる。
他の者たちより進行が早いのは、少年時代に父の欠片狩りを手伝った代償だった。高い報酬には、それだけのリスクがつきものだ。
(最後の
(女神が堕ちたとか、天が砕けたとか、そんな話もあるらしいが、本当かどうか誰も知らねえ。確かなのは、この痛みと、魔族の血から作る薬だけが効くってことだ。)
彼は壁一面を埋め尽くす巨大な掲示板へと向かった。そこは忘れられた願いと、
冒険者たちが、擦り切れた革と錆びた
何人かの顔には、彼自身のそれと同じ、微かな震えと青白い疲労の色が浮かんでいた。冒険者稼業につきものの病だ。欠片に近づき、穢れた獣を狩るたびに、その身に蓄積されていく毒だった。
アーレンに仲間意識はない。彼はただ、仕事を狩りに来た。
その視線は、
「……やっと戻ったか、アーレン。どっかで骨でも埋めたかと思ったぜ」
ざわめきの中から、乾いた馴染み深い声が届いた。
ライラだ。
彼の近くで掲示板にもたれ、腕を組んでいる。日に焼けた藁のような金髪が背中まで流れ、実用一辺倒の革鎧を着ていても、そのしなやかな身体つきは隠せない。
浮かべた半笑いから、彼女自身がそれをよくわかっているのが
アーレンはすぐには彼女を見なかった。希望よりも、もはや習慣で掲示板に集中していた。
「金になる仕事はあったか?」
彼は
「それとも、いつものネズミ退治かカブ畑の見張りか?」
「さあね……」
彼女は長いため息をつき、掲示板から身を起こした。
「
彼女は言葉を切り、横目で彼を見た。
「また《
その言葉は、こぼれた油に落ちた火花のように、アーレンの中で危うい感情を燃え上がらせた。
(
その名だけで、腹の底に冷たい石が転がる。
――約15年前。
煙。
忘れられない悲鳴。
己の判断ミス。
13歳の
罪悪感が、馴染み深いマントのように重くのしかかっていた。掲示板の縁に置いた左手が、一層ひどく震え始める――
その時、ライラが驚くほど強く彼の震える手首を掴んだ。素早く。だが、ぶれない力で。
その感触が、荒波の中で打ち込まれた
アーレンは驚いて彼女を見る。ライラは視線を受け止め、いつもの半笑いが一瞬だけ読み取れない感情に和らいだ。だが、それはすぐに消えた。
「ろくな仕事も見つからねえうちに、あたしの前でくたばる気か。その震え、ちっともマシになってないじゃないか」
彼女は答えを待たずに続けた。
「でもさ、あんたがいない間に、面白い話を聞いた」
声をわずかに落とす。
「東の峠の話。巡回隊も避けてるってさ」
「巡回隊が?」
「ああ。奴らが言うには、空気が
アーレンは、はっと顔を上げた。
(巡回隊が避ける場所……ヤバい。ヤバいってことは……金になるかもしれねえ!)
危険な希望と深い絶望とが、火花のように彼の中で
「静かすぎる?」
彼は繰り返し、手の震えも忘れていた。
「他には?」
「たぶん、ただの神経過敏と悪いエールのせいよ」
ライラは肩をすくめ、その動きで川石が揺れた。
「でも……気になった。ここの掲示板を眺めてるよりはマシだろ」
(東の峠か……)
アーレンは思考を巡らせる。
(……他の奴らにも話してみるか。この話に乗る価値があるか、確かめないとな)
彼はライラに短くうなずいた。
「『
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