第9話 解体処理
オレは城壁の上から水平線に、やぁ、と持ち上がってくる朝日を見る。
いやぁ、やっぱり1日の始まりに立ち会うのは良いね。心が引き締まる。崖の中に住んで体感時間を鍛えるよりもずっと良い。
「わっ! なにこれ!?」
「お、おっきい蟷螂さんなのです!」
双子姉妹のサンダーとエクエルも建物から出てきた。その後ろから、槍を肩に担いだ天那も欠伸をしながら歩いてくる。
オレは城壁から飛び降り、集めていた藁束の上に背中から着地。その音に三人は注目する。
「よう、おはようさん」
「おっはよう! 司令官さん!」
「お、おはようございます……です」
「ふぁぁああ……」
天那の返事は欠伸か。ハハハ。すると、槍で『
「で、コイツをどうするのか決めたか?」
「ああ。食うぞ」
「え……?」
「た、食べられるのです?」
「本気で言ってんのか?」
戸惑う三人に、ハハハ、と笑ってから説明をした。
「そーそー、その甲皮の間にナイフを入れて、継ぎ目に沿って滑らして見ろ」
「えっと……あ、行けた」
「こっちも取れたのです」
『
「うわっ! なにこの黄色の液体……」
「『
「……味はしないけど」
「『
「さすがに鎌は無理だな。アレは別で使う。後、甲皮も色々と使える。腹は美味いぞ。食感と味は肉に近い」
「お肉……」
「お腹空いてきたのです」
「……」
と、オレ達三人が栄養価の高い体液まみれになっている遠くで天那は槍を担いで距離を置いていた。
「天那ー? どうしたのー?」
「天那さん、お肉だそうなのです」
「いや……ソレは肉じゃねぇ。虫だ! 虫!」
「ハハハ。まぁ、生は見た目からあんまり好む奴はいないからな。ちょっと焼けばお前も食えるだろ」
「…………本当に食うのか?」
「お前たち三人は栄養不足だ。『
「……三日もコレか……」
「ハハハ。基地は穴だらけで安心できない。何が起こるか分からない以上、せめてオレ達は万全じゃないとな」
もし、基地から出なければならない事態になった場合、今のままの体力では旅は難しいだろう。それに、
「サンダーとエクエルは成長期だからな。変に食事を制限すると身長や体格も小さいままだ」
「それは困るわ!」
「なのです」
それでも天那は近づいてくる様子はない。まぁ、周りを警戒してくれるなら解体には参加しなくても良いだろう。
「胴体はどう斬れば良いのかしら?」
「この甲皮の先端を横に動かすと、羽根が出てくるだろ?」
「わ、透明で綺麗なのです」
「コレも後で用途を考える。今は腹を裂くぞ。天那が突き刺した所から開くように後ろにナイフを――」
二人はテキパキと胴体の切り開くと、洪水みたいに流れ出てくる体液をサンダーが被る。うあ゛ー、とふざけてエクエルに飛びつき、エクエルは地面に広がったゼリー状の体液で滑って転んだ。
天那は……ハハハ、いつの間にか城壁の上に登って海を見てるな。
「司令官さん。何かあったよ」
「丸い……半透明な果物みたいなのです」
「お、出てきたか」
腹の解体が進めば自然と遭遇するソレは、『
「それは『
「卵……」
「この『
「『
本来なら卵黄は自分が成長する為に使われる為、秋になるまで体内に現れる事は無い。しかし、5メートル級の『
「……」
「……」
サンダーとエクエルの解体の手が止まる。何を考えてるのか大体わかる。
「いいか? 生きるって事は別の命を奪ってるって事なんだ。オレ達は少なからず他の命に生かされている。なら、オレたちの役目は生かしてもらった命に報いる為に無駄にしない事だ」
「……そうね。そうじゃなきゃ、『
「きちんと全部食べるのです」
すると、ぐ〜、と二人の腹の虫が存在感をアピールしてくる。
「ハハハ。今は腹一杯食べる事だけを考えとけば良いさ」
天那は相変わらず近づこうとしないけどな。
「ったく……ぐちゃぐちゃになるまでやるなっつの」
「楽しかったよ?」
「ご飯、楽しみなのです」
三人はハンニバルに言われて基地の裏手まで行き、天那が解体の時に体液を被ったサンダーとエクエルを基地に貯水された真水で洗う。その際、
“お前らが寝てる間に、裏手に菜園みたいなトコを見つけてな。そこで身体を流してくれ。理由は後で話す。オレは飯作っとくからよ”
「天那も来ればよかったのにー」
「司令官様は教え方も凄く上手なのです」
「いや……俺は今後もパス……」
獣の解体ならいくらでも手伝うが、虫は戦う以外であまり近寄りたくない。
「服は乾くまで、適当なのを着てろ」
「はーい」
「なのです」
基地では殆ど出撃戦闘は無かったので服はそれなりに残っていた。子供用の物は無いのだが、まだ仲が良かった村人がサンダーとエクエルに何着かプレゼントしてくれた物が残っている。
「そうだ、村の皆にもお裾分けしようよ」
「良いアイディアなのです」
「……それはハンニバルと話して決めるぞ。アイツも言ってたろ。まずは自分たちをしっかりしてからだ」
「はーい」
「お腹空いたのです」
「あむっ。美味しぃー」
「はふっ、ふっはっ」
5メートル級の『
「熱いから火傷しないようにな」
味付けに使った調味料はオレの持ち込み。食欲を増進する効果もありサンダーとエクエルにも食べやすい様に味になってるハズだ。まぁ、ハハハ、問題は天那だがな。
「…………」
席に着いた天那にもスープを渡したが10分くらいずっと見つめてるな。
「天那、食べないの?」
「美味しいのですよ?」
「…………」
「天那、オレ達は少なからず他の命に生かされ――」
「ああ、さっきのお前らの会話は聞いてたよ。『夜狼』ナメんな」
ハハハ。天那の性格は何となく分かって来ている。ここで彼女が食事を渋る事が無いようにさっきはサンダーとエクエルに命について語ったのだ。
天那はスプーンで軽く掬う。
「……表面張力が半端ねぇ……コレ、スープじゃねぇだろ」
「腹保ちも良いぞ」
「食べやすいよ?」
「なのです」
「…………」
天那はゆっくり口に運び、覚悟を決めた様に口に含み閉じる。そして、ごくん、と飲み込むと、はぁ……、と一息吐いて、
「何で美味いんだよ。コレ……」
「ハハハ。食わず嫌いは損するぜ」
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