第8話
「まだ部活時間ではないとはいえ目の前に居られると困るのですが」
テストも終わり、日常が戻ってきました。
昨日は部活が休みで、花蓮さんとは会っていないので、一週間以上会ってませんでした。
会ってるかもしれませんが、少なくとも私は気がつきませんでした。
つまり、かなり久しぶりということです。
「あっすいません、拝んでたら用件忘れてました!」
テスト期間を挟んでも、全くこの子は変わってませんでした。
曇りなき眼で、また呆れたくなるような発言をしないでください。
「じゃあ私は演奏をす……」
「ああ!待ってください!テスト返ってきたんですよ!見てください」
漫画などに出てきそうなドヤ顔で、こちらにまるで勝訴を告げるかのようにバッと音を立てて答案用紙を見せてきました。
「先輩に教えてもらったおかげで赤点全教科回避しました!!」
花蓮さんはそう言ってドヤ顔で答案用紙を見せてきます。
嬉しそうなのはいいのですが全て30前半という危うい点数ばかりです。
川上さんの点数を見ている気分です。
安心はしましたが、いつか補習を受ける事になるのでは?と他人事ながら不安です。
「よかったですね」
「ゔっ……先輩の笑顔ガチ女神、
やっぱりテスト勉強の一件は気のせいだったのでしょうか。
この発言を聞いても、変な感情は湧いてきません。
あの日はテスト勉強で疲れていたのでしょうか。
気を抜かないようにしなければ。
気を抜いたらどうなるかわかりませんからね
「秀豊さぁぁん……補習になっちゃったぁ」
川上さんは29点とギリギリ赤点の答案用紙をこちらに見せてきました。
いつかやると思ってましたが、このタイミングはあまりにも悪すぎますね。
これでは大会のクラリネットパートが危ういです。
「川上、じゃあ行くぞ」
半泣き状態の川上さんが、補習の担当であろう英語科の先生に引っ張られていきました。
「わあ……補習なんなくてよかった。先輩、バリ
「なぜ、そうなるのですか……」
あれ……おかしいです。
さっきはなんともなかったのですが、なんだか体がキューとなるような感覚が襲ってきます。
なぜ、なぜですか。詳細まで意味がわからない、軽いノリであるはずの言葉になぜ動揺するのでしょう。
「あっチャンス!」
「練習をしましょうよ……」
抱きつこうとしてくる花蓮さんにクラリネットを押し付け抱きつかれるのを阻止しました。
しかし、私の心にはなんとも言えないモヤモヤ感が残ります。
情なんてものを花蓮さんに感じているのでしょうか。
彼女の所属している属性の文化が全く理解できない中。
「なに目を開いているのですか」
「このマジで天女な先輩を脳内のメモリーに焼きつけておこうとしてます!」
「川上さんが抜けた今、一年生が出る可能性が高いのですから練習をしてくださいよ」
「えっ!? 先輩と出れるんですか!? じゃあ死ぬ気でやらないと!!」
今の私の発言が花蓮さんのやる気の炎に火をつけたのか黙々と練習し始めました。
単純なんですよねこの子。
私も人のことを言っている場合じゃありません。
練習をしなければなりません。
一年生が出るなら、その技術力をカバーできるほどの実力に私がならなくてはなりませんから。
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