第53話 妹が…という話
…そうか、俺、勝ったのか。
試合が終わったあと、整列して挨拶をするところ、両足が見事に痙攣して立てなくなってしまった。
正直、最終回あたりは全く記憶にない…まではいかなくとも、自分がどうやって抑えたかは、あまり覚えていない。
試合が終わって、真壁先輩はじめ野手陣にもみくちゃにされてはじめて、試合が終わったことを理解したぐらいだ。
今俺がいるのは、球場にある医務室。
あのあと、監督に肩を貸してもらってここまで運び込まれた後、アイシングをしながらベッドに横になっている。
不思議と、試合中感じていた疲労感は今は感じない。
たぶん、アドレナリンの影響だろう。もう少し時間がたってくると、たぶんヘロヘロになるんだと思うが。
監督はその後、表彰式に向かうためにチームの合流した。
俺はこんな状態なもんで、残念だが表彰式は欠席だ。
ま、ここでの表彰はまだ入り口に立っただけだし、甲子園で最後までフィールドに立っていられればそれでいい。
…暇だな。
最後の式はだいたい小一時間かかるらしい。
ってことは、一時間ぐらいこのまま手持無沙汰ってことか。
せめてスマホぐらい手元にあればと思うが、この足の状態で一人で荷物のある場所まで行くのは無謀か…
本当は少しでも寝て体力を回復させたほうがいいのかもしれないが、いかんせんめちゃくちゃ体は疲れているはずなのに、全く眠気を感じることができない。
これは本当に困った…
そんなことをのんびり考えていたところ、医務室の扉がノックされる。
今部屋に俺しかいないし、俺が返事するしかないじゃないか。いや知らない人だったらめちゃくちゃ気まずいんだが?
「はいどうぞ~」
「お兄ちゃん!」
と、部屋に飛び込んできたのは、我がかわいい妹、咲夜だった。
「うぐぉっ」
慌てて起き上がった俺のお腹めがけて、突っ込んできた。
なんか、咲夜だけじゃなくて、彼女勢と会うとき毎回これやられている気がする。
まぁいいんだけどさ。
そんな咲夜の背後から、父さんと母さんもつづいて入ってくる。
「おめでとう龍!」
「かっこよかったぞ!さすが俺の息子だ!」
「ふたりともありがとう。咲夜も」
二人にお礼を言いながら、ベッドに横たわっている俺のうえにのっかかっている咲夜の頭をゆっくり撫でる。
「あ、悪い咲夜、今の俺汚いから少し離れてくれるか?一応着替えたし汗は拭いたからだいじょうぶとは思うんだけど…」
「そう?全然変な匂いしないよ?」
そういいながら俺の胸元で鼻をスンスンさせるのやめてもらってもいいか?
いくらなんでもさっきまでめちゃくちゃ汗かきまくってて臭くないことないからさ。
「足、少し見るぞ」
そう父さんがいう。
俺は重たい足を父親のほうに向けて、ズボンをめくりあげる。
「…これはかなり熱持ってるな。少しマッサージするぞ。痛かったら言ってな」
「オッケー」
父がゆっくりと俺の凝り固まったふくらはぎをほぐしていく。
「あとで肩もみるが、こりゃ明日あたり熱出るかもな」
「そんなに?」
「あぁ。相当筋肉が炎症を起こしてる。軽く見た感じ、損傷がある感じではなさそうだが、しばらくは安静にしておいたほうがいいな」
「んー、そういわれる不安だなぁ」
「何言ってんだお前。お前にはあんなにかわいい彼女さんたちがいるじゃないか」
「いや、それをはじめからあてにするのは違うじゃん?」
俺だって、多少はそりゃ彼女たちがサポートしてくれればうれしいなぁぐらいには思ってるけども、それを期待して動くのはなんか…ね?
「じゃ、じゃあ!」
「咲夜?」
「私がサポートする!どうせ帰るのは明日の夕方でしょ?」
「…いいんじゃないかしら。明日5時ぐらいに迎えにいくから、それまでは龍の家にお世話になりなさい」
「いいのか?三人で観光とか…」
「私たちはショッピングするわよ。でも咲夜はそういうの興味ないから…でしょ?」
「うん!私はお兄ちゃんと一緒に入れるほうが楽しいよ!」
「言い切られちゃうと母親としては少し寂しいのだけれど…」
…どうやら明日は咲夜が俺のことを助けてくれるということで話がまとまりそうだな。
こちらとしてはありがたい話なんだが…
「咲夜は本当にそれでいいのか?少しでも福岡を楽しんだって…」
「いいの!私がお兄ちゃんと一緒にいたいだけだから!」
「…ありがとな」
「…さて、私たちは表彰式みに行きますか」
「そうだな。由奈ちゃんたちもおいてきてしまったし。龍の無事を知らせないとな」
「みんなにも心配かけちゃったな」
「あとでしっかりお礼しておくんだぞ」
「もちろん」
父さんと母さんは、そう言い残して部屋を出ていった。
が、なぜか部屋に残った咲夜。
「…いかないのか?」
「…お兄ちゃん」
そういうと、咲夜は俺の上で上半身を起こす。
そのまま顔を近づけると、そのまま俺の唇めがけて…
「咲夜、ストップ」
「…やっぱりだめ…だよね。妹じゃ…」
「待て待てそういうことじゃない」
「…?」
コテン、と首をかしげる咲夜。
…かわいいな我が妹ながら。
と、今はそれどこじゃない。
「まだ、俺が咲夜の気持ちにしっかり返事してないから」
こういうことは、やっぱりしっかり気持ちが通じ合ってからすべき。と俺は思うんだ。
だから、彼女の気持ちに正面からぶつかってあげたいと思う。
「俺さ、気づいたんだ。あのとき、志岐に勝負を仕掛けられたときにさ」
「気づいたって…?」
「俺、咲夜のことめっちゃ好きだったんだなって」
「好きね…そっか…すきぃ!?」
「妹としてはもちろんずっと大好きだったし、たぶん今もそういう気持ちがメインなのは変わんないとは思う。でも、そんな俺の気持ちの中に、咲夜をそういう意味で意識していることに気づいたんだ」
「…ほ、ほんとに?」
「あぁ。もし志岐に咲夜のこと獲られたらって考えたら…正直かなり焦ったよ」
「お兄ちゃん…私…」
「はじめ、咲夜に気持ちを伝えてもらった時はあんまりピンときてなかったんだけどさ、今なら自信を持って言えるよ」
俺は、一呼吸おいて口を開く。
「俺は、咲夜のこと好きだよ。愛してる」
「お兄ちゃん!」
間髪入れずに、咲夜が再び俺に抱き着いてくる。
「これ、夢じゃない?暑すぎて今熱中症で倒れて夢の中とかじゃない?」
「大丈夫、ちゃんと現実だよ」
「私、お兄ちゃんの彼女になってもいいの?由奈お姉ちゃんとか、真琴さんとか奏さんと、一緒にお兄ちゃんの家族になってもいい?」
「あぁ、俺のほうからお願いしたいぐらいだ」
「…じゃあ、キス、してもいい?」
「人に見られたらダメだから、ちょっとだけな」
「んっ!」
すると、咲夜は唇を突き出してキス待ち顔に。
いや、あなたさっき自分からやろうとしてたじゃないの。今度は俺からやれってことですか?
…まぁ、ここは男の見せ所か。
俺はゆっくりと彼女の顔に近づくと、軽く触れるだけのキスをした。
本当に一瞬触れただけだが、その一瞬で彼女のぬくもりや、唇の柔らかさが伝わってくる。
「えへ…えへへ…」
幸せそうな顔で笑う咲夜。
この笑顔を守れたのであれば、これだけボロボロになった甲斐があるというものである。
「改めて、これからもよろしくな、咲夜」
「こちらこそ、よろしく!お兄ちゃん!」
その後、咲夜とイチャイチャしながら医務室にいること約1時間
医務室の扉が再びノックされた。
俺のベッドの上に寝転がって、腰に巻きつくように抱き着いていた咲夜は、慌てて立ち上がって服のしわを整える。
部屋に入ってきたのは、俺の両親を連れだった監督だった。
「水瀬、状態はどうだ?」
「今のところ特には。アドレナリン切れてきたらやばいのかもしれませんけど…」
「そうか。今日のところは、このままご両親に家まで送ってもらえ。後片付けとかはこっちでやっておくから」
「え、いやでも…」
「今日はお前が功労者なんだから、こんな日ぐらいはのんびり休め」
「…わかりました。ありがとうございます」
そういうと、監督は俺の背中をやさしくたたいてから、部屋を出ていった。
「大丈夫か?立てるか?」
そういえば、医務室に来てから一回も立ち上がってないな。
「よいしょ…おっ?」
ベッドから立ち上がろうとするも、膝に力が入らず崩れ落ちる。
が、肩で支えてくれたのが咲夜だった。
「大丈夫だよ。ゆっくりいこ?」
「助かったよ咲夜」
自然なしぐさで俺のことをサポートしてくれる咲夜。
こういうところに惚れ直してしまう。
「…ほほう?」
「あらら…?」
そこに、球場のスタッフの方が車いすを用意してくれた。
正直そこまでしてもらうのは気が引けるのだが、せっかく用意してくれたのだし、ご厚意に甘えることにするか。
「私が押すね!」
「あぁ、頼んだ」
ほかのみんなに遠慮しているというわけではないが、やはりこれまで過ごした時間が長い分、咲夜には割と遠慮なく頼むことができるな。
そのまま医務室を出ると、廊下には奏、真琴、由奈の三人が待っていた。
「龍君!?大丈夫!?」
「すぐ病院行く?私がおぶっていく」
「スポーツ医療を専門にしている先生が知り合いにいるからすぐに電話を…」
「まてまてまて落ち着け俺は大丈夫だから」
車いすの姿の俺を見るや否や、大慌ての三人をなだめる。
「三人とも落ち着いてよ。お兄ちゃんは大丈夫だから」
「咲夜ちゃん…?」
「おやおや…?」
「…?」
落ち着いた様子の咲夜に、俺の彼女三人衆は何かを感じた模様。
…これは帰ったら問い詰められそうな気がするな。
咲夜に押され、家族たちと球場を出ると、そこには野球部のみんなが待ってくれていた。
「水瀬君!大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫、横になりすぎて足に力はいらないだけだから。しばらくしたら治るよ」
「水瀬ー!ほんとおめぇってやつはー!」
「こりゃ来年以降も安泰だな!」
試合終了後に俺がすぐ医務室に行ったこともあって、みんなと喜びを分かち合うことができなかったが、こうしてみんなと話していると、じわじわと実感がわいてきた。
そうか、俺、甲子園行くのか…
ふと、以前腹を刺されたときに由奈に言われた言葉を思い出す。
『では龍の世代で初の甲子園出場を決めるわけか』
本当に良かった。
なにより、野方先輩の夏をあんな中途半端な形で終わらせずに済んでよかった…!
まだまだ、俺たちの夏は続く…!
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