Act.4-1

「うわぁ……」


 晴海は顔面に吹き付ける大量の花びらに、思わず首をプルプルと振った。


「すごいわぁ……」


 蒼子も同様に、慌てて手の平を顔に持っていった。


「もう、今年の桜も散り始めかぁ~。また来年まで、これで見納めだな」


 晴海は何の配慮もせずに思ったことを口に出してしまった。そして、自分が発した言葉で、自分の心臓に、思いっきり大きなサバイバルナイフを突き刺してしまっていた。


  心臓から大量の血があふれ出し、それは涙腺に直結していた。


「ご……。ごめん……。ごめん……な……さい……」


 慌てて右腕を口へ持って行ったが、眼から大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「ごめんね……。ごめん……、蒼子……」


 見開いた眼から、とめどもなく涙が溢れて止まらなかった。 ぼろぼろと涙をこぼしている晴海の顔を見つめた蒼子の眼は、困惑の色をしていた。


 晴海は、取り返しがつかない言葉を言ってしまった自分を、どうしたらいいのかわからず、くるっと蒼子に背を向けると、右腕を顔の当てたまま肩を震わせていた。


「晴海君。泣かないで。私は逆に嬉しかったのよ?」


 蒼子がそっと、晴海の背中におでこをつけて寄り掛かった。


「そんな訳ないじゃんか……」


 晴海の背中が震えていた。


「晴海君は、私が『もうすぐ死ぬ人間』だから一緒にいてくれてるわけじゃないでしょう?  あなたは『ツインレイ魂の片割れ』の私に出会えたことや、『今』を私と過ごしてることが嬉しくて、来年のことなんか、どうでもよかったのよ。そんな先のことなんか考えてないくらい、『今、私と一緒にいることが最高に幸せだ』って、思ってくれてるのよ」


 蒼子はそっと、薄くて細い晴海の胴に、腕を絡ませた。


「そしてね、その気持ちは、私の方がずっと強いのよ? まさか、『ツインレイ魂の片割れ』に出会えるなんて思ってなかったんだから。あなたは、神様が私にくださった『最期のGIFT』なの。『今』を全く同じ魂を持っているあなたと過ごしてるこの瞬間こそが、宝物なの」


 蒼子は強く晴海を抱きしめて、言葉を続けた。


「出会ってくれて、ありがとう。晴海君」


 晴海は、その言葉に強く右手で顔をこすって涙を拭くと、そっと自分のへその辺りで組まれた、蒼子の両手を握りしめた。


「今、蒼子がいてくれてるだけで、僕は嬉しいんだ……」


 また、涙が一つこぼれたが、晴海は蒼子の腕を解くと、彼女に向き合った。


「『今』をたくさん、一緒に過ごそう。僕らが望んでるのはそれだけだ。今、楽しい時間を蒼子と過ごせることが、僕にはかけがえのない喜びなんだ!」


「うん!」


 蒼子の眼からも、涙が一つこぼれた。その涙を、晴海は人差し指で拭うとえくぼを作った。


「僕らは、『もう、泣かない』って、約束だ」


「うん」


 蒼子は頷くだけだった。

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