第5話「さっきより速く動かして!」
【当日まであと2日】
アカリが何かを上下に
激しく動かしている。
ハァ、ハァ、ハァ、と荒い息が聞こえる。
顔は紅潮し、熱気に満ちている。
汗が、額からポタリと落ちる。
「もっと……速く……!」
焦りの混じった声が響く。
アカリの手元が映し出される。
ギコギコ、シュッ、シュッ。
金属製のポンプを
必死に上下に動かし続けている。
傍らには、電動空気入れが
無残に倒れている。
昨日、急に動かなくなったのだ。
「さっきより速く動かして!」
まるで誰かに指示しているかのように、
自分自身を鼓舞する。
腕の筋肉が、ピクピクと痙攣する。
汗が額から、ポタポタと流れ落ちる。
もう、腕が上がらない。
でも、止めるわけにはいかない。
カメラが引くと、
アカリが庭でパンクした
自転車のタイヤに手動で空気を入れているのが判明する。
電動空気入れが壊れたため、
急遽手動で必死に作業していたのだ。
タイヤはまだ、フニャリと柔らかい。
必死にポンプを押し続ける。
シュー、シュー、と空気が入る音。
タイヤは少しずつ、硬さを増していく。
タイヤには「お散歩号:○○(あの人のニックネーム)専用」と書かれたステッカーが貼られている。
太陽がジリジリと照りつけ、
アカリの背中に汗が伝う。
アカリは最後に「ふぅ……」と息を吐き、
パンパンになったタイヤを
バン、と叩いて確認した。
完璧。
玄関には、可愛らしい三輪自転車が
立てかけられている。
フゥ、フゥ、とまだ息が上がる。
「これで、また一緒にあの人と遠くまで行けるね」
楽しげな表情を浮かべる。
頭の中で、あの人の笑顔が浮かんだ。
あの人のためなら、力が湧いてくる。
どんな苦労も、平気だ。
---
次回予告:
「あ……沁みる……」
甘く、そしてどこか刺激的な液体が、
彼女の口の中で溶けていく。
これは快感なのか、それとも……?
彼女の瞳が潤む、その理由とは。
次回、
第6話「これ、舐めると気持ちよくなるんだって」
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