「良い、かな?」

 黙りこくっていたみむろが顔を上げ口を開く。

「何だ?今日はここに泊まるか?心配だろ」

「逆、鼎君が無事なら犯人を何とかする。後二つ調べたら、分かる」

 みむろは犯人の目星がついた様だ。ただ確定するまで名指しはしない。事件の様相から一成に近しい人物なのが分かっているからだ。

「……意外だな、てっきり鼎についているものかと……」

「そうしたい、けど。私がいても何の役に立たない……書き置きしておく。一成さんには辛いかも知れないけど調査手伝ってくれる?」

 みむろの決意は固い。鼎をターゲットにした犯人に憤っている。口元が一文字に結ばれている。普段の緩んだ口元とは大違いだ

「分かったよ、でも気をつけろよ。爺さん以外は里の外の人間が狙われてんだぞ!!正直なところ鼎が目覚めるのを待ってくれた方が安心なんだが」

 一成は止めてもやめないんだろと半ば諦めた声で話す。

「大丈夫、犯人達は恋人と紹介した私を狙えば、一成さんが敵に回ると思ってる。私には手は出せない」

 これはみむろの確信だ。ただし刺激しなければ、との注意書きがつく。

「まあ必死で守るよ。さてまずは何処に向かうのかなお嬢さん」

 こんなの鼎の取扱説明書に書いてなかったぞ、と眠り続ける鼎を責める一成。ただ言い出したら聞かない、とは書いてあった。

「まずは、かずら橋」 

 みむろは行き先を告げた。




         ◇ ◇ ◇



 生駒病院から暫く車を走らせてかずら橋へ、今回は直接車で乗り付けた。既に規制は解除されているが、凶器が発見されたであろう場所は藪が払われており容易に推測できた。

「凶器の発見場所が見たかったのか?多分ここだが、何なら警察に聞いてみようか」

 一成は三人に協力を求めた曽我を思い出す。これだけ痕跡が残っているのだ、聞けば教えてはくれるだろう。

「ここじゃない、持ってて」

 みむろは一成にロープの端を渡すと、トテトテとかずら橋へ歩いて行った。かずら橋は切断されたケーブルとは別に橋柱から縄が二本繋がり踏み板の上を歩けば応急的に通過出来るように補修されていた。見るからに不安定でよく鸞蔵の遺体を運び出したものだ、と一成は感心する。

 みむろはかずら橋の横まで行くと体にロープをたすき掛けに結びつけて警察が補修した場所ではない、元々のさな木(床板)の上に降り立つ。

「危ないぞ、戻れ」

 驚いた一成は大声でみむろを制止するが、

「危なくない、はず。心配ならそれを柱に結んで。私が間違っていたら一緒に落ちるよ」

 みむろは止まらない歯抜け状態のさな床板の上をケンケンパをするように軽やかに駆けた。橋が振動で大きく揺れる。なにせ、桁のケーブルも片方が切れているのだ、一成はいつケーブルが切れるのか気が気でなかった。それでもみむろは進み続け対岸まで渡ってしまった。

「やっぱり、通れる。問題ない。待ってて戻るから」

 みむろは手を振ると再度反対側に向け橋を歩く。確かに破壊前より橋は揺れるが通行には問題なかった。

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