第11話

「センセ〜、先輩の様子どうですか」


花蓮さんの声が聞こえてきて目が覚めました。

少し首を動かすと時計が見えます。

もう、1時間目が終わっていました。

休み時間中に花蓮さんは保健室こちらに来たと言うことでしょうか。


もしかして、わざわざ来てくれたのでしょうか。

その考えが頭の中にふと浮かんでくると、顔が熱くなってきました。

……そんなわけないですよね。

ギャルの文化の一部ですよね。

そうだ、そうに決まってます。そう……


「まだ熱が下がらないから家に帰らせたいんだけど、親御さん出張みたいなんだよね」


そうでした。お父さんもお母さんも今日はいないのでした。

どうしましょう。

帰ってから1人ですか……


「ちょっと様子みていいですか?」


「少しならね。起こさないでよさっき寝たばっかりみたいなんだよ」


「そんぐらい分かってますって〜」


足音がだんだん近づいてきます。

カーテンの下の隙間から花蓮さんの学年のカラー、赤色の靴紐が見えます。

ねっ、寝たふりをしなければ。

先生は私が寝ていると思っている。

それに、これで起きてると花蓮さんにバレてしまった場合、会話をする可能性は0ではありません。


会話しただけでは、そう簡単に風邪をうつす可能性は低いでしょう。

しかし、嫌なんです。花蓮さんが風邪をひいてしまうのは。

……違いますね。毎日部活で会いたいだけです。


これは完全に私のエゴです。


シャッ、カーテンが開く音がしました。

コトッ。おそらく浮いていたのでしょう、ベッドの近くにある椅子の足が床に当たった音がしました。


後ろに花蓮さんがいます。

耳が赤くなっていないでしょうか。

起きていることが花蓮さんにバレていないでしょうか。


来てくれたことは嬉しいはずなのに、不安が、心配なことが止むことなく頭の中に積もっていきます。


「先輩、なんで無理してきちゃうんですかね〜びっくりしましたよ」


独り言。私に聞かせるつもりなんてなかっただろうに、それを聞いてしまったことに対する罪悪感。

そして、私に普段言わない花蓮さんの私に対する本心が聞けるのではないかという期待。正反対の感情が生まれました。

混ざることなんてないはずの感情が混ざり合い、名前のつけようがない感情が。


「心配させないでくださいよ、慧理先輩」


心配してくれていた。その事実だけで、なぜこんなにも気だるいはずの体が軽いように感じるのでしょうか。

ギャル語じゃない、普通の言葉遣い。

それもあるのでしょうか。


よくわからない感情になった理由を考えていると、花蓮さんの私の手よりも少しだけ小さい手が私の額に当てられました。

衝撃にあまり、声が出そうになったのを、慌てて抑えました。

夏で熱も出しているから熱いのなんてお腹いっぱいのはずなのに、心地いいです。


「先生、冷えピタが温かピタになってますっ!!」


私、起きてましたけど、花蓮さん。

今の声量で叫ばれたら、寝てたとして私、起きますよ。全く……


「小鳥谷さん、声がでかい。先生今、手が離せないから、張り替えといて」


「先生っ!?」


先生のあまりにも衝撃的すぎる発言に、起き上がってしまいました。

思いもしませんもの。

そして、勘弁してください。流石にそれは……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る