「一成さんの話を聞いていて疑問があった、どうやって遺体に火をつけたんだろうって、その答えがこれ」

 床すれすれから懐中電灯で出窓を照らすみむろ、

「?」

 首を傾げる一成、

「あ、そっか座高が違った。もっと下から、これ使って」

「こうか?……あっ」

 手渡されたハンカチを膝に敷き一成は極限まで頭を低くする。視線の先には出窓。みむろが懐中電灯で出窓を順に下から照らす。一列目、二列目、三列目。一成は三列目で気がついた。外側に開かれた窓ガラスに当たり反射した光は列ごとに同じ角度で反射して虚空を照らしている。

「太陽か……」

「そう、ここの窓は排煙用に外倒し窓、しかも偏光ガラスだから反射率?が高い、そして各段ごとに窓の開ける角度が微調整されてる」

「つまり太陽の位置が一定の場所を通ると出窓のガラスが太陽光を反射して光を一点に集めて発火する時限式発火装置か……だが発火するか?紙や布でもそうそう火はつかないだろう。ガソリンでもいたなら話は別だが、それなら俺でも匂いで気が付くぞ」

「これ……」

 みむろが取り出したのは一枚のぼろ切れ、近くで嗅ぐとほのかに香る。

「これは、ワックス……蜜蝋ワックスかこれなら確かに発火するし匂いもしないな、これをどこで」

「これは一階のゴミ箱に入っていた、入手は簡単」

「只野が床にワックスをかけた時のウエスか」

「犯人自体は窓を通れば隣の部屋に脱出は可能だから……」

「しかも雉広の部屋は鍵が開いていたから誰でも犯行は可能と……う〜ん」

 手段が分かっても一成には犯人は思い付かない。改めて外部犯ではなく別邸の構造を良く知っている人物。一成に近しい人物が犯人だと再認識して気分が沈む。

「こんな所かな」

「待て!誰か来るぞ」

 部屋を出ていこうとしたみむろを一成が引き止めた。

「えっと、見つかって問題あるのかな。車は停めてるよね」

 一成のベンツは別邸側の駐車場に停めた。知っている人が見れば一成がいるのは一目瞭然だ。暗くなって見逃してくれるのを期待するしか無い。

「ある。殺人事件が起きても逢引してる変態と思われる」

「それは嫌、かも、合挽きはハンバーグだけにしたい」

「キーマカレーもいけるぞ」

「流石飲食店オーナー」

 二人は小声で話しながら部屋の入口から見えない場所、シャワールームへ隠れる。見つかった時に余計に誤解を生みそうだが……。

 カツカカツと階段を登る音が響く、心なしか足を引きずっている。

「誰かいるんでしょ。出て来なさい」

 吹き抜けを伝って別邸内に声が響いた。

「あの声は……」

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