【ヘ】 アレクサンダーの選択
●【ヘ】 アレクサンダーの選択
――数年後
アレクサンダーは 英語がペラペラの
とっても優秀な若者になっていました。
ある日 アレクサンダーは
おじいさんと おばあさんに言いました。
1
「鬼退治に いってまいります」
…『【ヘ・1】 アレクサンダーの鬼退治』にすすむ
2
「船の旅に いってまいります」
…『【ヘ・2】 アレクサンダーの船旅』にすすむ
3
「この国を立て直してきます」
…『【ヘ・3】 アレクサンダーは政治家』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・1】 アレクサンダーの鬼退治
アレクサンダーは
「鬼退治に いってまいります」
と言いました。
おじいさんと おばあさんは
こんな日がくると予感していたので
すでに準備を整えていました。
おじいさんは
西洋風の マントの付いた洋服と
西洋の剣である ロングソードを
アレクサンダーに渡しました。
おばあさんは
アレクサンダーの好きな クッキーを
渡しました。
そして アレクサンダーは
おじいさんと おばあさんに別れを告げて
鬼退治へと 旅立ちました。
…『【ヘ・4】 最初のお供』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・2】 アレクサンダーの船旅
アレクサンダーは
「船の旅に いってまいります」
と言いました。
アレクサンダーは
世界を巡る豪華客船に
船員として 搭乗することが
すでに決定していたのです。
おじいさんと おばあさんは
笑顔で いってらっしゃいと言って
アレクサンダーを 送り出しました。
それから……
アレクサンダーは
搭乗した豪華客船が
大海原の真ん中で難破して沈没し
酒樽にしがみついて
三十日間 漂流するも
なんとか生き残ったり
また別の豪華客船に搭乗したときは
鬼の海賊船に襲撃され
アレクサンダーは みんなを守るために
たった一人で 戦いを挑み
全身に 深い傷を負いながらも
鬼の海賊を 退治して
ヒーローと呼ばれたりしました。
さまざまな経験を経て
アレクサンダーが 故郷に帰ってきたのは
出発してから 三十年後のことでした。
おじいさん おばあさんと
三人で暮らした家は
もうすでに朽ち果てていました。
庭だった場所へ行くと
大きな岩が 二つ
並んで置かれていました。
すっかり 苔に覆われていましたが
その岩には
おじいさんと おばあさんの名前が
それぞれに刻まれていました。
アレクサンダーは
近くの川で 水をくんでくると
二人のお墓の 掃除を始めました。
すると 墓石の後ろ側に
文字が刻まれていました。
おばあさんの墓石には
こう刻まれていました。
『わたしたちの息子アレクサンダーが
無事に航海を続けていますように』
おじいさんの墓石には
こう刻まれていました。
『アレクサンダー がんばれ』
二人からの言葉を読んで
アレクサンダーはようやく
泣くことができました。
その場に突っ伏して
涙も 声も枯れるまで
泣き続けました。
アレクサンダーは 世界を巡ることで
世界中の さまざまなことを学びました。
なかなかできない経験も
たくさんしました。
多くの人に出会い
人種も 文化も関係なく
友達になることができました。
この経験と出会いは
自分にとって大切な財産だと
誇りに思っていました。
だけど もしかしたら
それは 自分じゃなくてもできたこと
なのかもしれません。
外国語を話すことができて
人と交流することが好きな人なら
アレクサンダーと同じ経験をすることが
できたかもしれません。
でも
おじいさんと おばあさんの息子は
自分しかいなかったのです。
おじいさんと おばあさんを
幸せにしてあげられるのは
自分しかいなかったのです。
なのに 自分の願望だけを優先し
三十年も 帰りませんでした。
むしろ この三十年間
おじいさんと おばあさんのことは
ほとんど忘れていました。
おじいさんと おばあさんのおかげで
英語が喋れるようになり
世界を巡ることができたというのに
なに一つ 恩返しをしませんでした。
アレクサンダーは 今になって
ものすごく親不孝をしていたことに
気づきました。
世界は広く 人はたくさんいる。
だけど 自分の家族は
ここにしかいない。
大事なことに気づいたときには
もう 大事な家族はいませんでした。
アレクサンダーは
三日三晩 泣き続けたあと
村を去りました。
その後 アレクサンダーは
旅はもうやめて
町で英語の先生をしながら
家庭を築き 子どもを育て
穏やかに暮らしたそうです。
おわり
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・3】 アレクサンダーは政治家
アレクサンダーは
「この国を立て直してきます」
と言いました。
「この国は 古い歴史と 文化を持つ
とても素晴らしい国です。
ですが 今 この国の
素晴らしい文化や 伝統が
失われようとしています。
今こそ この国を守るために
立ち上がるときなのです!」
アレクサンダーの 熱い言葉に
おじいさんは 立って拍手しました。
「よくぞ 言った!
わしは おまえが
そう言ってくれることを
心待ちにしておったんじゃ」
おじいさんは
貴重品の入った 引き出しから
なにかを取り出しました。
それは
『柴刈り党』の党員バッジでした。
「わしは
柴刈り党の党員でな。
アレクサンダーが政治家になりたいと
言い出したときに備えて
すでに 選挙戦用の地盤は
固めてあるんじゃ」
アレクサンダーは おどろきました。
おじいさんが
保守派で有名な政党の
党員だったことにも
アレクサンダーのために
すでに選挙戦の準備を
始めていたことにも
おどろきました。
「そうと決まれば
さっそく 党員たちに
挨拶を――」
「待って おじいさん。
一緒には いけない」
「……なぜじゃ?」
「ぼくは……」
アレクサンダーは バッジを見せました。
それは『鬼ヶ島党』の
党員バッジでした。
鬼ヶ島党は 数年前にできたばかりの
若い政党です。
革新的な政治活動をしており
保守的な 芝刈り党とは
真逆の政党でした。
「なっ なんで そんな野蛮な党に!」
「鬼ヶ島党は 野蛮ではないよ。
この国の歴史も 文化も 伝統も
すべてを守るためには
古い体制を 壊さなくては
ならないんだ」
「なにを バカなことを!
奴らがやろうとしていることは
この国の 根幹を壊すことだ!
あんなやり方で
歴史も 伝統も 守れるわけがないっ!」
「保守的な人は
すぐに そうやって批判ばかりする。
きちんと見ようとも
話し合おうともしない。
そんなんだから
他国に騙されるんだ」
「だっ 騙されてるのは おまえだ!
わしは ぜったいに許さんぞ!
そんな政党に入ることは!」
「これは おじいさんに
許してもらうかどうかの
話ではないんだよ。
それに ぼくはもう
鬼ヶ島党から 出馬することが
決まっているんだ」
「なっ なんだと!
わしが おまえに
投票をしてもらうために
どれだけの人に 頭を下げて
どれだけの金銭を 渡してきたか……」
「それは おじいさんが
勝手にやったことだ。
ぼくは 頼んでもいないし
それに 選挙絡みで
金銭の授受があったなんて知れたら
一巻の終わりだってこと
ちゃんとわかってる?」
「でっ でっ 出ていけぇっ!
二度と うちの敷居を またぐなっ!」
おじいさんは 顔を真っ赤にして
叫びました。
「お おじいさん!
冷静になってください!
アレクサンダーも
落ち着いてちょうだい!」
「おばあさん ごめんなさい。
今まで 本当にありがとう。
さようなら」
アレクサンダーは
なにも持たずに
出て行ってしまいました。
「お おじいさん……」
「うるさいっ!
ばあさん 塩!
塩 撒いとけ!」
おじいさんは おばあさんに
背中を向けて そう言いました。
おじいさんの背中は
いつもより 小さく見えました……
家を出た アレクサンダーは
町に向かって 歩いていました。
すると……
「アレクサンダーや!」
おばあさんが 追いかけてきました。
「おばあさん……
ぼくは 帰らないよ」
「わかってます。
これを 持ってお行き」
おばあさんが 渡してくれたもの……
それは アレクサンダーの大好物の
きびだんごでした。
「どんなことがあっても
あなたは わたしたちの息子だよ。
いつでも 帰っておいで」
「おばあさん…… ありがとう。
いってきます」
「いっておいで。
がんばるんだよ」
アレクサンダーは 急いで背中を向けて
歩き出しました。
ポロポロと
涙がこぼれ落ちました。
おばあさんは
アレクサンダーが見えなくなるまで
いいえ 見えなくなったあとも
ずっと 見送り続けていました。
――その後
アレクサンダーは
鬼ヶ島党から出馬しました。
その際 アレクサンダーは
「この国の文化や伝統を守るためにも
ふさわしい名前に 改名します」
と宣言して
名前を アレクサンダーから
『桃太郎』に 変えました。
選挙期間中
桃太郎は
とにかく 歩き回りました。
歩いて 多くの人と話して
熱意と情熱を 伝え続けました。
その結果は……
1
当選しました。
…『【ヘ・11】 政治家になった桃太郎』にすすむ
2
落選しました。
…『【ヘ・12】 落選した桃太郎は…』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・4】 最初のお供
アレクサンダーが
鬼ヶ島を目指して 歩いていると
三つの影が 近づいてきました。
それは……
1
ボクサー(犬の種類)
クロクマ
ハクトウワシ
…『【ヘ・5】 チームA』にすすむ
2
ボクサー(ボクシングをやる人)
アメフトの選手
バスケの選手
…『【ヘ・6】 チームB』にすすむ
3
大統領
ボディーガードのスミス
ボディーガードのジョン
…『【ヘ・7】 チームC』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・5】 チームA
それは 大型犬のボクサーと
真っ黒な毛並みの クロクマと
頭が白い ハクトウワシ でした。
「アレクサンダーさん
お腰に付けた クッキーを
わたしたちに くださいな」
アレクサンダーは
それぞれに クッキーを
あげました。
こうして
ボクサーと クロクマと ハクトウワシは
アレクサンダーの お供として
一緒に 鬼ヶ島へ
行くことになりました。
…『【ヘ・8】 鬼ヶ島へ、レッツゴー』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・6】 チームB
それは
ボクシングのヘビー級チャンピオンと
アメリカンフットボールで
MVPにも選ばれた選手と
バスケットボールリーグで
チームを幾度も優勝に導いた選手でした。
「ヘイ! アレクサンダー!
うまそうな クッキーじゃん!
おれらにも くれよ!」
アレクサンダーは
それぞれに クッキーを
あげました。
三人は クッキーの お礼として
アレクサンダーの鬼退治に
ついていくことにしました。
そのときです。
藪の中から
それぞれの選手のマネージャーが
現れました。
「鬼退治に 同行するには
契約を結ぶ必要があります」
アレクサンダーは マネージャーたちから
それぞれの契約書を渡されました。
契約書の内容は
選手ごとに まったく違いました。
しかも どの契約書も
二百ページ以上 ありました。
契約内容はというと
『ケガを負うようなことは
絶対にしない』
『スポンサーの関係上
暴力行為は 一切禁止』
『もし 選手生命に関わるようなことが
発生した場合 その責任のすべてを
アレクサンダー氏が請け負う』
などと言うものでした。
どの契約内容も 一方的なもので
アレクサンダーの意見を 聞き入れる余地は
少しも残されてはいませんでした。
こんな契約内容では
とても 一緒に鬼退治など
できそうにありません。
「契約が結べないのならば
選手を 同行させるわけには
いきません」
マネージャーたちは そう言って
選手を引っ張って 帰っていきました。
結局 アレクサンダーは
一人で 鬼ヶ島へ向かいました。
…『【ヘ・9】 一人きりの鬼退治』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・7】 チームC
それは 大統領と
そのボディーガードの
スミスと ジョンでした。
「オー ミスターアレクサンダー!
では さっそく
クッキーを いただこうか」
アレクサンダーは
大統領に クッキーを
渡そうとしました。
しかし 横から
ボディーガードの二人が出てきて
そのクッキーを 奪いました。
「まずは 我々が毒見をしますので」
ボディーガードの二人は
念入りに クッキーを食べて
安全性を確認しました。
「オッケーです プレジデント。
では どうぞ」
アレクサンダーは 改めて
大統領に クッキーを渡しました。
「ん~ ヤミィ!
まるで 母が作ったような
懐かしい味だ。
では 共に鬼ヶ島へ
行くとしようか」
大統領は そう言って
先行して歩き出しました。
アレクサンダーは そのあとに続いて
鬼ヶ島へと向かいました。
…『【ヘ・10】 大統領の鬼退治』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・8】 鬼ヶ島へ、レッツゴー
アレクサンダーは
お供たちと共に 舟に乗り込んで
鬼ヶ島へ向かいました。
その際 お供たちは
「舟を こぐのは
我々の仕事ではない」
と言って まったく手伝ってはくれず
最後まで アレクサンダーが 一人でこぎました。
さて いよいよ 鬼ヶ島へ到着しました。
アレクサンダーは
全員で 一丸となって戦う作戦を
伝えようとしたのですが
気づいたときには
もうすでに お供たちは
鬼に向かって走り出していました。
ボクサーも クロクマも ハクトウワシも
それぞれに 戦っています。
もはや チームとしての連携は
一つもありませんでした。
そのとき ボクサーが
鬼どもに囲まれてしまいました。
そのことに気づいた アレクサンダーは
すぐさま助けに行きました。
アレクサンダーの攻撃によって
ボクサーは 難を逃れました。
しかし……
「おい! 勝手なことをするな!
あれくらい おれだけの力で
切り抜けられる!」
アレクサンダーは 怒られてしまいました。
その後も それぞれに戦いながら
鬼退治は 続きました。
アレクサンダーが まだ手下の鬼たちと
戦っていたときです。
「鬼の王を 討ち取ったぞー!」
と クロクマが叫びました。
負けを悟った鬼たちは
全員 降伏しました。
こうして 鬼退治は
成し遂げられたのでした。
その後 鬼が奪った金銀財宝を持って
凱旋をすると
クロクマは
自分が 鬼の王を討ち取ったことを
自慢し
ボクサーは
自分が いちばん鬼を倒したと言って
自慢し
ハクトウワシは
陰に隠れて 奇襲しようとする鬼どもを
自分が 空から見つけて倒したから
他の奴らは 戦果をあげられたんだと言って
自慢しました。
アレクサンダーは 金銀財宝の返還手続きという
事務作業を 淡々とこなしました。
その作業が ようやく終わった頃
お供たちは もうどこにもいませんでした……
鬼退治は アレクサンダーが
始めたことでした。
しかし
その事実を知る人は
ほとんどいません。
それでも アレクサンダーは
「ああ 平和になって よかった」
と思いながら
家路につきました。
その後も ときどき
ボクサーや クロクマや ハクトウワシが
『鬼退治をした英雄』として
メディアに登場することがありました。
一方で アレクサンダーは
おじいさんの跡を継いで
山で 柴刈りをしていました。
本物の英雄は
誰もやろうと思わなかったことを
やり始めた人なのかもしれません。
誰もが恐れて 踏み出せなかった一歩を
果敢にも 踏み出した人こそ
本物の 英雄なのかもしれません。
または 手柄を誇らない人こそ
本物の 英雄なのかもしれません。
アレクサンダーは 今日も静かに
山で 柴刈りをしているのでした。
おしまい
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・9】 一人きりの鬼退治
アレクサンダーは たった一人で
鬼ヶ島に上陸しました。
すぐ 鬼たちに気づかれました。
しかし 鬼たちには
まったく敵意がありません。
「どうした?
舟が 故障でもしたか?」
「えっと……
鬼退治に 来たんですけど」
「鬼退治?
おまえ 一人で?
一緒に来てくれる仲間は
いなかったのか?」
鬼たちは アレクサンダーを警戒するどころか
むしろ 心配してくれました。
話を聞いて
鬼の王が 外へと出てきました。
「たった一人で
鬼ヶ島に乗り込んでくる度胸は
立派だ。
だが 無謀なことは 立派じゃないぞ。
無謀なことをする奴は
英雄じゃない
ただのバカだ。
今回は おまえの度胸と 勇敢さに免じて
無罪放免で帰してやる。
だが 次はないぞ。
おれたちも 黙って退治なんて
されねぇからな」
アレクサンダーは そのまま舟に乗せられ
帰らされました。
この経験から
アレクサンダーの 鬼に対する認識が
大きく変わりました。
退治する前に
話し合うことが大事だと
気づきました。
そして アレクサンダーは
人間と 鬼の仲介者となって
話し合いの場を設けました。
話し合いは難航しました。
幾度となく 話し合いの場で
ケンカが起きました。
それでも アレクサンダーは
諦めようとしませんでした。
根気強く 話し合いの場を設け続けた結果
ある日 ついに笑い声が起きました。
冗談を言い合えるようになったのです。
こうして 人間と鬼は和解し
その後 平和に共存し続けたのでした。
おしまい
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・10】 大統領の鬼退治
アレクサンダーは
鬼ヶ島へ向かうため
漁師さんに 舟を借りようとしました。
しかし 大統領に止められました。
「ミスターアレクサンダー。
実は もう作戦は始まっているんだ。
見ててくれ」
そう言って
大統領は 海の向こうの鬼ヶ島を
指さしました。
すると 遠方から戦闘機が 五機
飛んできました。
戦闘機は 鬼ヶ島を上空から爆撃しました。
鬼ヶ島は 瞬く間に
火の海に包まれました。
「オーケー。作戦完了だ」
戦闘機は 空に線を引きながら
彼方へと 去っていきました。
「ミスターアレクサンダー。
これで あなたの目的は
達成された。
おめでとう」
大統領は そう言って
ボディーガードの二人と共に
去っていきました。
この『鬼ヶ島空爆作戦』は
すべて 大統領が命じてやったことでした。
しかし あとになって
『卑怯だ!』
『非人道的だ!』
という声が高まると
いつの間にか アレクサンダーが命じた
作戦だということに なっていました。
アレクサンダーは 世界中から
非難を浴びました。
大統領に 連絡を取ろうとしましたが
すべて無視されました。
その後 この鬼ヶ島の空爆は
『アレクサンダーの鬼ヶ島空爆大虐殺』
として 歴史に残ってしまいました。
あれから アレクサンダーがどうなったのかは
誰も知りません。
実は 名前を
アレクサンダーから 桃太郎に変えて
生き残った鬼たちのために
生活をサポートするなどの
ボランティア活動をおこなっていたのです。
それを知る人は 一人もいません。
歴史が 常に真実とは限りません。
何者かの思惑によって
書き変えられてしまうこともあります。
真実を知るためには
自分自身で調べ 考え
そして 見極めることが必要なのです。
なにを信じるかは
今を生きる人たちに
ゆだねられているのです。
おわり
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・11】 政治家になった桃太郎
桃太郎は
厳しい選挙戦を勝ち抜いて
鬼ヶ島党の政治家になりました。
理想に燃える 桃太郎は
『今 一番勢いのある若き政治家』
『期待の政治家 ナンバーワン!』
などと 注目されて
瞬く間に 時の人になりました。
しかし
政治の世界は
甘くありませんでした。
桃太郎が 国民が望む
減税や 議員数の削減などを提案しても
まったく 話を聞いてもらえませんでした。
なのに
増税や 議員報酬増額法案など
国民が まったく望んでいない話ばかり
国会で取り上げられて
可決していきました。
国民の声が
一つも反映されてない
腐りきった国会に
桃太郎の怒りは
もう爆発寸前でした。
そんなとき
鬼ヶ島党の党首である 赤鬼議員が
桃太郎を 料亭へと呼びました。
「眉間にシワが 寄ってるねぇ 桃太郎くん。
実に 政治家一年目らしい顔に
なってきたじゃないか」
「眉間にシワくらい寄りますよ。
国政が腐っていることは
わかっていましたが
まさか ここまでだったとは……」
「きみの気持ちは よくわかるよ。
だがね どんなに咆えたところで
大局は変わらないんだよ」
「……どういうことですか?」
「つまりだね
大局は 常に 我々の手の内に
あるということさ」
そのとき 奥のふすまが開きました。
部屋へ入ってきたのは
柴刈り党の党首であり
現内閣総理大臣の 古尾二(こおに)首相でした。
保守派で与党の 柴刈り党と
革新派で野党の 鬼ヶ島党は
敵対し合う関係です。
なのに
その党首同士が
一緒にいるなんて……
「ど どういうことでしょうか これは?」
「わからないかね?
つまり 我々 鬼ヶ島党と
敵対関係にある 柴刈り党は
表裏一体…… いや むしろ
同一体と 言った方がよいかな。
そうだよね 古尾二くん?」
「はい おっしゃる通りです」
桃太郎は
ますます わけがわからなくなってきました。
現在の総理大臣が
野党の党首に対して
敬語で しかも正座をしています。
年齢も 古尾二総理の方が
二十歳以上 上なのに なぜ……
「混乱しているようだね 桃太郎くん。
では 簡潔に話そう。
この国を裏で操っているのは
我々 鬼なんだよ。
柴刈り党も 最初から
我々 鬼が指示して作らせた
政党なのだ。
だが 一つの政党が
実権を握り続けていると
国民の不満が高まってしまう。
そこで ガス抜きをするために
新たに作ったのが
鬼ヶ島党っていうわけだ。
ようするに
与党も野党も
我々 鬼の描いたシナリオを
実行するためにあるだけなんだよ。
これで だいたいわかったかな?
つまり この国そのものが
鬼ヶ島だったってわけだ」
桃太郎は 急激な 喉の渇きを覚え
水を飲もうとしました。
しかし 手が震えて 飲めませんでした。
「おや?
今の話は ちょっと刺激が強すぎたかね?」
「……ど どうして ぼくにその話を?」
「それが本題なんだ。
古尾二くん あれを」
「はい 赤鬼さま」
古尾二首相が 鞄の中から取り出したのは
現金の束でした。
「とりあえず 五千万ほどある。
安心したまえ。
国家機密費だから 足はつかないよ。
これで もろもろ準備を整えて
きみには 鬼ヶ島党の党首になってもらう」
「ぼ ぼくが 党首に?」
「さっきも言ったが
鬼ヶ島党は 国民のガス抜きを
おこなうために作った党なんだよ。
だから 国民からの支持率が高い きみに
党首になってもらって
一気に ガス抜きをしようっていう
シナリオだ。
もちろん やってくれるよな?」
桃太郎は……
1
党首になる
…『【ヘ・13】 鬼ヶ島党、党首』にすすむ
2
党首にならない
…『【ヘ・14】 政治家・桃太郎の行方』にすすむ
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・12】 落選した桃太郎は…
桃太郎は 落選してしまいました。
政治の世界は
情熱だけで勝負できる世界では
ありませんでした。
帰る場所も失った 桃太郎は
公園のベンチで うなだれていました。
「情けないのう……」
その声に 顔をあげると
そこにいたのは
おじいさんと おばあさんでした。
「一回 落選したくらいで
人生が終わったかのような顔をしよって。
情けないぞ アレクサンダー」
「おじいさん…… ごめんなさい。
ぼくが 未熟なばっかりに……」
「いいから。
ほれ 帰るぞ」
「え…… でも……」
「ここにいたいんか?
だったら 無理にとは言わんが……」
「おじいさん!
もう 素直じゃないんだから。
アレクサンダー
わたしも おじいさんも
ずっと あなたのことを
心配していたんですよ。
今日は一緒に帰って
明日からのことは
また明日 考えましょう」
おばあさんの言葉に
桃太郎 こと アレクサンダ―は
こくんと うなずきました。
その後
名前を アレクサンダーに戻すと
次回の選挙に向けて
おじいさんと一緒に
活動していくことになりました。
話し合いの結果
柴刈り党でも 鬼ヶ島党でもなく
新党『桃どんぶらこ党』を結成して
出馬することになりました。
アレクサンダーが
政治家になれたのか どうかは
また別の機会に 語るとしましょう。
おわり
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・13】 鬼ヶ島党、党首
――数ヶ月後
桃太郎は
鬼ヶ島党の党首になりました。
新人議員の 異例の大出世に
世間は おどろくと同時に
大いに 期待しました。
しかし すべては
黒幕である 赤鬼のシナリオ通りにしか
進みませんでした。
徐々に 桃太郎の人気は
低下していきました。
これもまた 赤鬼のシナリオ通りでした。
もちろん そのことを
桃太郎は知りませんでした。
すべては 赤鬼のシナリオ通りに進み
増税法案の可決も
もはや 時間の問題でした。
党首としての 桃太郎には
もはや 打つ手がありませんでした。
……が しかし。
桃太郎が見せていた その弱気な姿は
すべて 演技だったのです。
ずっと 裏で暗躍し
準備を続けていたのです。
すべてを覆すための 準備を。
――翌日
この日 増税法案を巡る
国会での党首討論が 予定されていました。
しかし それは形ばかりで
各党首が 読み上げる原稿は
すべて 赤鬼が書いたシナリオでした。
もちろん
桃太郎が読み上げる原稿も
赤鬼のシナリオによるものでした。
しかし
桃太郎は 別のシナリオと資料を
用意していたのです。
いよいよ
桃太郎の出番がやってきました。
「まず こちらの写真をご覧ください」
桃太郎が提示したのは
赤鬼と 古尾二首相が
談笑している写真でした。
しかも その周囲には
凶悪な鬼たちがいました。
この一枚の写真だけで
首相と 赤鬼議員の繋がり
そして
社会的に不適切な鬼たちとの繋がりも
明確になりました。
さらに 桃太郎は
あの日 赤鬼と 古尾二首相と密会した
料亭での 音声付き動画を公開しました。
桃太郎は 常に警戒していたため
誰かと密会する際は
隠し撮りをしていたのです。
これらの証拠によって
この国の政界の闇が すべて暴かれ
多くの政治家が 逮捕されました。
桃太郎は
国政の闇に潜み続けていた鬼どもを
見事に退治したのです。
その後 桃太郎は
新党『桃どんぶらこ党』を結成し
崩壊した国政を立ち直すために
戦い続けました。
そして 数年をかけて
金銭問題も 派閥問題もなく
適正な議員数によっておこなわれる
健全な政界が確立したのでした。
こうして この国は
アレクサンダー 改め 桃太郎によって
国民に優しくて 住みやすい
とても素晴らしい国に
なったのでした。
めでたし めでたし
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
●【ヘ・14】 政治家・桃太郎の行方
――翌日
党首になる話を断った 桃太郎は
一方的に 議員辞職が受理され
国会を追い出されてしまいました。
桃太郎は すぐさま反論すべく
すべてをリークしようとしましたが
謎の男から
おじいさんと おばあさんの
写真を渡され
「この意味 わかるよな?」
と 脅迫を受けました。
桃太郎は 政治家を諦め
田舎へ帰りました。
しかし 実家へ帰ることは
おじいさんが許してくれませんでした。
桃太郎は 近くの空き家を借りると
そこで農業を営みながら
暮らし始めました……
桃太郎は もうすべてを
諦めてしまったのでしょうか?
闇の権力と戦うことは
本当に 恐ろしいことです。
それを体感してしまった 桃太郎は
もう立ち上がることが
できないのかもしれません。
今はただ
この国の民のために
国会に巣食う鬼を倒すべく
桃太郎が 再び立ち上がってくれることを
待ち望むばかりです……
おわり
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