第10話 知名度が足りない

「それで、これからはどうするんだ」


 食事を終えて、皆で鍋や食器を片付けながら今後の計画を天那が聞いてくる。


「食事には毎回『大地蟷螂デアボリカ』の卵黄を含める。ハハハ、そんな顔をするなよ天那。オカズの一品としてだ。卵黄ばっかり食べてると逆に栄養が偏るからな」

「あたしは別に良いけどー」

「わたしもなのです」

「卵黄は定期的に手に入るモノじゃないし、安定した食料供給が必要になる。次は『大地蟷螂デアボリカ』の体液を使う。容器をありったけ集めてくれ。水を入れられる物が良い」

「…………」

「ハハハ。天那は周りの見張りを頼むぜ」


 食器を片付けて双子と一緒に『大地蟷螂デアボリカ』の死体の関節部を切って体液を桶や瓶に入れる。死体が乾燥してしまう前になるべく使っておきたい。


「司令官さん。残った卵黄は保存しないの?」

「今からやるよ」


 オレは比較的綺麗な樽をゴロゴロ転がして場まで持ってくると、立てて容器に移した体液を中へ入れさせる。


「半分より少し上くらいまでで良いぞ」

 

 オレが樽の体液漏れ箇所を適当な干草で塞ぐ間、二人は指示通りに体液を六割ほど入れてくれた。


「そんじゃ、卵黄を入れるぞ」


 リレーの様に受け渡しをして、オレが樽の中に沈める様に丁寧に投入。全部で23個。1個で鍋いっぱいのスープが作れるとして1日で2個使う計算にすると10日以上は賄える。これなら、三人の健康面や体力も戻るだろう。


「よし、全部入ったな。そんじゃ蓋をして。天那、ちょっと良いか?」


 オレは城壁の上から森を見る天那を見上げて呼んだ。ハハハ。露骨に嫌そうな空気を出してやがる。


「……なんだ?」

「樽を運んでくれ。日影に置いとかないといかん。オレは勿論、サンダーとエクエルにも無理だからよ」

「………………」

「天那ー、お願い」

「天那さん……」

「天那、オレ達は命を――」

「だー! わかったわかった! クソ……」


 何やかんや言いつつもやってくれる天那は軽々と抱えて暗所で比較的に涼しい貯水樽の近くに置いてくれた。


「クソ……ベタベタする……」


 樽に付着していた体液が着いた腕を天那が洗ってる間にオレたちは再度、容器を持って『大地蟷螂デアボリカ』の死体へ。


「汲んだら裏手の菜園に持っていくぞ」

「菜園に?」

「どうするのです?」

「撒くんだよ」


 と言うわけで、枯れた菜園の土に体液を撒く。運ぶ際にすれ違った天那も気になったのか様子を見に来るく。


「なにやってんだ?」

「栄養価のある液体を土地にな。『大地蟷螂デアボリカ』は高い戦闘力を持つ一方、死体は荒れた土地に恵みをもたらす。体液が大地の肥沃を促し、幼体が安定して生まれる土壌になるんだ。『大地蟷螂』の名前はここから来てる」

「へー」

「『大地蟷螂デアボリカ』さん……ありがとうなのです」


 天那に返した答えだったがサンダーとエクエルも聞いていた。


「世界には色んなヤツが居て、その命一つ一つに生きてから死ぬまで意味がある。意味のない命なんざ一つもないのさ」


“命の“価値”を決めるのは生者の役目だ。そして、その“意味”を決めるのは私達の役目だ”


 師匠の言葉はいちいち頭に残るねぇ。


「ねーねー、一つ聞いても良い?」

「なんだ?」


 体液を組みに戻る際にサンダーが聞いてくる。


「司令官さんって何処から来たの?」

「ハハハ。なんでそう思う?」

「なんか……あたしが今まで会った人で司令官さんみたいな人、誰もいなかったから」

「わ、わたしも気になるのです」


 最後尾を歩く天那も耳を傾けてる感じだな。


「何処からって言うよりもオレの師匠が少し特殊な人でな」

「司令官さんのお師匠さん?」

「【海神】【魔拳神】と並ぶ称号――【軍神】を持つマーリン・K・マクリエルだ」


 と、結構派手めに師匠の名前を紹介したワケなのだが。


「エクエル、知ってる?」

「始めて聞いた」

「天那は?」

「知らね」

「ハハハ」


 師匠、知名度が足りてませんよ?

 まぁ、20年くらいはオレの育成が中心な生活で、世界各地へ歩いて、終わったら引きこもりしてたしな。






 時を同じくして――

 『オーディーン』首都『アズガルシア』では軍部会議が開かれていた。


「本当に忌々しい! 『強化兵士』如きに戦線をかき乱されるなど!」


 陸軍司令の老将クヴァシルは中央戦線からの報告にて形成されている戦力図を見て拳を叩きつけた。

 西と東を二つに割る中央戦線は若干、東側が寄せて来ている。


「戦線での怪我人が増えていますわ。救護総長として医療物資の提供を求めます」


 救護総長フレイは戦線から一時首都まで帰還し、直々に支援物資を直談判に来ていた。


「いやー、フレイ救護総長の意見もわかるよ、うん。でもねー、やっぱりお金がかかるんですよ。ほら、国内の反感が生まれたら背中にも警戒しないとじゃん?」


 軍事財政を一挙に担う部署のトップ、デリングは申し訳なさそうに眼鏡を動かす。


「侵略速度が早い分、後ろの統一化が遅れててね。それに海上の様子も聞きませんと……」


 チラリと視線を向けると、出席している海軍司令官に目を向ける。


「ガ、ガンズ総司令は南部の調査に出向いたきり、今だ消息が掴めて居ません! 現在、海軍総出で捜索している所です!」

「ふん! 南部は海獣の巣窟だ! 東の奴らに越える技術はない!」

「ガンズ提督の事ですから生きて帰っては来るでしょうけど……」

「うーん。海路の確保が厳しいならコストがねぇ……」

「やぁ! 諸君! 王命を持ってきたよ!」


 その時、会議室の扉が開き、威厳ある雰囲気の男が入室する。


「! 陛下――」


 クヴァシルが胸に手を当ててお辞儀をし、他二人も最上位の礼にて頭を下げる。海軍副司令官はあまりの格の違いに礼をするだけで言葉が出ない。


「顔を上げてくれたまえ! それじゃ王命が聞こえないだろう?」


 腰に手を当てて、ファハハ! と笑うのは――

 『オーディーン』皇帝、オルディオン・R・クファドである。

 四人は顔を上げ、戦況図を見るオルディオンの言葉を待つ。


「『強化兵士レギオン』か……全く持って嘆かわしい。すまない、諸君。多くの命が流れているのは我が父――前王の愚策のせいだ」


 頭を下げるオルディオンに三人は慌てて言葉を繋ぐ。


「止めてください陛下!」

「陛下のせいではございませんわ」

「そうです。陛下は間違いであったと証明なされてます」

「ふっ、これからも苦労をかけるだろう。だが、分かってほしい。世界統一は狂っていく世界を止める行為だ! どれだけの血が流れようとも、最後は私が全てを背負う!」


 力強くそう宣言するオルディオンに光のようなカリスマを感じ取る三人は不思議と頭を下げていた。


「そこで、戦況の打開策を持ってきた。入りたまえ」


 オルディオンの言葉に、コツ……と靴音を鳴らして入ってきたのは金髪の美女だった。


「彼女はマーリン・K・マクリエル君だ! 今日より彼女には『統括総司令官』として戦争を終わらせてもらう。陸軍、海軍、その他戦争に関わる全ての軍事項目は彼女の指揮下に入る! これを王命としてここに宣言するよ!」


 眼帯に羽根の髪飾りを着けた金髪の美女は三人に対して一礼する。


「マーリン・K・マクリエルです。此度より、『統括総司令官』を拝命いたしました。皆さん、宜しくお願い致します」



※マーリン

https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16818792435482720787

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