第12話
花蓮さんが何かを言おうとしています。
貼るつもりですよね。
そっ、それは勘弁してください。
「先生、自分でやります」
顔の温度が上昇しすぎて、オーバーヒートしてしまいます。
そしてバレてしまいます。
いくらノリが軽いギャルの花蓮さんでも、ギャル文化には荷が重すぎ……嘘です。
バレるのが怖いだけです。
「嫌です」
「はい?」
私の返事は聞こえていないのでしょうか。
冷えピタをいつの間にか手に持っています。
本当に自分でやらしてください。
本当にお願いします……
「はいはい剥しますよ〜」
私の戸惑いなんて気にしていないのでしょう。
最も簡単に冷えピタを剥がされました。
文字通り、今、目と鼻の先に花蓮さんの顔が今あるのでしょう。
今、目を開けてしまったら、バレてしまいます。
いくらなんでも顔に少しは出てしまうに決まってます。
絶対に目を開けないようにしなければ……
しかし、その覚悟は幼子の作った積み木のタワーのように簡単に崩れてしまいました。
「メガネ外しますよ……先輩メガネ外したら別の種類でビジュが良すぎる……」
発言の内容のせいで、勢いよく後ろに飛んでしまいました。
なぜ、いつもと同じ軽い様子で言ってくるんですか。
「はぁ!?」
花蓮さんのせいです。
なんで、いや、ギャル文化ですよね。分かってますよ。
分かってます。でもそれをいきなり言ってくるなんてずるいです。
「ほら、逃げないでください、貼れませんから」
目が悪い私にはぼんやりとしか花蓮さんを見ることしかできません。
なのに、いつもの表情ってことだけは分かります。
花蓮さんには特別な意味がないですもんね……
ここで逃げたら明らかに不自然です。
逃げてはいけません。
目を瞑って大人しく受け入れようとした、その時、チャイムがなりました。
「あっやばっ次英語じゃん。せんせーに怒られる」
そう言って花蓮さんは私の手に冷えピタを置いて、廊下の方へ飛び出して行ってしまいました。
なぜでしょう、あんなに自分でやりたかったはずなのに、いざ行ってしまうと、やってほしかったという欲望が湧き出てきます。
なんて、わがままで自分勝手なんでしょう。
「ああ、小鳥谷さん授業行っちゃったか、先生が貼るよ」
「はい……」
慣れた手つきで先生が私に冷えピタを貼ってくださった。
花蓮さんに貼られるより、慣れている先生がやったほうがいいのは確実です。
それなのに、やはり花蓮さんにやってもらいたかったと心の中で思ってしまいました。
「熱、測っといて」
片手間に先生から渡された体温計を脇に挟むと、みるみる数値が上がっていきます。
まずいですね……どうやって帰りましょう。
最終的に体温計は37.8を示してしまいました。
本当にどうしましょう。
「ああ、こりゃまずいね。7度ぴったりになったら帰りなさい。寝てたら下がると思うから寝ちゃいな」
先生に促され、再びベッドで寝転びました。
しかし、さっきの出来事を思い出してしまって、目を瞑っても全く寝られません。
花蓮さんの「ビジュが良すぎる」が、何度も何度も止まることなく頭の中で再生されてしまいます。
恋ってこうなのですか……
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