第11話 視線は狂気

「さっきは私のためなんかにありがとう、しのぶ


 私は教室を後にして、小声で忍に語りかける。

 

『当たり前だよ、玲央奈れおなを守るために僕はここにいるんだから』

 

 忍は空中で胡座をかきながらついてくる。

 あの後、教室は重い空気に包まれ、誰もが私のことなんて忘れたようだった。

 そりゃそうだろう。誰だって、今までのトラウマを新鮮に思い出したらそうなるに決まっている。


 すると、急に尿意が襲ってくる。

「ちょっと忍、トイレ行ってくるから待ってて!」

 私は恥ずかしくなり、移動教室に途中にある、旧校舎のトイレへ駆け込んだ。

 

 なんでこんなタイミングで...


 私は心底イライラしながら奥から3番目の個室へ急いだ。

 便器に腰をかけ一息つくと、ふとドアの上の隙間に"視線"を感じる。


 目を向けるとそこには真っ赤に充血した人の頭部と血に染まった手が中からぶら下がっていた––––


 "それ"を認識した瞬間忍を呼ぼうとする。

「しn...」

 次の瞬間、手が私の方へと伸びてきて私の首を絞めた。


〘コロして、ヤル〙

 

 その目は私を睨みつけながら言う。

 その声は私の脳へ直接語りかけてくるように、遠くまでエコーがかかっているかのように重なり合っていた。


「し...の...」


 声が、出ない。

 頭も、働かない。


〘きゃははははははは!!!!〙


 絵に書いたようなおかっぱな髪を揺らしながら、私が苦しむ様子を狂気的に笑っていた。


 プツッ


 次の瞬間、全身の力が抜けた。



 

 

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君の遺した世界を呪う〜守護霊と化した君は怨念が強すぎる!〜 綴否-Tsuduri.ina- @techina

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