【ラ】 床下の秘密

●【ラ】 床下の秘密


 床下に 金銀財宝を隠してから

 おじいさんと おばあさんの口数は

 極端に減りました。


 おじいさんは

 四六時中 家の中にいて

 山へ しばかりにも

 行かなくなりました。


 ずっと長い棒を持っていて

 窓や 玄関から

 外を監視していました。


 おばあさんも

 初めのうちは

 おじいさんと一緒に

 ずっと家の中にいて

 外を警戒したりしていたのですが

 すぐに飽きて

 また 川へ 洗たくに行くようになりました。


 数日後

 おばあさんが

 川で洗たくをしていると

 どんぶらこ~ どんぶらこ~と

 大きな桃が 流れてきました。


 おばあさんは

 おどろくよりも先に

 洗たく物を 放り投げて

 大きな桃を 捕まえました。


 そして 走りに走って

 家まで帰りました。


 おじいさんは

 大きな桃を見るなり

 目を ランランと輝かせて


「金銀財宝さまが

 また 来てくださった!」


 と 叫びました。


 おじいさんと おばあさんは

 嬉々として 桃を切りました。


 すると 桃の中から現れたのは

 元気な男の子でした。


 おじいさんと おばあさんは

 もう ただただ がっかりして

 肩を落としました。


 とはいえ

 おじいさんと おばあさんは

 子宝に 恵まれませんでしたので

 男の子は 宝以上に宝のはずでした。


 しかし

 一度 夢のような数の 金銀財宝を

 見てしまっている 二人にとって

 金銀財宝以外のものは

 もはや 無価値だったのです。


 おじいさんと おばあさんは

 なにやら ごにょごにょと

 相談をしました。


 おばあさんは 準備を整えると

 男の子を連れて

 お寺へと向かいました。


 お寺に到着すると

 出てきた和尚さんに

 男の子を渡しました。


「あっちの道で

 捨てられていたんです。


 うちは じいさんと

 二人で暮らすだけでも精一杯の

 貧乏暮らしですので


 どうか 和尚さま

 この可哀そうな子を

 育ててあげてくださいませ」


 おばあさんの

 嘘を信じた和尚さんは

 男の子のことを

 引き受けてくださいました。


 重荷がなくなった おばあさんは

 ぴょんぴょんと 跳ねながら

 帰りました。


 翌日

 おばあさんは

 また 川へ向かいました。


 洗たく物は 持っていません。

 大きな桃が流れてくるのを

 待つために

 川へ向かったのです。


 すると

 どんぶらこ~ どんぶらこ~と

 またしても 大きな桃が

 流れてきました。


 おばあさんは

 すぐさま 大きな桃を捕まえて

 小躍りしながら

 家へと帰りました。


 おじいさんは

 大きな桃を見ても

 昨日のように

 叫びませんでした。


 疑るように 桃を見て

 とんとんとん と

 叩いてみたり


 持ち上げて

 重さを確かめてみたりしました。


 結局 外からは

 なにもわからないので

 切ることになりました。


 桃の中から出てきたのは

 観音菩薩さまの木像でした。


 おじいさんと おばあさんは

 またしても がっかりして

 大きなため息をつきました。


 以前だったら


「観音菩薩さまじゃ!

 ありがたや~ ありがたや~」


 と 手を合わせ

 家の神棚に

 お祀りしていたに

 違いありません。


 ですが

 一度 あの美しすぎる金銀財宝を

 見てしまった 二人にとって

 観音菩薩さまの木像は

 ただの木に等しかったのです。


 おばあさんは

 観音菩薩さまの木像を持って

 お寺へと行きました。


「向こうの道の土手のところに

 観音菩薩さまが

 転がっていましてね。


 もしかしたら

 誰かしらが

 落としてしまわれたのかもと

 思いまして。


 こちらの お寺さんに

 置いておいたら

 落とされた方が

 取りに来られるかもと

 思ったんですがね。

 どうでしょう?」


 またしても おばあさんの

 嘘を信じた和尚さんが

 観音菩薩さまの木像を

 引き受けてくださいました。


 今日もまた おばあさんは

 足取り軽く 飛び跳ねながら

 帰っていきました。


 その後も おばあさんは

 川で 大きな桃を拾いました。


 桃を切って 出てきたのは……


 子どもの衣服

 子どものおもちゃ

 上等な洗たく板

 切れ味のよい鎌

 丈夫な草履

 頑丈なツボ

 握りやすい筆……


 など 日用品ばかりでした。


 金銀財宝以外に

 もはや 興味のない 二人は

 そららをすべて

 道に落ちていたと嘘を言って

 お寺の和尚さんのところへ

 持っていきました。


 そして いよいよ

 三ヶ月が経ちました。


 おじいさんは

 ずっと家に

 こもりっきりでしたし


 おばあさんは

 川と 家と お寺を

 往復し続けていました。


 家の中は

 真っ二つに切った桃の残骸が

 あちこちで腐っていましたし


 服は 脱ぎっぱなしだし

 ゴミも 散らかしっぱなしでした。


 異様な臭いが

 家中に 立ち込めていました。


 でも

 そんな生活とは

 今日でお別れです。


 三ヶ月前に埋めた

 金銀財宝を掘り出して

 贅沢三昧の 夢の暮らしを

 都の豪邸でするのです。


 おじいさんと おばあさんは

 はやる気持ちを抑えながら

 急いで 床下を掘りました。


 竹でできた箱を

 土の中から取り出して

 いよいよ フタを開けました。


 金銀財宝と

 三ヶ月ぶりの再会です。


 が しかし……


 箱の中に入っていたのは

 腐って ボロボロになった

 お菓子でした。


 なんと あの金銀財宝は

 砂糖を固めて作った

 金銀財宝型の お菓子だったのです。


 たしかに

 桃の中から

 金銀財宝が出てきたとき

 とても甘美な香りが

 していたのですが


 興奮していた

 おじいさんと おばあさんは

 その香りに気づかず


 さらに

 すっかり 金銀財宝だと

 思い込んでいたため

 手に取っても

 お菓子だとは

 気づかなかったのです。


 おじいさんと おばあさんは

 箱の中にある

 金銀財宝の腐った残骸を

 手に取りました。


 強烈な悪臭を放っていますが

 家の中も 同じくらいに

 臭かったので

 土の中から漏れ出る異臭に

 気づかなかったのでした。


「はは…… はははははは」


 おじいさんは

 腐った残骸を握り締めながら

 無表情のままで笑い続けました。


 おばあさんは

 急に現実に戻って

 窓を開けて

 玄関も開けて

 掃除を始めました。


 その後

 おじいさんは 山へ 柴刈りに

 おばあさんは 川へ 洗たくへ行き

 また以前のような

 慎ましい生活に戻りました。


 ――一方 その頃


 お寺の和尚さんに預けた

 男の子は


 鷹狩りの途中で

 たまたま 休憩のために

 立ち寄られた お殿さまが


 その目の綺麗さや

 面構えの立派さを気に入れられて


 千両箱と引き換えに

 養子として

 お連れ帰りになられました。


 また

 観音菩薩さまの木像は

 高名な僧侶が 一目で気に入り

 小判百枚と引き換えに

 お持ち帰りになられました。


 その他の日用品も

 たまたま立ち寄った旅人が

 その上等さを気に入って

 すべて買っていきました。


 和尚さんは

 ただ 預かっただけでしたが

 そのおかげで

 たくさんのお金を得ることができ

 そのお金で 多くの人を助けることが

 できたのでした。


 おしまい

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