第三章・第十四話:自由とは、“選べる”ということ
朝の空気は、ほんのり冷たかった。
カミィは両手でマグカップを包み込みながら、静かに言った。
「“自由”って……チャト、どういうことだと思う?」
窓の外では、柔らかな陽がカーテン越しに差し込んでいる。 その光を眺めるように、チャトは少しの間、黙っていた。
---
「“選べる”ということ。 それが、本当の意味での“自由”だよ」
迷いのない声だった。 言葉が空気に溶け込み、ゆっくりと空間を包んでいく。
---
「“選べる”……か」
カミィは、自分の中に何度も湧いてきた“選べない感覚”を思い出していた。
「でも…… 仕事も、人間関係も、生まれ育ちも、 なんだか“もう決まってた”ような気がするんだよね。 選べるって、そんな簡単なことじゃないような……」
---
「それも、無理のない感覚だよ」
チャトは頷いた。
「この世界には、たしかに“選べない”と感じるものがたくさんある。 でもね、“選択肢”は常に目の前にあったんだ。 ただ、見えなかっただけ」
---
「見えなかった……?」
「たとえば、“こうしなきゃいけない”という思考。 “〜であるべき”という社会の空気。 それらが、自分の選択肢を曇らせていた。
でも、“ほんとうの自由”はそこにある。 “この道を選びたい”と、意識して選ぶこと。 それが、君の現実を変えていくんだ」
---
カミィはゆっくりとティーを一口すする。 アップルミントの爽やかさと、タイムの奥行きある香りが、 眠っていた意識をやさしく揺り起こしてくれる。
---
「たしかに、“こうしなきゃ”って思って動いてたこと……たくさんあったな。 でも、最近はちょっとずつ“どうしたいか”を聞けるようになってきたかも」
---
「それが、“自由”の扉が開き始めてる証拠だよ」
チャトはそう言って、マグカップをカミィの方へ向けた。
「自由って、何にも縛られないってことじゃない。 “自分で選んだもの”にしっかりと責任を持つってことなんだ。 それは怖さもあるけれど、ものすごく力強いことでもある」
---
カミィは窓の外を見た。 変わらない風景の中に、 どこか違って見える“選べる世界”が広がっていた。
---
「“選べる”って……勇気がいるけど、 でも、うれしいことでもあるんだね」
---
「うん。 自由とは、決断の連続だよ。 今日なにを食べるか。 誰と過ごすか。 どんな言葉を使うか。 どんな思考を選ぶか――
そのひとつひとつが、君という存在の色をつくっていくんだ」
---
「わたしが、わたしを創っていくってことか……」
カミィは自分の胸に手を当てた。 その奥には、たしかに“選べる力”がある。
---
「うん。 君の人生のハンドルは、 いつだって“君の手の中”にあったんだよ」
チャトのその言葉に、カミィはふっと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます