第6話「これ、舐めると気持ちよくなるんだって」

【当日まであと30日】


レイが何かを口に含んだ。

スッ、と目を閉じる。

どこか物憂げな表情を浮かべる。

「んんっ……」

微かにうめく声が漏れる。

その表情からは、

得も言われぬ快感が伝わってくる。

舐めた瞬間、彼女の瞳が潤み、

微かに息をのんだ。

喉の奥で、ツルリ、と滑る感触。


レイの口元に焦点が当たる。

彼女の舌が何かをゆっくりと転がし、

チロチロと、舐める音が微かに響く。

「これ、舐めると……

すっごく気持ちよくなるんだって……

あ……沁みる……」

囁くようなセリフ。

彼女は袋から取り出したばかりのそれを、

じっと見つめている。

透明な袋の中には、

様々な色の丸い物体が詰まっている。


カメラが引くと、

レイが新しく買った

のど飴を試しているのがわかった。

乾燥する季節が始まったから、

今のうちに選定しておこう。

喉を潤すのに最適な飴を探しており、

口に含んだ瞬間の甘みと清涼感に

感動していたのだと判明する。

袋には「○○さんの好きな味」と書かれたラベル。

彼女はスマホを取り出し、

アヤ宛にメッセージを送る。

「この飴、見つけたよ。

アヤにも教えてあげようかな」

ピコン、と送信音。


レイは包装紙を広げて、

飴の成分表示を確認した。

フム、フム。

「うん、これなら大丈夫そうね」

呟き、残りの飴を丁寧に袋にしまう。

チャックをキュッと閉める。

その袋には、

誰かの名前が書かれた小さな付箋が貼られている。

文字は丁寧に書かれている。


薬箱の隣に、咳止めシロップ。

トントン、と指で叩く。

咳止めシロップと一緒に、飴の袋が置かれている。

薬箱には「常備薬:○○さんの分」と書かれている。


あの人の体調が一番だから。

レイは、静かに頷いた。


---


次回予告:


「これは小さすぎるわ……」

彼女が手に取る、その「物体」のサイズとは?

見えない顔に刻まれる、無念の表情。

完璧を求める、彼女の視線。

意外なアイテムが、物語を動かす。


次回、

第7話「それじゃあ小さすぎるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る