第七章 解決は相続と共に
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「只野さん……の声」
「出て行くしかないか、通報されるとまずいしな」
一成は覚悟を決めると、足音を忍ばせながら移動する。言い訳を考えるのも忘れない。静かにドアを開け階段を登って来た只野に声をかける。
「すまん只野、驚かせたな」
暗闇の中で声をかけられビクリと反応する只野。
「坊ちゃまですか、犯人が戻って来たのかと思ってびっくりしましたよ。部屋を真っ暗にして何をしてたんですか」
「ああ、向こうの家の鍵を落としてしまってな、見つからなかったから、灯りを消して懐中電灯で照らして探していたんだ。やっと見つかったよ」
一成はポケットからキーホルダーを取り出す。キーホルダーには宝石を模した安っぽいプラスティックがついている。懐中電灯で照らすとプラスティックが輝く。一成は我ながら良い言い訳だと思った。これなら逢引とも事件の調査とも思われない。
「只野こそ、こんな時間にどうしたんだ。仕事は終わる時間だろう」
「事件があった部屋を片付けておこうかと思いまして……そのままにしておくのは罰当たりと言うか気が引けて……」
「いや、そんな仕事は専門家に頼むからいいぞ。大丈夫だとは思うが感染症のリスクがあるからな、只野にはとてもじゃないが頼めん。それに一人で掃除していて犯人に出くわしたらどうする」
一成は只野に鎌をかけた。これでも部屋の清掃に拘るのなら、証拠隠目の為かもしれない。
「わかりました。私なんかを犯人が狙うとも思えませんが……危険はありますね確かに」
すんなりと引き下がる只野。一成の目には不審な様子は
「坊ちゃま、夕食はどうなさいますか?皆様はもう済ませましたが、簡単な物なら作りますよ」
「う〜んそれは流石に悪いな。今日は帰って休んでくれ、夕食は自分で作る。知ってたか、こう見えて飲食店のオーナーだからな、レパートリーは豊富なんだぞ」
「あらあら、館林さんにいい所を見せたいのかしら、フフフ……。お言葉に甘えて今日は帰らせてもらいます。坊ちゃまも明日になると葬儀とかで忙しくなるでしょうから、今日は早く休むんですよ」
只野は一礼すると別邸を立ち去った。
「フフ、坊ちゃま……可愛い」
部屋から出て来たみむろは意味ありげに視線を送る。
「うるさい!!世間知らずなのはどっちだよ」
一成の反論は短い。坊ちゃん育ちなのは事実なので迂闊に反論すると墓穴を掘る。
「まあ良い。皆に鼎が無事なのを伝えないとな、行くぞ」
一成は話を打ち切り再び橋部屋敷に赴く。
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