「ダンジョン管理課」という、異世界なのに妙にリアルな『お役所』で繰り広げられる、無自覚最強新人リュカの、日常系ゆるふわコメディ。
ニート生活を追い出されて就職したリュカの『ゆるふわ』な語り口が、とにかくクセになります。
リュカの職場は、ダンジョンの管理やトラップの点検、魔王軍の監視など、異世界らしい業務が満載。
魔法結界やトラップが設置されている職場は、トイレの場所や報告書の文字数制限、備品の管理まで現実そのもの。
そんな職場でリュカがやることと言えば、
「休憩室の湯沸かし機を爆発させる」
「地下制御層のうるさいポンプを止める」
「拾得物の派手な聖剣を包丁代わりに使い、研ぎ直さずに返却する」
など、どれも『普通の新人』の失敗。
……かと思いきや、なぜか世界規模の事件の解決に直結してしまう。
昼寝をすれば次元が安定し、カレーを食べたら魔王軍が降伏。
本人は「私って優秀かも」と満足げですが、周囲は胃痛と頭痛で医務室直行。
支部長の胃薬消費量が、物語が進むごとに右肩上がりなのが泣けます。
同期のケイはリュカの無自覚無双に毎日振り回され、精神科通い寸前。
副長セシルは毎日机に額をぶつけ、支部長は胃を痛めて早退。
それでもみんな、リュカの『普通』に癒され、いつの間にか彼女のペースに巻き込まれていきます。
読者もまた、リュカのゆるい語りに癒され、気づけば「今日も定時で帰ろう」と思ってしまうでしょう。
「世界の危機」や「英雄的偉業」が、すべて『日常の延長線』で起きてしまう物語。
無自覚なリュカは、
「褒められたら素直に喜ぶ主義です」
「私はただ仕事していただけ」
というスタンスを一貫して貫きます。
この『普通でいること』の強さと、誰かの『変わらない日常』が世界を支えている、というコンセプトが、コメディの裏でしっかり根を張っています。
「世界の終局日」だろうが「神域認定」だろうが定時退勤を貫くリュカの姿勢は、現代社会に疲れた心に、じんわりと効いてきます。
読後には「自分の毎日も、誰かの世界を救っているかもしれない」と思える、そんな一作です。
明日も、定時で帰りましょう。世界のために。