08.野蛮なるオーク転生⑥
「パパ……覚えてる? アタイがパパに貰った最初のプレゼントをぉ」
問われ、テツオの背筋が張り詰め、緊張で全身が強張った。
しかし、想定していなかったわけじゃない。こちらには頼りになる記録官がいる。
[急いでビベンチョの記憶に解析をかけます! ビベンチョと目を合わせながら時間を稼いでください!!]
テツオは心でミカゲに頷き、ビベンチョに優しく微笑んで見せた。
「ああ、覚えている。これでも、まがりなりにも父親だからな」
「言ってみてよ。パパはアタイに何をくれたかぁん」
「まだ取ってあるのだろ? この部屋にあるのか?」
「探してみたらぁ? パパは呪術で失せ物探すの得意だったでしょぉう?」
ひどく疑われている。それか、死んだ父親であると認めたくないか。
テツオは激しく焦るも、平然と肩をすくめて見せる。
「この仮初の肉体に呪術の素養はないのだがな。しかし、お前の疑いが晴れるのであれば、やってみせよう」
言うと、テツオは手を合わせ、ビベンチョに聞こえないように「スゴイナランデルケバブノオミセ」と意味のないうわ言を呟いて部屋を練り歩く。
そうして時間を稼いでいると──ミカゲから朗報が。
[解析完了ッ、情報をテツオさんの脳内に流し込みます!]
情報は瞬時に、テツオの頭に濁流のごとく流れ込む。
まるで忘れていた記憶を思い出すような感触だ。
「ああ、ここか」
テツオはベッドの下に手を差し込み、白く細長い物体を引きずり出す。
──それは人間の遺骨だった。肋骨などを取り払い、綺麗にヤスリをかけられた輝くような背骨。
「ビベンチョ、お前はよく歯と歯の間にゴブリンの手足を挟んでいた。それを見かねて、私がこの人間の背骨で〝爪楊枝〟を作ってやったのだったな」
「パパ……覚えててくれてたんだ」
どうやら疑念は晴れたようで、ビベンチョは感動すらしているように見える。
唯一受けた父親からの気遣い。それを未だに取ってあるということは、ちゃんと心に付け入る隙がありそうだ。
内心でそんな手応えを噛み締め、テツオはビベンチョに歩み寄る。
「ビベンチョ、横暴な独裁と、多くの男たちと肌を重ね続けているのは、私に受けたトラウマが原因なのだろう? 男たちの心と身体を征服することによって、父である私から受けた仕打ちを、払拭したいのだろう?」
よく聞く話だ。親にひどい仕打ちを受けた子供は、むしろよく笑う大人に成長したりする。それは心の防衛として、自分の感情を覆い隠すため、または過去の痛みを拭い去るために。
ビベンチョの場合、父親に兵器として支配され続けた『弱い自分』を払拭するために、強権的な支配を振るって過去を払拭しようする負の連鎖を起こしている。
(人間と変わらない。ビベンチョもまた、傷ついた子供なんだ)
そんな傷があるに違いないとテツオは予測を立て、亡き父親に成りすまして一芝居打とうという算段となったのだが、思った以上に上手くいっている。
しかし、ここからの畳みかけが最も重要だ。
「すまなかった、我が娘よ。お前に殺され、私は悟った。もっとも大事にすべきものが何かを」
「大事にすべきもの……?」
「愛情だ……ビベンチョよ。子供を成すが良い」
しとりと、声音を落としてテツオは告げる。
「私から受けた酷い仕打ち──それを癒すには、子供を産み、育て、愛情を注ぐのだ。自分が受けた傷を自覚した分、子供に優しくしてやるのだ」
優しく語りかけるように言うものの、テツオの心臓は破裂寸前まで打ち鳴らされている。
これは賭けだ。ビベンチョが話に乗ってくれるかどうか。
「アタイが……子供を……?」
何か、咀嚼できない違和感に相貌をしかめるビベンチョ。
まずい、とテツオは額に汗を浮かべる。些細な疑念から一気に否定の方向に天秤が傾いてしまう気配。
「ピンとこぬか? 憎い父の助言を聞き入れられぬか? それとも、夫を選べぬか? 自分が母親になることに疑いがあるか? それとも、やはりまだ肉欲を貪りたいか?」
疑念をむしり取るように、矢継ぎ早にテツオが質問責めにすると、ビベンチョは戸惑いながらゆっくり首肯する。
「男を……今更そう言う目で見れないかもぉ……どうすれば……」
今まで性の道具としてしか見ていない男たちの中から伴侶を選ぶのに戸惑いがあるのか。
ただ、親を殺害した罪悪感か、ビベンチョの瞳に迷い子のような心細さが灯っている。
その反応は、こちらにとってはこの上なく好都合。
「良い方法があるぞぉ!!」
おもむろに天井に向けて勢いよく両手を掲げて見せて、テツオは高らかに宣言する。
「強い
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