第9話

今日の私は、自分で言うのもおかしな話ですが、なんだか変でした。

合奏の練習中に花蓮さんと視線が合うと、無意識に逸らしてしまいました。

それだけではありません。


花蓮さんが私に対して行うギャル文化に対する呆れがわずかに薄れている気がするのです。

一体私になにが起こっていると言うのでしょうか。


そのせいか、塾の授業もあまり集中できておらず、今日やった内容が全くと言っていいほど頭に入ってきていません。

右耳から左耳、左耳から右耳へと先生の話していることが流れていくようです。

家に帰ったら、必ず復習をしなければ。


駅に向かい歩いていると、聞こえるはずもない花蓮さんの声が聞こえてきました。

つい、好奇心で声が聞こえる方向に歩いていくと、そこには、見たことがない表情で誰かと話している花蓮さんがいました。


話しているのは誰でしょう。

他校の子でしょうか。

年は、おそらく花蓮さんと同い年です。


「久しぶり〜元気だった? 彼氏とどうなの?」


そう言って女子に笑いかけている花蓮さんは、いつも私がみている軽いノリの花蓮さんとは違っていました。

私の中のモヤっとした嫌な何かが心を霧のように覆い尽くしているような気がします。


「距離近いね相変わらず。クラリネット一個分の距離は保ってよ。彼氏とはうまくいってると思うよ」


「よかったじゃん、さすがおしどりカップル〜」


「私の話はいいからさ、レンちゃんはどうなの彼氏とか」


「恋人は欲しいけどね〜気になる人はいる」


その言葉を聞いた瞬間、私は本能的に、自分の心を守るためにその場から逃げてしまいました。



家に帰っても、先ほどの花蓮さんの言葉が頭の中でぐるぐる回っています。花蓮さんの気になる人とは誰なのか。

その問いを自分にしても、もちろん答えは出ません。


それに、あの表情。

私に見せたことがない別の表情。

ギャル語じゃない普通の言葉遣い。なぜ、私にはしてくれないのでしょうか。

……何を言っているのでしょうか、花蓮は私のものではありません。


私はただの部活の先輩。

たったそれだけの関わり。知っているつもりでしたが、私は花蓮さんのことをなにも知りませんでした。


なんで……私は、こんなにも花蓮さんのことを考えているのでしょうか。

ただの後輩。

そうです、ただの後輩です。

そう自分にいい聞かせても、心の奥底でもう1人の自分が違うと叫んでいます。


なんで、こんなにもモヤモヤ、ドロドロ。醜い感情が私の心の中を完全に支配しているのでしょうか。


ノリが軽い、信用できない、頭が悪い、ギャル。それが花蓮さんじゃないですか。

じゃあ……この感情の正体はなんですか。信用できっ………


もし、その花蓮さんの気になる人と付き合うことになったら、おそらく……いや絶対に、あんな絡み方をすることはなくなってしまうでしょう。


……え?""?なぜ、""じゃないのでしょうか。

こっ、これではまるで、ギャル文化に巻き込まれるのを楽しみにしているみたいじゃないですか。


ずっと、ずっと家に帰ってから、花蓮さんのことを考えてしまいます。

なぜ、これでは、これではまるで……


「恋をしたみたいじゃないですか……」


それを発した瞬間、自分の顔が熱くなるのを感じました。

なんで、よりによって、花蓮さんに……同性に、ギャルに……

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