【ホ】 桃の女神さまの謝罪

●【ホ】 桃の女神さまの謝罪


 おじいさんと おばあさんは

 ぎっくり腰で 入院してしまいました。


 桃から生まれた男の子は

 ひとまず 『桃』と名付けて


 同じ病院の小児科で

 預かってもらいました。


 ――その夜


 おじいさんと おばあさんの病室に

 桃の女神さまが 現れました。


「おじいさま おばあさま……

 このたびは 突然に現れて

 おどろかせてしまい

 本当に 申し訳ありませんでした」


 桃の女神さまは

 深々と 頭を下げました。


「そんな 滅相もございません!


 わしらこそ

 おどろきすぎてしまって

 申し訳ありませんっ!」


 おじいさんと おばあさんは

 寝たきりのままでしたが

 首を しきりに曲げました。


「桃の女神さま

 ついでと言っちゃなんですが


 一つ 聞いてもいいですかね?」


 と おじいさんは言いました。


「もちろんです。

 なんでしょう?」


「どうして あの子の 名前を

 変えるように 言ったんです?


 わしらは 子宝に恵まれんかったので

 子に 名前を付けるという経験を

 これまでに 一度もしてこんかった。


 だが 子の 名前というものは

 親が その子を想って

 付けるもんなんじゃ

 ないんですかね?


 なのに 女神さまは

 わしらに 名前を変えろと

 おっしゃられた。


 もしかして あの子には

 もう決まっている 名前が

 あるんじゃないんですかね?」


「……はい。

 おじいさまの おっしゃる通りです。


 本来 お子の名というものは

 親が 願いを込めて

 付けるべきものです。


 ただ あの子には

 桃太郎という名が あるのです。


 桃太郎は 我ら桃の国の子です。


 実は ある使命を持って

 この地へと 桃に入れられて

 送られました。


 我ら桃の国の者たちは

 もともと 不思議な力を持っており

 あの桃には


『桃から出てきた男の子を

 桃太郎と名付ける』


 という術が

 かけられていました。


 その術が うまく作動せず

 別の名前を付けられそうに

 なってしまったため


 わたしが 急遽 出てきたという

 わけなのです」


「そうでしたか……

 わかりました。


 すでに 名前があるのならば

 わしらも その名で呼びましょう

 桃太郎 と。

 それでよいな ばあさん?」


「ええ そうですね。

 そうしましょう。


 ところで 女神さま。

 あの子の使命とやらは

 いったい なんなのですか?


 危険なことではないと

 いいのですが……」


「あの子に 課せられている

 使命について

 お話しすることは できません。


 ですが いずれ必ず

 わかる日がやってきます。


 そのとき

 おじいさまと おばあさまには

 あの子を 笑顔で

 送り出してあげてほしいのです」


「……はい わかりました。

 必ず 笑顔で送り出します」


「ありがとうございます。


 最後に わたしの力で

 腰の痛みを 取り除いてさしあげます」


「そんなことができるのですか!

 さすが 桃の女神さま!


 もう痛くて 痛くて

 横になってるのも

 しんどかったから 助かりますわ~」


「では お二人とも

 目を閉じてください。


 少し眠ってもらいますが

 朝になって 目覚めたときには

 腰の痛みはなくなっていますよ。


 では あの子のこと

 よろしくお願いいたします」


 桃の女神さまは

 どこからともなく

 桃の枝を 取り出しました。


 桃の枝には

 桃の花が いくつか咲いていました。


 桃の女神さまが 桃の枝を振ると

 桃色をした 光の粉が

 おじいさんと おばあさんに

 降り注ぎました。


 一つ 桃の女神さまは

 嘘をつきました。


 桃の女神さまが 今 かけた魔法には

 腰の痛みを治す作用の他に


 もう一つ

 記憶を消す作用も

 含まれていたのです。


 桃の女神さまは

 おじいさんと おばあさんの記憶から

 桃の女神に会ったことや

 話したことの ほとんどを

 忘れるように 魔法をかけたのでした。


 桃の女神さまは

 ぐっすりと眠っている

 おじいさんと おばあさんに

 一礼し 姿を消しました。


 ――翌朝


 おじいさんと おばあさんは

 ぎっくり腰が すっかり治っていて

 おどろきました。


 むしろ ぎっくり腰になる前より

 元気になった気すらしました。


 看護師さんが

 預かっていた男の子を

 連れてきてくれました。


「さて 一緒に帰るとするかのう。

 桃太郎よ」


 おじいさんと おばあさんは

 桃太郎と一緒に

 家へと帰りました。


 桃太郎は すくすくと成長し

 あっという間に 立派な若者になりました。


 そして 桃太郎は

 おじいさんと おばあさんに 言いました。


  …『【イ・5】 桃太郎、鬼退治へ』にすすむ

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