退廃的な美と、現代的な感覚と文語体との優れた融合

 この連作はある種の退廃的な空気感によって統一されており、しかもそこにはある種の美が現れており、ある一つの世界、ある一つの視点、を感じることができる。

 たとえば、三首目に〈あぢさゐはくづれつつ咲く ミスiDぽさがきみをきみたらしめてゐる〉という歌がある。

 この歌においては、上の句が下の句の比喩であり、下の句は上の句の比喩である。そのとき、「ミスiDぽさがきみをきみたらしめている、そのきみ」とは、「くづれつつ咲くあぢさゐ」でもあり、また、「くづれつつ咲くあぢさゐ」とは、「ミスiDぽさがきみをきみたらしめている、そのきみ」なのである。

 ミスiDはとても魅力的な賞である一方で、ある種のサブカル感や人々の消費の対象であるという意味を内包しており、そして、「個性的であること」そのものが「ミスiDぽさ」とくくられたときに、その瞬間に、もしかすると「きみ」は、「くづれつつ咲くあぢさゐ」なのかもしれない。(そして評者はそれを最も美しいと信じる)

 と、このような優れたアナロジーによって筆者はここに、「くづれつつ咲く」儚き美の瞬間を、もっとも効果的に詠んだのである。

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 最後に。「ヘリックス」とは螺旋(Helix)を表わす言葉であるが、同時に耳の軟骨部分に開けるピアスのことでもある。本連作においては、そのような現代的な感覚と、〈エーテル それは性欲ぢやなくて ヘリックス 天使にも一重瞼はゐます〉において顕著であるような文語体での表現を融合している点も、本連作『ヘリックス』の優れた点と言えるだろう。

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