10
舞台は再び橋部屋敷に戻る。
「先生の娘が俺の元婚約者を殺めた。俺は責任を取って会長を辞退。傷心のあまり婚約者候補だったみむろとも別れる。苦労知らずの孫ではなく、苦労人の末子へ継承。このシナリオで橋部グループは梟也さんを頭にスムーズに新体制に移れるだろう」
一成は親族を前に今後の方針を示す。
「後は樹莱の処遇だな、どうしたら良いものか」
二人を殺害して火までつけた。場合によっては死刑もあり得る。兎美に対する罪は償わせたいが、鸞蔵に対する罪は鸞蔵にも原因がある。そのまま告発するのは気が重かった。
「そうね、こちらとしては樹莱を告発して裁判で父の事を話されても困るし、だからといって下手に温情をかけると後にそれをネタにして脅迫される恐れがあるのよね……一成、貴方が泥を被る覚悟があれば一つ方法があるにはあるわよ」
茅夜は足を組み替えると、一成を見つめて言った。
「……はあ、そうだよなやっぱり。……樹莱が後に心変わりしても良いように対抗策として一つの殺人を温存しておく……これしかないか」
一成が不承不承頷く。本来はこんな不正はしたくないし樹莱が後に脅迫してくるような人物だとは思わない。思いたくない。それでも一成はよりましな方法を探した。茅夜を筆頭に親族を納得させれなければ事件は闇に葬られる。
「爺さんは自殺していて、樹莱は爺さんの拳銃を拾って自分の物にしていた。それを兎美に咎められて口論のうえ思わず殺害……こんな感じなら皆は納得するか?」
必至に捻り出したのは、こんな方針だ。おあつらえ向きに殺人罪には時効が無い。将来樹莱が自暴自棄になって鸞蔵の事を話そうとするなら、逆に殺人罪で告発出来る。
「そうね、橋部グループとしては事件を全て迷宮入りさせた方が良いと思うのだけど……まあそれなら多少はリスクは減るわね。月日が流れれば先代の愚行なんてセンセーショナルな事件でも無くなるし……ただその方針でいくなら条件があるの」
「条件、後付けだな。まだ何かあるのか」
「一成、貴方、樹莱が罪を償い終わるまで責任持てる?事件を追求しないのならあの子をグループ内で働かせて囲い込む事も出来るのだけれど、樹莱さんを告発するという事は橋部グループでは援助出来なくなるのよ、そうなると生活に困った樹莱さんが父の事をネタにお金をせびりに来る。そうならないためには貴方が責任を持って高校も卒業していない樹莱の面倒をみてもらわないといけなくなるの。まあ幸い樹莱さんはまだ十五歳だから少年院で済むかもしれないけど……長期にわたる監視……サポートね。が必要よ」
茅夜の判断基準はシンプルに損得だ。橋部グループに禍根を残す可能性がある一成の方針は受け入れ難いのだ。
茅夜の話を聞いた一成は一考する。一族を納得させ何より自身が納得する方法は無いか……。
「そうだ、うん」
しばしの沈黙の後一成はパンッと手を叩いた。
「社会復帰を支援する団体を立ち上げよう。その団体に瀬尾先生を所属させる。どうせ瀬尾先生も橋部グループには置いておけないだろうし、一石二鳥だ。これなら樹莱が帰る場所が出来る。それに……税金対策にもなる……どうだ」
「なるほど、樹莱ちゃんは未成年だから実名は報道されない。橋部グループと離れた所で父親ごと囲い込んで支援すれば……」
保身を考える啄巳。ただ彼のそろばん勘定は正確だ相続税や所得税の控除を素早く計算していた。
「それなら良いわよ、親子共々面倒を抱え込むんだから……」
一成の提案に茅夜も渋々応じたのだった。
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