第10話「硬いのが好きなんだよね?」

【当日まであと1日】


スーパーのお菓子売り場。

ヒナタが複数の物体を手に持ち、

指で硬さを確認している。

んー……。

と唸り、真剣な表情で比較している。


ヒナタの手元がクローズアップされる。

煎餅のパッケージがいくつか映る。

パリパリ、という音。

彼女は成分表示や商品説明を熱心に読み比べ、

時折指で煎餅の表面を軽く叩いて硬さを確かめる。

コン、コン、と軽い音。

「昔は硬いのが好きだったけど、

最近は噛みにくいみたいだから……」

誰かに語りかけるように呟いた。

その直後、背後から声。

「あら、ヒナタちゃん、こんなところで何してるの?」

ヒナタはハッとしたように振り返った。

サッと、顔が青ざめる。


声の主は、たまたま買い物に来ていた

近所の顔なじみだった。

「あ、いえ、ちょっと、お使いで……」

ヒナタは焦った顔でごまかす。

その人物は特に気にする様子もなく、

「そう。美味しいお煎餅見つかるといいね」

と笑って去っていく。

ヒナタはホッと胸をなでおろし、

ドクドクと鳴る心臓を抑え、

改めて煎餅選びに集中する。

危なかった……。


ヒナタは最後に一枚の煎餅を選び、

買い物カゴに入れた。

その表情は、誰かの喜ぶ顔を想像しているかのように

柔らかい。

ピッ、と会計の音がする。

ビニール袋に入れられた煎餅。

「明日、あの人と一緒に食べようね」

心の中で語りかける。

レジ袋の中で、煎餅の包みが

カサカサと、優しく音を立てた。


煎餅の包みには、

「祝・○○○歳」と書かれた小さなシール。

シールは、誰かの似顔絵のイラスト入りだ。

ニコニコと笑う顔。


あの人の笑顔が、私の一番のご褒美だから。

明日の朝が、待ち遠しい。


---


次回予告:


「止まんない……もう、ビシャビシャだよ!」

庭に飛び散る水しぶきと、

びしょ濡れで嬌声を上げる彼女。

何かが爆発したような音。

一体何が、彼女をこんな状態にしたのか!?

嵐のような水の中で、彼女は叫ぶ。


次回、

第11話「止まんない……もう、ビシャビシャだよ」

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