第11話 中央戦線
「じゃあ、私は私用があるので失礼するよ!」
と、恋人とのデートへ向かうオルディオンが部屋から去るまで五人は頭を下げ続けていた。
パタン、と扉が閉じ真っ先に声を上げたのは――
「ふん! よもや、貴様がこちら側に着くとはな!」
「お久しぶりです、クヴァシル閣下。ご体調の程も大変良いようで――」
「くだらん猫かぶりは止めろ。貴様に気を使われるのは逆に屈辱だ!」
まだ『オーディーン』が同盟国だった時に、クヴァシルは戦場で何度かぶつかった事からもマーリンとは因縁深い。
「だが、貴様が有能なのも事実だ! ふざけた指示を出してみろ! 即座に陛下に進言し、追放してくれるわ!」
「そうか。ならば『統括総司令官』の立場上、慣れない敬語は控えさせてもらう」
「ふん!」
「御三方も、この形で宜しいか?」
「私は問題ありませんわ」
「こちらも」
「ガ、ガンズ総司令官に変わり、対応致します!」
「結構――」
フレイ、デリング、海軍副総司令官の返答も聞き、次にマーリンは戦況図を見る。
「戦線の状況は?」
「五つの基地の内、二つが落とされた。挟まれている一つも今攻撃を受けて陥落は目前だ」
「装備は
「『
クヴァシルとフレイは前線からの情報を語る。
「『強化兵士』の戦力比は1人で10人……いえ、30人分と言っても差し支えがないのです」
「それが、敵の歩兵に混ざってやって来るのだ! 【ファング】が居たときは防衛戦もかなりの戦力を要した!」
「軍事費も相当飛びましたけどね」
【ファング】は最前線でも特に目立つ『強化兵士』だった。その戦闘力は一般兵では騎馬でも止められず、武勇は『連合軍』を鼓舞。
『オーディーン』は『強化兵士』のトールにて迎撃を図った。
「中央第1基地にて【ファング】を誘い込み、トールと精鋭部隊で仕留めた! 基地はくれてやったが、【ファング】が居なければ『連合軍』による基地攻略に必要な戦力は跳ね上がる!」
「愚策だな」
「なにぃ!?」
マーリンはクヴァシルの説明を聞いて、バッサリ切り捨てる。
「いくら強いとは言え、【強化兵士】一人に犠牲が大き過ぎる。加えて『連合軍』は一騎当千の【ファング】を失い、逆に士気が上がってるだろう。その勢いがそのまま戦況に現れている」
東の『連合軍』は【ファング】の死を冗長とする事で兵士の勢いを促した。
マーリンは【ファング】の事は聞いている。主に彼女が現れる戦線は退却戦か突破戦。雪崩のように迫る敵を粉砕する様は『オーディーン』には畏怖を、『連合軍』には勢いを与えた。
その背を見た兵の多くも【ファング】を讃えていただろう。故にソレが卑劣な罠で失われたと嘯かれれば士気が上がるのは必然だ。
「今だけ勢いがついているだけだ!」
「いや、この勢いは止まらない。物理的な壁にぶつかれば溜飲も下がるだろうが、『強化兵士』によって戦線は開き続けている」
【ファング】の死と言う“火種”は『強化兵士』による戦況優位性も相まって、今や“大火”となり中央戦線を焼き尽くそうとしているのだ。
「前線を3ブロック下げる」
「! 本気で言っているのか!?」
マーリンの言葉に場の全員が言葉を失う中、クヴァシルだけが声を張り上げる。
「正確には、横幅3キロ、深さ10メートルある窪みのラインよりも後方だ」
中央戦線には緩やかな坂道となる窪みが走っており、ソレは大陸の端から端に続いている。
言葉通りに前線を下げた場合、基地は全て奪われ、中央戦線から『連合軍』が雪崩れてくるだろう。
「もし、退却するとなりますと、負傷者を警護しつつ搬送用の乗り物も用意する必要がございますわ」
「その間、前線を抑える戦力も必要ですね……はい。一体いくらかかるか……」
「中央戦線にはもう時期“大河”で隔てられる」
マーリンの突拍子もない発言に今度は全員が言葉を失った。
「この窪みに水が溜まる。退却が遅れれば前線は孤立する」
「バカな!」
ダンッ! とクヴァシルは再度拳をテーブルに叩きつける。
「そんな記録も報告も欠片も存在していない! デタラメを言うな!」
「内陸ですし……にわかに信じられないですわね」
「あり得ないですよ、実際。そもそも水は何処から来るのです?」
「地下だ」
マーリンは戦況図にも描かれている窪みを指差す。
「現地を見に行った。この窪みは中央前線への物資保管庫としても利用しているみたいだが、地面が湿って来ている。中央第五基地にも確認した。井戸の水が最近増えて、溢れそうだと」
マーリンはバサ、と色落ちした地図を場に広げる。
「古くから近くに住む住人に話を聞き、古い地図を借りてきた」
地図は相当に年季が入っており端は破れ、地域名称の文字はかすれている。しかし、窪みに当たる部分には確かに大河になっている。
「この中央戦線は干ばつが目立つ地域だが、かつては青草の生い茂る草原だったそうだ。その為に必要な水源がここにある大河だった。100年のサイクルでこの窪みは水枯れと潤水化を繰り返している」
「それが、間もなく来るだと!?」
「前回の水枯れから既に110年は経過しているそうだ。恐らく、多くの人間が踏み鳴らした事で正常な噴出が抑えられてしまっているのだろう。相当な水分が真下には溜まっているハズだ」
「もしかして……噴出したりします? 爆発的な勢いで……」
「可能性は高い。このまま退却せずに戦闘を続ければ中央戦線の『オーディーン軍』は全滅する」
大自然の時限爆弾の炸裂が間近に迫っていた。後、どれくらいの時間が残されているのか流石のマーリンにも分からない。
「本当なんだな?」
クヴァシルが確認を取る。戦線を窪みまで後方まで下げた場合、基地と窪みの両方を『連合軍』に利用され、戦争は更に泥沼化する。
「ああ」
「……ふん! 突拍子もない話だが、戦線の大移動となればワシが中央戦線に顔を出さなければ始まらん!」
クヴァシルは部屋を出て行った。マーリンの言葉を信じ、中央戦線の退却指揮を直接執る為に現地へ向かったのだ。
察しのいいクヴァシルの行動にマーリンは、手間が省けると古い地図を丸めた。
「フレイ救護総長、デリング軍事財務長官、貴方達にも現地に来てもらう。卓上では見えぬ事も多い。是非その目で戦地を確認し、これから戦争に勝つにはどうすれば良いのかを今後の為にも見定めて欲しい」
「私は元より戻るつもりですわ」
「搬送車と共に戦線に行きますかね……」
退却には一分一秒を争う。一人でも多くの兵士を退却させる為にも即時命令を下せる最高位の者が現地にいる方が動きは早くなるのだ。
「海軍に関しては追って指示する。今は【海神】ガンズ・バルムンク総司令官の捜索を優先するように」
「ハッ!」
「総司令官はどの様に動くのです?」
フレイの言葉にマーリンは丸めた地図を肩にぽん、と担ぐ様に持つと、
「地図を返し、最前線で退却指示を出す。デリング軍事財務長官殿、馬の乗り継ぎを手配してくれ。最速で中央戦線の砦に向かう」
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