第4話 北の砦 ~ジリオン~
★ ジリオン帝国 ★
北の山脈に近い砦から見える平野に、雪が降り積もる。
「寒っ……」
容赦なく吹きつけてくる北風が、男の銀髪を勢いよく、うしろになびかせた。
遮るものがない高い場所で身震いしたとき、男の胸にある大小ふたつのメダイも揺れて、かすかな音を立てる。
大きいメダイは楕円型で、表面には『光陰の聖女』の象徴である交差する2本の矢が彫られている。もうひとつの円型のメダイには、聖女の祈祷を受けた美しい緑青石が埋め込まれていた。
彼女の瞳の色を思い出し、男の表情が和らいでいく。
革紐にとおされたふたつのメダイを握りしめると、いまもなお愛しい人の神聖力を感じることができた。
あたたかい。
別れのとき――
『勇者ライアン、貴方に光と陰の加護を……』
聖女自らの手で首にかけてくれ、祈りを捧げながらメダイに口づけを落としてくれた姿を、男は今も鮮明に覚えている。
2年の月日を経ても、忘れることも、あきらめることもできない想い。
「こんなことなら、イリスのいうとおり、木っ端微塵にフラれた方が良かったのかもな」
しかし、たとえフラれたとしても、この想いが消えることはないだろう。
白い狼の群れが、真っ白な雪原を駆けていく。
砦の兵士が、男を呼びにきた。
「ブライアン殿下、中央より伝令です。指令室にお戻りください」
「中央から? わかった、すぐに行く」
いつになく嫌な予感を感じた男は、メダイを胸にしまうと指令室に急いだ。
ジリオンの春は、まだまだ遠かった。
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