第3話
「そうか。それは大変だったなぁネスト。俺もいつもあの山道を使うが、不死者なんか出たって聞いたのは初めてだぞ」
「そうなんだ。こちらのお兄さんが通り掛かってくれなきゃ、本当危なかったよ。街まで連れて来てくれたり……とにかく今日一日大変お世話になったんだ」
「そうか。お兄さんこのネスト・バルマークとは商人仲間でね。昔からの友人なんだ。助けてくれて本当にありがとう」
夕食の席に呼ばれ青年はいえ、と控え目に頷いた。
「旅人さんなんだ。魔術師らしいんだよ。俺も魔法を見た。いや~。やっぱりすごいね魔術って」
「世界には場所によっては魔術を嫌う場所もあるので、表向きには吟遊詩人、として旅をしてます」
「そりゃ賢明だ。よそ者に冷たい街もあれば魔術を嫌う土地もあるからな。でもこのローディスは交易都市だ。旅人もたくさんいるし、商人の俺たちにとっては旅人は大事な商売相手だ。歓迎するよ。友人を助けてくれた恩もある。この街に滞在する間は、どうかこの俺の宿で心置きなく休んでくれ」
「すみません。とても助かります」
「いやぁ。それにしてもなぁ……まさか南路にまで不死者が出るとは」
「南路にまで?」
「うん。ここより少し北の……エルシドという森があるんだけどね。そこはそのまま北のアレンダール地方まで続く古い街道があるんだけど、どうも最近その森に不死者が出現するらしいんだ。元々行路ではないんだけれど、付近に小さな村がいくつかある。そこで村人が行方不明になったり、変死したりする事件がひどく増えているんだ」
「昔からそうなんですか?」
「昔からっていうかね……エルシドの森には【旧神】を奉る古い遺跡があって、そこで昔多くの人が生け贄にされたとかいう伝承がずっとあるんだよ。俺の小さい頃からバーサン達が近づかないように、とか言い伝えて来た。ま、曰く付きの場所ではあったんだけどな。幽霊を見たとかそんな話はずっとあったけど、人が実際死ぬようなことは無かったんだけどね……」
ネストが青年を見る。
「お兄さん、北に行くとか言ってたけど……エルシドの森を抜けるつもりかい?」
「他に北へ抜ける街道はあるんですよね」
商人のワイズ・オゼットが頷き地図をテーブルに広げた。
「右回りに迂回して北に続く道がある。こっちは交易だが、山脈越えだから相当時間が掛かるよ。もしくは一端バンクルスに引き返して、リングレー経由でアレンダールに入るかだな」
「エルシドの森を抜ければどのくらいでつきますか?」
「最短で二日もあれば着くよ」
青年はそうですか……と地図に視線を落とした。
それから顔を上げて微笑む。
「エルシドの森に行ってみます。ダメそうなら引き返して来ますし」
「勇敢だねぇ」
ワイズが気に入った! と唸っている。
「アレンダール王国から船でサンアゼールに行きたいんです。大きな祭礼があるそうで、ぜひ見るべきだと聞かされました」
「サンアゼールの【水神祭】だね。賑やかだよォ。来月には建国記念も重なるから今、貿易もアレンダールに集まりつつある。他所から来た若い人はそれは楽しみだろうね」
「はい。だからなるべく早くアレンダール王国領に入りたいんです」
サンアゼールは島国なので、あまりにも観光客が増えると、中継地であるアレンダール王国で規制が掛かり、入国自体が出来なくなるのだ。
「なるほどね。そういうことなら試しにエルシドに行ってみるといい。丁度エルシドの森近くにあるヨーク、という村に旅籠をしてる知り合いがいるよ。連絡してあげよう。彼に頼めば、何か詳しいことが分かるかもしれないし、寝床の世話もしてくれるだろう」
青年は立ち上がった。
丁寧に頭を下げる。
「すみません、何から何まで」
「はっはっは! 何を言ってるんだ旅人はお互い様さ。こんなご時世助け合わなくちゃやってられないよ。それにそんな若いのに立派な一人旅ってのが気に入った! 男はやっぱり旅に出なくちゃならんよ」
「そういえばうっかりまだ名前を聞いてなかった。お兄さん、名前は? どこの出身だい?」
「メリクと言います。戦災孤児で幼い頃からこういう暮らしぶりだったので、ここという故郷はありません」
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