第9話「奥まで届いちゃった……」

【当日まであと30日】


薄暗い部屋の隅。

古い木製の棚が、影に沈む。

アヤが細長い棒状のものを

何かの中に差し込んでいる。

ゴトゴト、ギシッ、と物がぶつかる音が響く。

ホコリが、フワリ、と舞い上がる。


棒が深く、深く、

まるで探るように奥へと進んでいく。

アヤは真剣な表情で、

手応えを感じ取ろうとしている。

「この長さならギリギリ届くかも……!」

そう呟き、さらに棒を押し込む。

グイッ、グイッ。

指先に、何かが触れた感触。

そして「あっ……奥まで届いちゃった……」

驚きと同時に、満足げな声が漏れた。

コツン、と何かが引き寄せられる音。


カメラが引くと、

アヤが棚の奥に散らばった物を

掃除機のアタッチメントや長い棒を使って

整理しているのが判明する。

埃やゴミを掻き出し、

奥に埋もれた本や小物を探し出していたのだ。

棚の埃っぽい匂いが、ツンと鼻につく。

埃っぽい棚には、古い写真アルバムが何冊か見えている。

アヤの手に古い写真が握られている。

その写真には、

若かりし頃のレイが、楽しそうに笑っているのが一瞬だけ見えた。

「レイの昔の写真……」

アヤは小さく呟いた。

古いアルバムを、そっと開く。


アヤは棒の先で引っ張り出した、

古びた一冊の絵本を手に取る。

本の表紙には使い込まれた跡。

紙が少し黄ばんでいる。

表紙をめくると「○○へ(誰かの名前)」と書かれた

懐かしい、独特な筆跡の文字。

かすかにインクの匂いがする。

絵本の横に、古いカセットテープと、

レコーダーらしきものがある。

アヤはレコーダーにテープを入れ、再生する。

サー……というノイズの向こうから、

懐かしい声が、微かに聞こえてくる。


アヤは絵本を抱きしめるようにして、

瞳を潤ませながら微笑んだ。

「やっと見つけた……これ、もう一度

あの人に読んでほしいな。

きっと、昔を思い出してくれる」

テープから流れるかすれた声に、

彼女の記憶が重なる。


あの人との思い出を、ずっと大切にしたいから。

ずっと、ずっと。


---


次回予告:


「硬いのが好きなんだよね?」

彼女が品定めする、その「硬さ」の秘密とは?

背後に忍び寄る影……。

まさか、あの人にバレちゃう!?

完璧なサプライズをかけた、緊迫の瞬間。


次回、

第10話「硬いのが好きなんだよね?」

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