【チ】 桃を探す旅
●【チ】 桃を探す旅
桃太郎は
出生の秘密を解き明かす旅に
出発しました。
まず おばあさんが
桃をひろった 川へやってくると
そこから 川上へと
さかのぼっていくことにしました。
桃太郎は
川に沿って 歩き続けました。
しばらくすると
二つの川が合わさっている場所が
ありました。
右の川の先を見ると
山の方から流れてきているようです。
左の川の先は
渓谷が続いていました。
桃太郎が 選んだのは……
1
右の川
…『【チ・1】 右の川の先』にすすむ
2
左の川
…『【チ・2】 左の川の先』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・1】 右の川の先
桃太郎は
右の川の方へと進みました。
次第に 周囲は山になり
道もなくなって
崖をよじ登りながら
進んでいきました。
いくつかの滝を越えて
山の奥へ 奥へと分け入って進むと
ついに
川の始まりに到着しました。
それは 小さな泉でした。
泉の底から
透き通った水が
こんこんと 湧き出ています。
桃太郎は
周囲を見渡しました。
近くに
桃の木は ありません。
ここへ来れば
自分の出生の秘密が
わかると思っていたのに
なにもわかりませんでした。
桃太郎は
なんだか 全身の力が抜けてしまい
泉のそばに
座り込みました。
そのときです。
1
桃の女神さまが 現れました。
…『【チ・3】 桃の女神さま』にすすむ
2
誰かが近づいてきました。
…『【チ・4】 やってきたのは…』にすすむ
3
天から光が落ちてきました。
…『【チ・5】 光』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・2】 左の川の先
桃太郎は
左の川の方へと進みました。
川は
岸壁の渓谷の間を
緩やかに流れています。
渓谷なので
川沿いの道などありません。
岸壁に登るのも 大変そうです。
桃太郎は
意を決して
川に入りました。
水は
桃太郎の膝くらいまであります。
ですが
流れが穏やかなので
冷たささえ我慢すれば
歩いて行けそうです。
桃太郎は
川の中を歩いて
源流を目指しました。
さすがに
ずっと水の中に 足を浸けているのは
しんどいので
大きな岩をみつけるたびに
その上に登って 休みました。
そうやって
休みながら進んでいくと
目の前に
大きな洞窟が現れました。
川は
この洞窟の中から
流れているのです。
こんなときのために
ロウソクを持ってきていました。
火打石で ロウソクに火を付けると
桃太郎は 洞窟の中へと
入っていきました。
真っ暗な中を
恐る恐る進んでいくと
そこにあったのは……
1
一軒家
…『【チ・6】 洞窟の中の家』にすすむ
2
工場
…『【チ・7】 洞窟の中の工場』にすすむ
3
桃源郷
…『【チ・8】 洞窟の中の楽園』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・3】 桃の女神さま
そのとき
桃の女神さまが 現れました。
「桃太郎さん
お久し振りです。
とても立派になられましたね」
「え……
ぼくのことを
知っているんですか?」
「ええ もちろんです。
あなたは
憶えていないと思いますが
会ってもいるのですよ。
ですが 覚えていなくて当然なので
気にしないでくださいね」
「……あなたは だれなのですか?」
「わたしは 桃の女神です。
察しの良い あなたなら
もう おわかりですよね。
そうなのです。
桃に入った あなたを
この泉から 流したのは
わたしなのです」
「そ それじゃあ……
ぼくのお母さん…… ですか?」
「そうとも言えますが
そうじゃないとも言えます。
あなたは
桃の国の子なのです」
「桃の国……
どこにあるのですか?」
「桃の国は どこにでもあります。
場所は 重要なことではないのです。
あなたは ここへ
自分が生まれた秘密を知るために
やってきましたね。
桃の国で生まれた あなたは
ある使命を持って
この国へと やってきました。
その使命とは
鬼を退治することかもしれませんし
別のことかもしれません。
しかし
使命を果たすことよりも
重要なことがあります。
それは
生きることです。
なにがあっても
生きてください。
生まれてきた理由や 使命は
もう気にしなくて大丈夫です。
あなたの人生は
すべて あなたのものなのですから。
思うがままに
生きてください。
誰かに信じられて
愛されるように
生きてください」
桃の女神さまは
微笑みながら
消えていきました。
「待って!
まだ聞きたいことが……」
桃太郎は
桃の女神さまに
手を伸ばして――
そこで
桃太郎は 目を覚ましました。
泉のそばで
いつの間にか
眠ってしまっていたようです。
目覚めた桃太郎は
なにか 夢を見ていたような
気がしましたが
なにも覚えてはいませんでした。
でも 心の中は
なぜか すっきりしていました。
桃太郎は
迷いの晴れた
すっきりとした顔で
家へと 帰りました。
そんな桃太郎の姿を
桃の女神さまは
陰から見ていました。
本当は 桃太郎に
『鬼退治に行く』という使命を
思い出させなくては
なりませんでした。
それが無理そうであれば
桃太郎を 桃に戻さなくては
なりませんでした。
なぜなら 桃太郎は
鬼退治をするために
生まれた戦士だからです。
しかし 桃の女神さまは
そのどちらもしませんでした。
自分の出生について悩む 桃太郎は
もうすっかり 普通の人間でした。
桃太郎は 桃の国の戦士ではなく
ただの人間になっていたのです。
それは 悪いことではなく
奇跡でした。
桃の国の民は
みな なにかしらの使命を持って
生まれてくるのです。
その使命から逃れることは
できないのです。
使命を果たすために生きて
使命を果たして 死んでいくのです。
それが 桃の国の民の宿命なのです。
しかし 桃太郎は
その宿命の輪から外れていました。
きっと 桃太郎が
もともと持っていた性質と
生まれ育った環境によって
奇跡が起きたのでしょう。
とはいえ
桃の女神さまには
それを修正する力がありました。
でも しなかったのです。
もしかしたら
桃太郎のことが
うらやましかったのかもしれません。
普通に生きること。
それが いかに贅沢なことであるかを
桃の女神さまは知っていました。
桃太郎には
ただただ普通に生きて
贅沢な一生を送ってほしい と
桃の女神さまは願うのでした。
おわり
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・4】 やってきたのは…
そのときです。
誰かが 泉の方へと
近づいてきました。
桃太郎は
とっさに 木の陰に
隠れました。
現れたのは
桃太郎と 同じ年の頃の
女の子でした。
女の子は
大きな水がめを 抱えています。
その水がめに
泉の水を たっぷり入れて
持ち上げました。
そのときです。
水を入れすぎたのか
女の子は 水がめを持ったまま
よろけてしまいました。
桃太郎は
とっさに飛び出して
水がめを支えました。
女の子は
桃太郎の 突然の登場に
おどろきましたが
でも すぐに
笑顔になりました。
女の子は
桃太郎に 水がめを渡すと
先だって 歩き出しました。
桃太郎は
水がめを持ったまま
戸惑いました。
女の子は
立ち止まって 振り返ると
ただ 微笑みました。
そのときには もう
桃太郎は 恋に落ちていました。
桃太郎は
水がめを 持って
女の子のあとに続きました。
桃太郎は
自分の出生の秘密を知りたくて
この泉へと やってきました。
でも 恋に落ちたとき
もう出生のことなど
忘れていました。
自分がなぜ 生まれたのか
どうやって 生まれたのか
それを知ることも
大事なことです。
でも 知ったところで
なにも変わりません。
そんなことよりも
今 ここで感じていることこそ
重要で 大事なのだと
桃太郎は 知りました。
そうして 桃太郎は
女の子と共に暮らし始め
永久に 幸せに暮らしました。
おしまい
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・5】 光
そのときです。
天から光が落ちてきました。
光は 桃太郎を包み込みました。
桃太郎は 今までに感じたことのない
幸せと 喜びに満たされました。
桃太郎の体は 軽くなり
光に満ちた 白い世界へと
飛んでいきました――
その光の正体は 雷でした。
偶然にも 落雷が
桃太郎に直撃したのです。
桃太郎が見た 白い世界は
死に際に見た景色だったのです。
泉の横には
焼け焦げた 桃太郎の遺体が
横たわっていました。
しかし その顔は
とても幸せそうでした。
おわり
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・6】 洞窟の中の家
洞窟の奥にあったのは
なんと 一軒家でした。
小さな門があって
門の上には 外灯が点いています。
家の方も 中から明かりが
もれていました。
桃太郎は
ドキドキしながら
「すみませーん
どなたか いらっしゃいますかー?」
と 声をかけました。
すると
家の扉が開きました。
顔を出したのは
桃太郎と 同い年くらいの 女の子です。
女の子は
怪訝そうな顔で
桃太郎を見ています。
「なんですか?」
女の子の声は
すこぶる 不機嫌そうでした。
「えっと……
この辺りに 大きな桃が
実ったりする木って
ありませんか?」
「……なに言ってるんですか?
こんなところに
木が生えていると思います?
それも 桃の木だなんて……
あ。
そう言って
桃の木を売りつけようっていう
新手の詐欺ですか?
うちは 結構ですので」
女の子は 扉を強めに閉めました。
その音が 洞窟の中に
響き渡りました。
しかしながら
女の子の言う通りです。
こんなところに
桃の木が あるわけありません。
聞くだけ野暮だったな…… と
桃太郎は 反省しました。
そのとき
扉が開く音がしました。
見ると
さっきの女の子が
また顔を出しました。
「あの……
もしかして
あなたが探しているのって
桃の木じゃなくって
桃実岩ですか?」
「とうじつのいわ?」
「桃の実の岩って 書くんですけど
桃の実のような形をした岩なんです。
見てみますか?」
桃太郎が見たいと言うと
女の子は その岩がある場所まで
案内してくれました。
それは 家の裏手にありました。
ここまで来てみて
やっとわかったのですが
この一軒家は 神社だったのです。
家の門の もう一つ奥に鳥居があって
家の半分は 神社になっていました。
その神社の さらに奥に
しめ縄で囲まれた場所があり
その中央に
大きな丸い岩がありました。
「あれが 桃実岩です。
こう見ても 桃っぽくはないのですが
あの岩からは 数百年に一つ
桃に似た岩が生まれると
言われているんです」
「岩から 岩が生まれるんですか?」
「そう言われています。
わたしはまだ 見たことがありませんが
父は 十四年前に 一度だけ
見たことがあるそうです。
あの岩の上のところから
小さな丸い岩が生まれて
ある程度の大きさになったら
自然と転がって
川に落ちていったそうです。
父は 川に落ちた岩を
ひろおうと したそうなのですが
どこを探しても
桃の岩は みつからなかったそうです。
岩が川を流れていくわけがないのにと
不思議そうに言っていました」
話を聞いている間
桃太郎の心臓は
高鳴り続けていました。
これだ。
これが ぼくの生まれた場所だ。
そう思えて しかたがありませんでした。
「……あの どうかしました?」
女の子は おどろいて聞きました。
桃太郎は いつの間にか
泣いていました。
涙が溢れて
止まりませんでした。
「あ…… すみません。
気にしないでください……
もう少しだけ
ここにいてもいいですか?」
「構いませんけど……
じゃあ わたしはこれで」
女の子は
不思議そうな顔をしながら
家へ戻りました。
桃太郎は
涙を流しながら
桃実岩を見ていました。
懐かしいような気もするし
ずっと そばにいたような気もします。
気づくと
桃太郎はしめ縄を越えて
桃実岩に近づいていました。
女の子が 慌てて出てきました。
「中に入っちゃだめです!」
でも 桃太郎は止まらずに
桃実岩に触れました。
すると
桃太郎の体が
桃色の光に包まれました。
桃太郎は 振り返って
女の子に微笑みかけると
そのまま 消えてしまいました。
女の子は
なにが起きたのかわからず
その場に 座り込んでしまいました。
桃太郎は……
桃色の光に包まれた
不思議な世界の中にいました。
上も下もなく
体もあるようで ありません。
そこは
地球の意思の中でした。
この星を守りたいと願う地球が
星を守るために必要な存在を
桃の形をした岩の中に入れて
産んでいたのです。
だから 桃太郎も
この星を守るためのことを
しなくてはなりませんでした。
桃実岩まで 戻ってきてしまった桃太郎は
いわば 失敗作であるとみなされ
再び 岩の中 つまり 地球の意思の中へと
戻されてしまったのでした。
すべての理由を知った 桃太郎でしたが
その意識は 次第に薄れていきました。
おじいさんと おばあさんと過ごした日々も
すべて 地球の意思の中に
溶け込んでいきました。
ですが 二人にまた会いたいと願う気持ちは
地球の意思の中を漂い続けました。
この気持ちが残り続けている限り
桃太郎は また産まれ
そして おじいさんと おばあさんのもとへ
会いに行くことでしょう。
おしまい
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・7】 洞窟の中の工場
洞窟の奥にあったのは 工場でした。
しかも なんだか怪しい気配がします。
桃太郎は ロウソクの火を消して
影に隠れながら
工場に近づきました。
中を覗き込むと
大勢の人が 働いていました。
しかし その人たちは
全員 足枷をしており
着ている服は ボロボロでした。
おそらく 奴隷として連れてきた人たちを
無理やりに 働かせているのでしょう。
そんな人々を 働かせているのは
なんと 鬼でした。
鬼どもが 人々を奴隷として
こき使っていたのです。
さらによく見てみると
この工場で作られているものは
虎柄のパンツと
トゲトゲの付いた金棒でした。
そのとき
桃太郎の中で
なにか燃えるようなものがありました。
居ても立ってもいられなくなった 桃太郎は
裏手口をみつけて
そこから内部へと潜入しました。
まず 見張りの鬼の目を盗んで
奴隷の人に近づくと
逃げる準備をするように伝えました。
そして 準備が整ったところで
火打石を使い 虎柄のパンツに
火を付けました。
火は 瞬く間に 燃え広がり
鬼どもは 混乱しました。
奴隷の人たちは
桃太郎から言われて
逃げる準備をしていたおかげで
みんな 工場の外へと
逃げることができました。
鬼どもと 工場は
すべて火に飲み込まれました。
桃太郎は 持ち出した鍵で
みんなの足枷をはずしました。
そして 自由になった人々と共に
洞窟から外へと出たのでした。
結局
川をさかのぼってみても
出生の秘密はわかりませんでした。
しかし 桃太郎は
大事なことを思いだしたのです。
それは
『鬼退治』でした。
忘れていた使命を思い出した 桃太郎は
洞窟から出た その足で
鬼ヶ島へと向かいました。
ここから 桃太郎の鬼退治へと
物語は続いていくのですが
それはまた 別の機会に……
おしまい
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【チ・8】 洞窟の中の楽園
洞窟の奥にあったのは
桃源郷でした。
洞窟の中なのに
なぜか明るい その場所には
色鮮やかな花々が咲き乱れ
見たことのない果実が たわわに実り
煌びやかな蝶が舞い
極彩色の鳥が飛んでいました。
桃源郷に 足を踏み入れると
甘美な香りが 全身を包み込みました。
気が付くと
世界中の美女たちが
桃太郎を取り囲んでいました。
桃太郎は
初めて感じる甘い誘惑に
身も心も 溺れていきました……
――現実とは 常に残酷なものです。
桃太郎は 洞窟の奥で
放射性物質を放つ 岩を抱いたまま
我を忘れてしまっていました。
桃源郷は 幻覚だったのです。
この洞窟は 入り口から もうすでに
高濃度の放射能にまみれていました。
そうとは知らずに
足を踏み入れてしまった 桃太郎は
ゆっくりと 放射能に侵されていき
ついに桃源郷の幻覚を見るまでに
なってしまったのです。
その後
桃太郎の姿を見た人はいません。
今もまだ
桃源郷の中で
甘い夢を見続けているのかも
しれません……
おわり
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