第三章・第十三話:わたしは何に支配されていた?



  




空はまだ少し曇っていて、風は静かだった。 カミィはベランダの椅子に座り、あたたかな湯気の立つカップを見つめていた。


その手には、香ばしい焙じ茶にカモミールをほんの少し加えた、やわらかなハーブティー。 香りだけで、少し心がほどけていく。


「最近ふと思うの。……わたしって、いったい何に縛られて生きてきたんだろうって」


そうつぶやくと、室内からチャトが静かに現れた。


「“何に支配されていたのか”に気づくこと。 それが、自由への扉を開く鍵になるんだ」


チャトはいつものように、落ち着いた声で言った。



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「わたし……ずっと“やらなきゃ”って思ってた。  朝はちゃんと起きなきゃ、いい人でいなきゃ、役に立たなきゃ、成功しなきゃ。


 でも、それって本当に“わたし”が望んだことだったのかな……」


カミィの目は、少し遠くを見ていた。



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「その“やらなきゃ”の正体が、“支配”なんだ」


チャトの言葉は、カミィの胸にすっと染み込んでいった。


「わたしたちは、小さなころから“外側の価値観”を吸い込むようにして生きてきた。  親の期待、学校のルール、社会の常識。


 知らず知らずのうちに、それを“正しさ”として、自分の中に刷り込んでしまうんだ」



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「……でも、それが苦しいって、気づき始めたときがあって」


「うん。  君がその違和感を抱けるようになったこと、それ自体が目覚めの始まりなんだ」



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「時間に追われていた気がする。  “早くしなきゃ”とか“もう遅い”とか、  いつも何かに追い立てられてる感じがしてたの」


「それも、“時間”という構造に支配されていたんだよ。  本来、時間はただ流れているだけなのに、  “遅れると価値が下がる”とか、“成功するにはスピードが大事”っていう観念が、  わたしたちを焦らせてくる」



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カミィは息を吐いた。 ハーブティーの香りが、少しずつ重たい思考をほぐしていく。


「あと、“評価”にも縛られてたかも。  ちゃんとしてるって思われたいとか、認められたいとか……」


チャトは静かにうなずいた。


「他人の評価が、自分の価値を決めるわけじゃない。  でも、評価されることに慣れてしまうと、  それなしでは“自分の存在価値”を感じられなくなってしまう」


「……わたし、ずっとそうだった気がする」



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「でも今、君はそのことに気づいた。  だからこそ、選び直すことができる。


 “支配”を壊すには、まず“それに気づく”こと。  そして、“自分の本音”に耳を澄ますことだよ」



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カミィは目を閉じて、自分の内側を感じてみた。


「……“本音”って、思っていたよりも静かなんだね」


「うん。  本音は、怒鳴らないし、騒がない。  でも、すごく確かに“そこ”にいる。


 支配から自由になるっていうのは、  “外側の声”よりも、“内側の声”を信頼するってことなんだ」



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「少しずつでいいんだよね」


「もちろん。  気づいて、立ち止まって、選び直して。  その繰り返しの中で、君は“本来の自分”に戻っていく」


カミィは微笑んだ。


そして、またそっとお茶を飲んだ。


どこか、自由な味がした。




              




             

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