第4話 王子のファッションショー
「この子って、このイラストの?」
「そう。、、君がその、盛ったってことは、僕の魅力が足りなかったってことだよね?」
「それは、、違うけど、、」
陽菜が魅力的じゃないなんて、ありえない。
「なら、君が満足できるモデルをしてあげる。
なんなら衣装だって着るよ」
「衣装って、、陽菜が?」
あの“王子”が衣装を着るってだけで、変な妄想が頭に浮かんでくる。
「でも、学校じゃ無理だろ」
「もちろん。学校でそんなことはしないよ」
「じゃあ、どこで?」
陽菜はにっこりと笑って言った。
「僕の家だよ」
「、、へ?」
週末になり、僕はとある家の前で立ち尽くしていた。
インターホンを押す勇気が出ず、気がつけばもう5分も経っていた。
すると、扉が開いて陽菜が顔を出した。
「あれ、冬馬!もう来てたんだ」
「、、陽菜、おはよう」
「おはよう。そんなかしこまらなくてもいいよ。さ、入って」
「お邪魔します、、」
土曜の朝なのに、家の中は妙に静かだった。
「あれ?陽菜の親は?」
「俳優の高崎彰って知ってるでしょ? あれ、僕の父親なんだ」
「えっ、ドラマでよく見るあの、、?」
「うん。最近は朝から撮影だから、ほとんど家にいないよ」
「お母さんは、、?」
「、、もともといないんだ。僕を産んだ時に亡くなったって、聞いてる」
「あ、、ごめん、、」
「いいよ、気にしないで。それより、部屋行こっか」
陽菜、その言い方はないだろ。
そんなふうに言われたら、男は抑えられなくなるって。
部屋に入ると、普段のクールな陽菜からは想像できない、可愛らしい雰囲気だった。
ほんのり甘い香水の匂いが漂っているような気がする。
「ほら、緊張しないで座ってよ」
言われて腰を下ろそうとするけど、視線の置き所に困って挙動不審になる。
「なに? 女子の部屋に来るの、初めて?」
「、、初めてで悪かったな」
いつものように煽られて、少し緊張も和らいだ気がした。
「へえ〜、初めてなんだ」
「、、何か言ったか?」
「いいや。ただ冬馬は、まだまだ女子に慣れてないな〜って」
「慣れるもんでもないだろ」
そんな雑談が一段落したところで、陽菜が本題に入った。
「冬馬って、デジタルで描いてるでしょ? ここでもタブレット一枚で描けるよね」
「ああ、描けるけど」
「じゃあ、私服の僕を描いてみて。今から着替えるから、どの服がいいか選んでよ」
「俺が選ぶのか?」
「当たり前でしょ」
そう言うと、陽菜は耳元に顔を近づけてきた。
「君の好みの服じゃないと、描きにくいでしょ?」
耳に息がかかって、ゾクッとしてしまう。
「じゃあ、いくつか着てみるから選んで」
そして僕は、部屋の外にポイッと追い出された。
するとすぐに、扉が開いて陽菜が顔を出す。
「まさかとは思うけど、、覗かないでよ?」
「のっ、、覗くわけないだろ!」
「だよね〜冬馬、真面目だもんね」
そう言ってまた中に戻っていく陽菜。
でも、ふと違和感がよぎる。
(、、今、肩まで見えたけど、下着姿だったんじゃ、、?)
変な想像をしてしまい、目を瞑って落ち着こうとする。
でも目を瞑ると逆に頭に浮かんでしまい、逆効果だった。
(早く、、終わってくれ〜)
数分後。
「終わったよ〜
、、って、あれ?何してるの?」
僕は階段の踊り場で正座し、壁に飾られた絵を見ながら平常心を取り戻そうとしていた。
「いや、緊張をほぐそうと、、」
「なにそれw、面白いね。さ、部屋戻って」
部屋に戻ると、陽菜は扉を閉めて言った。
「さてと、僕のこの私服、どうかな? 一番のお気に入りなんだけど」
見せてきたのは、Tシャツにダボっとしたズボンを合わせたボーイッシュなコーデ。
「似合ってる。さすが“王子”って呼ばれるだけあるな。それに雰囲気とマッチしてていいと思う」
褒めると、陽菜は少し照れたように笑った。
「でも、なんか、、褒め慣れてない?」
「いや、姉さんの買い物によく付き合わされてたから、その時にね」
「へえ〜、お姉さんいたんだ」
「今はメイクアーティストとして働いててあんまり会えてないな」
「ふ〜ん。じゃあ、次! 君の好きなコーデがあれば、それも言ってよ。描くためでしょ?」
「ああ、分かってるよ」
あくまで絵を描くため。
ただ単に陽菜のファッションショーを見に来たわけじゃない。
それからいくつかのコーデを見せてもらったけど、全部ボーイッシュな服ばかりで、なかなか「これだ!」というものが決まらない。
「さて、大体のコーデは見せたけど、気に入ったのはあった?」
俺は少し迷ったが、思い切って聞いてみた。
「なあ、陽菜って、、スカートとかは履かないのか?」
「えっ、僕が? いやいや、僕には似合わないって」
笑いながら首を振る。でも、その笑顔はどこかぎこちなく見えた。
「俺は、結構似合うと思うけどな」
「へ〜? 君って、スカート履いた女の子が好きなの?」
「いや、俺は“似合ってればそれが一番”って思う派だよ」
「なんだよそれ、ふふっ。、、で、どれが一番似合ってた?」
「最初に見せてもらったやつ。あれが一番よかったと思う」
「オッケー、じゃあ着替えるね」
そう言って、陽菜は再び部屋を出て、また俺を呼んだ。
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