第12話「夏休みダイエット大作戦」

 キャンプから帰った翌日も、夏の陽射しは容赦なく照りつけていた。

 セミの声が騒がしい。

 エアコンの効いた部屋での昼下がり、俺はテーブルに食事を並べていた。


「できたぞー。今日はそうめんな」


 リビングのソファでは、ティアナがスマホ片手にゴロゴロしている。

 足をバタバタさせ「いぇーい☆」と返事をしただけで、身体を起こす気配はない。

 リュシアは冷蔵庫から出した冷たい水と、コップを人数分並べ、テーブルにつく。

 チラチラとそうめんを見ながら、箸を揃えて俺を見ている姿は、まるで「待て」と言われた子犬のようでかわいらしかった。

 キンキンに冷えたそうめん。

 レンチンしたお惣菜の天ぷら。

 刻み海苔と白ごま。

 麺類の“すすり方”を教えながら、夏らしい昼食を終えた。


 午後には、俺はゲームを始める。

 リュシアは読書。

 俺の本棚で見つけた古いライトノベルに絶賛ドはまり中らしい。

 ティアナはまたソファに転がり、スマホで動画を観ながら笑っていた。

 同じ部屋の中で、会話もなく全然別のことをしているのに、なんとなくお互いの存在に安心している。

 そんな時間がなんだかめちゃめちゃ心地よくて、俺は夏休みの“何もない”一日を満喫していた。


 そして夕飯。

 ちょっと手の込んだメニューを用意した。

 全宇宙で、これが嫌いな人類はゼロ(※ケンゴ調べ)というメニュー


――とんかつ。


 分厚いロース肉に丁寧に衣をつけ、サクサクに揚げてある。

 すりごまとマヨネーズをちょい足ししたソースをかけた揚げたてのとんかつは、もう凶器と言えた。

 千切りキャベツとミニトマトを添え、彩りも万全だ。


「うまっ! とんかつ優勝~☆」


「調理工程で油に投入したのに、ぜんぜん重たくなくてジューシーで……塩気の強いソースにごまの芳ばしい香りのハーモニーも絶品……です!」


「料理評論家かよ」


 ティアナはもぐもぐと頬をふくらませて、親指を立てる。

 リュシアも箸が止まらない様子で、俺は単純に嬉しかった。

 作った甲斐があるってものだ。


 だが、食後。


「満☆ 腹☆」


 とんかつを二枚平らげたティアナは、食器も下げずにふらふら~っとリビングを横切る。

 そのままソファに倒れ込み、スマホを構えた。


「また寝転がってる……食ってすぐゴロゴロするとブタになるぞ」


「なにそれ~。人類とブタはDNAの構造から違うので、ブタになったりしませ~ん。地球人おもしろ~☆」


 三人分の食器を下げおわり、ライトノベルの続きを読んでいたリュシアも、驚いたように顔を上げた。


「地球人は横になるとブタになるのですか?」


「いや実際にブタにはなんねぇけどさ。ブタみたいに太るぞって意味」


「……なるほど。興味深く、面白い比喩表現です」


 俺はその感想の方が面白いけどな。

 そんなこんなで、また三人の別々で平和な時間が流れる。

 お風呂のチャイムが鳴り、順番に風呂に入る時間になると、風呂場から悲鳴が上がった。


「ひゃあっ!?」

「えっ?! きゃああああっ!?」


「ど、どうした!?」


 慌てて浴室に駆けつけ、脱衣所のドアを開くと――。

 そこに立っていたのは、体にバスタオルを巻いたリュシアとティアナ。


「ユウリさん!?」


「のぞき!? サイッテー!」


「待て待て! 悲鳴が聞こえたから……!」


「な、なんでもありませんからっ!」


 俺は慌てて目をそらし、その場を足早に退散した。

 ……さすがに急に脱衣所のドアを開けてしまったのは、あわてすぎたかもしれない。

 その夜は、二人のバスタオル姿が頭にちらつき、寝付きが悪かった。


「おはよ」


 翌朝、いつものように挨拶をするが、ティアナはすぐに目をそらして、そそくさと部屋に戻る。

 リュシアも「……おはようございます」とだけ言って、和室の方に行ってしまった。


「ちょっと出かけてきますので」


「ユウリは来ちゃだめ~☆」


 用意したトーストも食べずに、二人は連れだって出かけてしまう。

 昼食も夕食も同じだった。

 せっかく用意したごはんを前に、ふたりはちょっと箸をつけただけで席を立ってしまう。


「具合でも悪いのか?」


「いいえ」


 脱衣所に突入したことに怒っているのか、もしかして、俺の料理に飽きた?

 気落ちしながら、俺は料理に今まで以上の工夫を凝らした。

 だが、反応は変わらない。

 もう料理のレパートリーも底をつき始めた数日後、ついに爆発したのは、俺ではなくティアナだった。


「どうして毎日毎日、美味しそうなごはん作るの!? ダイエットしてるのにぃぃぃぃ!!」


「……え? ダイエット?」


「そーだよ! お風呂の鏡でおなかのお肉がぷるんって!」


「わ、私も……ちょっとだけ……」


 リュシアがそっと目を伏せた。


「いや、でもティアナなんか成長期なんだし、気にする必要ないだろ」


「ユウリ、女子の気持ちわからなすぎ!」


 次の日から、わが家はヘルシー志向に切り替わった。

 高タンパク低脂肪。

 味は妥協せず、でもカロリーには気をつけて。

 その努力の甲斐あって、姉妹もちゃんとごはんを食べてくれるようになった。


「ユウリさん。ブタにならなくても、健康には気をつけないといけませんね」


「まぁ、そうだな」


「ティアナは太ってもかわいいけどね☆」


 同じ部屋で三人、顔を見ながら会話を楽しむ。

 それもまた、楽しい時間だと俺は思った。

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