「無茶すんなよ。お前に何かあったら俺が鼎に殺されるぞ」

 心配したのか、戻って来たみむろを一成は抱き上げた。

「彼氏面するな、セクハラ」

 一成の急な行動にみむろは思わず一成を振り払う。羞恥のあまり思いの外激しく暴れたためか、みむろの右手が一成の頬を打つ。

「……」

 動揺して二の句が告げられないみむろに対して一成は、

「すまん。つい……ただ何かするときは説明してからにしてくれ、心配するだろ」

 謝りながらも怒る。みむろも照れと申し訳なさで微妙な表情をして一成を見あげる。

「ごめん、痛く無かった?……大丈夫だね」

 一成は無言で頷いた。正直なところみむろの手は鼻付近に直撃したので、涙が出た。格好が悪いので汗を拭うふりをして涙を拭く。このくらいの見栄は許してやって欲しい。

「じゃあ説明する。朝ここを渡る時、一成さん、かずら橋は斜張橋だと言ってた。斜張橋なら橋柱と橋柱の間のケーブルはフェイクか柱の補強。切断されても問題ない、はず。それに力がかかっているケーブルを切断なんてしたらケーブルが暴れて切っている人が危険。だから犯人もそんな危険な事は出来ない。だから橋は通れると思った。最悪私が落ちても引き揚げてくれる、よね」

 吊橋であれば柱と柱をつなぐケーブルは最も重要なメインケーブルであり、そこから垂直に垂らしたハンガーロープで桁ケーブルを支えている。一方の斜張橋であれば、橋柱から斜めに伸びるケーブルやかずらを桁ケーブルに直結して支えている。橋柱と橋柱をつなぐケーブルは無くても構造上問題がないのだ。特に短期間人が渡るくらいなら何の影響も及ばさない。何故吊橋ではなく斜張橋を選択したのかは分からないがおそらくは地盤が緩かったのだろう。そのため風の影響を受けやすく橋が揺れるのだが、

「フフ、私は工学部。これで淵元奈々を名乗る女は里に出入り出来る」

 みむろは勝ち誇るが、一成は、ため息をつきながら、

「あのな、みむろちゃん、俺は多分君の体重を支える事は出来るけど引き揚げるのは無理だぞ、もし橋から落ちてたら俺も力尽きて下手すりゃ一緒に死んでたからな、それに鼎のカーディガンの燃えかすが別邸にあったし、どうにかして女は里に入っていたのは分かっていただろ……」

 と、みむろの行動を暗に蛮行だと口にする。

「これは確認作業。次に行く」

 みむろは憤慨した様子で先に助手席に座ると一成に指示をだす。

『鼎、早く目覚めてくれ、俺ではこの娘は手に負えん』

 と、一成は心の中で悲鳴をあげた。

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