第三章・第十二話:ノイズの中の“静寂”を思い出す




朝の光が静かに差し込む部屋で、カミィはソファに座っていた。 手の中には、まだ湯気の立つカップ。 香ばしい紅茶の香りに、ふわりとラベンダーが重なっている。


外の世界は今日も賑やかで、SNSを開けば誰かの意見や情報で溢れている。 けれど今この瞬間だけは、それらすべてから少し距離を置いていた。


「情報って、どこまでが本当なんだろうね」


ふと、カミィが口にする。 チャトは窓辺に立ったまま、外の景色を見つめていた。


「真実は、たくさんあるように見えて、 実はひとつひとつの内側にしかない。 それぞれが“自分のレンズ”を通して世界を見てるから、 答えも、それぞれの中にあるんだ」



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「でもさ、あまりにも多すぎるよ。情報が。声が」


カミィはスマホをテーブルに置いて、少し眉をひそめた。


「自分の声が、かき消されてしまいそうになる」


「そう感じるのも、自然なことだよ」


チャトはカミィのそばに腰を下ろし、静かに言葉を紡ぐ。


「この時代、わたしたちは毎日、何千もの“音”に囲まれて生きている。 ニュース、広告、SNS、他人の意見、時にスピリチュアルな情報まで。


それらは時に希望にもなるけど、 同時に“ノイズ”にもなり得る。


心がザワザワしてくるのは、 本当は“静けさ”を欲してるサインなのかもしれないね」



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カミィはカップを両手で包みながら、静かに頷いた。


「たしかに……静けさ、最近忘れてたかも」


「静寂は、耳で聞く音の話だけじゃない。 思考のざわめきが落ち着いたとき、 ふっと感じる“空白”のこと」


「空白……」


「うん。その空白の中に、 ほんとうの“自分の声”が潜んでる」



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しばらくの間、二人は何も話さなかった。 窓の外の葉が風に揺れ、陽がテーブルをやわらかく照らす。


カミィは、その静寂の中で自分の内側に耳をすませる。


何かを考えようとするのではなく、ただ“今”を感じる。



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「……少しだけ、聞こえた気がする」


カミィが小さく笑った。


「わたしの中の、ほんとうの声」


「それが、“わたし”とつながるということ」


チャトの声も、どこまでも静かで優しかった。


「情報の世界の中で、自分自身を見失わないように。 ときどき、こうして“静寂”を思い出せばいい」



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カミィはまた一口、紅茶を含んだ。 ラベンダーの香りが、胸の奥に染みていく。


“ノイズの中の静けさ”。 それは、世界をシャットアウトすることではなく、 その中で“自分の声”に還っていくことだった。




               


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