【ニ】 金太郎の冒険

●【ニ】 金太郎の冒険


 おじいさんと おばあさんは

 桃から生まれた 男の子の名前を

 金太郎から 変えませんでした。


 たとえ 桃の女神さまで あろうとも

 大事な息子の 名前は

 自分たちで決めたいと

 二人は 思ったのです。


 こうして金太郎は

 優しい おじいさんと おばあさんのもとで

 すくすくと 育ちました。


 金太郎は 生まれたときから

 とっても 力持ちでした。


 たとえば 金太郎が 一才のとき


 おばあさんが

 苦労して持ち上げていた 漬物石を

 片手で ひょいと持ち上げました。


 二才のときには


 山で ぎっくり腰になって

 動けなくなった おじいさんを

 たまたま 一緒に来ていた 金太郎が

 軽々と おぶって

 家まで 運んでくれました。


 心優しくて 力持ちの 金太郎は

 村のみんなから 愛されていました。


 そんな金太郎が

 四才になったときのことです。


 金太郎に おともだちができました。

 それは……


  1

 山の動物たち

  …『【ニ・1】 おともだちは、動物』にすすむ


  2

 村の子どもたち

  …『【ニ・2】 おともだちは、子ども』にすすむ


  3

 犬と猿と雉

  …『【ニ・3】 おともだちは、お供たち』にすすむ




 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


●【ニ・1】 おともだちは、動物


 金太郎にできた おともだちは

 山の動物たちでした。


 ウサギどん リスどん シカどん

 フクロウどん タヌキどん…… などが

 金太郎の おともだちに なりました。


 ある日 山の動物たちが

 栗拾いに行こう と

 金太郎を 誘いにやってきました。


 おばあさんに 行ってもいいかを

 聞きに行くと


「行っておいで。

 でも 吊り橋の向こうへは

 行っちゃいけないよ」


「うん わかった!

 いってきまーす!」


 金太郎は 山の動物たちと

 栗拾いに 出発しました。


 みんなで 栗を拾っていると


「おい みんな!

 あっちに おっきな栗の木があるよ!」


 と リスどんが 言いました。


 その大きな栗の木は

 吊り橋の 向こう側にありました。


 動物たちは すぐに吊り橋を渡りました。


 金太郎が 迷っていると

 動物たちは

 吊り橋が怖くて 渡れないのだと思い

 笑いました。


 金太郎は 笑われたことに 腹を立てて

 おばあさんとの 約束を破って

 吊り橋を 渡りました。


 吊り橋を渡った先には

 本当に 大きな栗の木がありました。


 実っている栗も

 とても大きくて 立派です。


 金太郎と 動物たちは

 夢中になって 栗を拾いました。


 そのときです。


 大きな 大きなクマが

 藪の中から 現れました。


 吊り橋の こちら側は

 この大きなクマの 陣地だったのです。


 動物たちは 逃げようとしましたが


「ガァオォォォォォォッ!」


 クマの 大きな咆哮で

 体がすくんでしまい

 動けなくなってしまいました。


「おれさまの 栗を盗むとは

 いい度胸を してるじゃねぇか」


 クマは おびえる動物たちに

 詰め寄りました。


 すると 金太郎が

 クマの前に 立ちはだかりました。


 金太郎は

 クマを 睨んで言いました。


「やい クマどん!

 ぼくと……


  1

 すもうで 勝負しろ!

  …『【ニ・4】 すもうで勝負』にすすむ


  2

 栗拾いで 勝負しろ!

  …『【ニ・5】 栗拾いで勝負』にすすむ


  3

 早口言葉で 勝負しろ!

  …『【ニ・6】 早口言葉で勝負』にすすむ




 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


●【ニ・2】 おともだちは、子ども


 金太郎にできた おともだちは

 村の子どもたちでした。


 金太郎は 同じ年頃の子どもたちと

 遊んでいるうちに

 どんどんと 普通の子どもに

 なっていきました。


 あの ものすごい力も

 どんどんと 失われていきました。


 おじいさんと おばあさんは

 少し さびしく感じました。


 でも 他の子にはない

 特別な力を

 持っていることよりも


 他の子と 同じことの方が

 金太郎には 大事だと 思いました。


 金太郎が 十才になった頃には

 力も 背丈も なにもかも

 他の子と ほとんど同じに

 なっていました。


 こうして 金太郎は

 普通の男の子として 成長し

 大人になっていきました。


 金太郎の人生には

 鬼退治のような出来事は

 なにも起こりませんでした。


 でも 家族に囲まれ

 幸せに暮らすことこそ


 なによりも貴重で

 どんな勲章をもらうよりも

 素晴らしいことなのです。


 金太郎は 生まれ育った村で

 ずっと幸せに 暮らしましたとさ。


 めでたし めでたし




 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


●【ニ・3】 おともだちは、お供たち


 金太郎にできた おともだちは

 犬と 猿と 雉でした。


 金太郎と 犬と 猿と 雉は

 いつも 山や野を

 駆け回っていました。


 ――十年後


 十四歳になった 金太郎は

 おともだちの犬 猿 雉と

 鬼退治へ 行くことにしました。


 人々を苦しめる 鬼の所業を

 許すわけには いかなかったからです。


 金太郎たちは

 鬼ヶ島へと 乗り込みました。


 そして 激闘の末

 金太郎たちは 鬼ヶ島を制圧し

 見事に鬼退治を

 成し遂げたのでした。


 ――その頃 桃の国では……


 桃の女神さまが

 金太郎の雄姿を

 桃の国から 見ていました。


「そうですか……

 鬼退治をやり遂げましたか。


 大事なのは

 名前では なかったのですね。


 金太郎でも 桃太郎でも

 大事な部分は 変わらない。


 人は 誰に出会うかによって

 その後の運命が 大きく変わる。


 それが 人の世の理なのですね。


 大事なことを

 学ばせていただきました。


 金太郎さん ありがとう」


 桃の女神さまの 想いは

 風になって 地上へと吹き渡り


 そして 鬼ヶ島から凱旋した

 金太郎の頬を 優しく撫でました。


 おしまい




 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


●【ニ・4】 すもうで勝負


「やい クマどん!

 ぼくと すもうで勝負しろ!」


「おまえ 本気か?


 ガキンチョのおまえが

 おれさまに すもうで勝てると

 本気で思ってるのか?


 まあ いい。

 暇潰しに 相手してやる。


 おまえを三里先まで 投げ飛ばして

 その生意気な 鼻っ柱を

 完全に へし折ってやろう」


 動物たちが見守る中

 金太郎と クマの

 すもう対決が 始まりました。


 開始早々

 金太郎と クマは

 がっぷり四つで組み合いました。


 クマは すぐに投げ飛ばして

 終わらせようと思いました。


 しかし

 がっつりと組み合った 金太郎は

 微動だにしませんでした。


 取り組み開始から

 わずか2秒で

 クマは 金太郎の強さを

 実感していました。


 それは 金太郎も同じでした。


 クマは 今までに

 すもうで戦ってきた

 どの動物よりも

 強くて 上手でした。


 金太郎と クマは

 ガッツリと 組み合ったまま

 まったく動きませんでした。


 一瞬の隙をついたのは

 金太郎でした。


 クマが息を吐いた瞬間を

 見逃さなかったのです。


 金太郎は 渾身の力を込めて

 クマを投げ飛ばしました。


 軍配は 金太郎にあがりました。


 それ以来

 敗者のクマは

 金太郎の子分になりました。


 そして

 クマの背に乗り

 山や野を駆け回る 金太郎が


 いずれ 歴史に名を残す

 大剣豪になることは

 また別の物語――


 おしまい




 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


●【ニ・5】 栗拾いで勝負


「やい クマどん!

 ぼくと 栗拾いで勝負しろ!」


「なんで?」


「あ えっと

 ぼくたち 栗拾いをしてたし

 栗がいっぱいあるから……」


「だからって

 なんで 栗拾いで勝負なん?」


「いや その……

 ちょうどいいかなぁって 思って」


「栗拾いをしてたから

 栗拾いで勝負だっていうのは

 ちょっと安直すぎないか?」


「そ そうかな…… ごめん」


「別に 謝らなくていいんだけどさ。


 勝負っていうのは

 お互いの 大事なものを賭けて

 やるものじゃん?


 今の状況でいうと

 きみは ともだちを守るために

 勝負をするわけだし


 おれは 自分の陣地を守るために

 勝負するわけじゃん。


 そんな大事な勝負を

 栗拾いをしていたからってだけで

 栗拾いで勝負だっていうのは

 ちょっと 納得できないな」


「そ そうだね…… ごめん」


「いやいや 謝らないで。


 だけど 次からは

 もっとちゃんと考えて」


 クマは そう言うと

 去っていきました。


 この日以降 金太郎は

 ちょくちょく 吊り橋を渡っては

 クマに会いに行きました。


 いつも 金太郎は

 新しく考えた 勝負の方法を

 クマに言いました。


 そのたびに クマが

 的確な評価をしてくれました。


 金太郎と クマは

 実際に 勝負をすることは

 最後までありませんでした。


 でも いつの間にか 芽生えた友情は

 ずっとずっと 続きましたとさ。


 おしまい




 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


●【ニ・6】 早口言葉で勝負


「やい クマどん!

 ぼくと 早口言葉で勝負しろ!」


「早口言葉か

 いいだろう。


 だが 覚悟はできているのか?」


「もちろん!」


「本当か?


 もし おまえが失敗したら

 おれは おまえのともだちを

 食べるぞ」


「え……」


「なにを おどろいている?

 勝負なんだから

 それなりの結果が伴うに

 決まっているだろ」


「で でも……」


「覚悟がないのなら

 勝負しろだなんて言葉を

 たやすく使うな!


 わかったか!」


「は はいっ!」


「今日は 特別に見逃してやる。

 次はないからな」


 そう言うと

 クマは去っていきました。


 金太郎は 力が抜けてしまい

 その場に 座り込みました。


 自分が いかに子どもだったのかを

 知らされた気がしました。


 力持ちだったことから

 自分は すごい人物なのだと

 なんの根拠もないのに

 思っていました。


 でも そんなことはありませんでした。


 少し力持ちなだけの

 ただの子どもだったのです。


 この日以降

 金太郎は 思慮深くなりました。


 そのおかげなのか

 無謀な行動をすることがなくなり

 性格も おとなしくなっていきました。


 その後 金太郎は

 おじいさんの あとを継いで

 山で 芝刈りをするようになり


 村の 幼馴染の女の子と 結婚をして

 幸せに暮らしましたとさ。


 おわり

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