第49話 強豪の圧力を感じる話

高校で初めての先発マウンド。

まさか初のまっさらなマウンドを、こんな重要な場面で踏むことになるとは想像していなかったが。


だが、俺がやることは普段と変わらない。

ベストを尽くして、相手バッターをただ抑えるだけ、非常にシンプルだ。








『さて、1点を追う一回の裏、大曲高校のメンバーをご紹介いたします』


『1番は、巧打者栗山選手です。左バッター』


『なんといってもその韋駄天ぶりが目を引きますね。普通の内野ゴロでもヒットにしてしまう驚異の走力に注目です』


『2番は同じく左バッター、要くん』


『強打者の揃う大曲高校のメンバーの中では小兵ですが、確実にバットにヒットさせるコンタクト力が魅力です』


『ここからクリーンアップ。3番に座るのは右打席に入る只野くん。ここまで今大会最多の5本塁打を放っています』


『長打力もさることながら、ここまで三振がわずかに3つだけというバットコントロールが脅威です』


『4番は長篠くん。左バッター』


『出塁率が驚きの6割を誇っています。3番の只野君が打点を挙げた後、2度目のチャンスを演出する重要な役割を担っていますね』


『5番はなんと留学生、キューバ出身のエドガルくん』


『ここまで打撃ではあまり目立っていませんが、やはりその身体能力から生み出される驚異の守備には目を見張るものがありますね』


『6番には右バッター、工藤君が入ります』


『彼も俊足巧打の好バッターですね。しっかり率を残してくる、投手から見たら非常に嫌なタイプの打者といえるでしょう』


『7番にはエース、志岐君が入ります。左バッター』


『彼、打撃も結構いいんですよね。ボールに逆らわずに左右に打ち分けることができる良いバッターです』


『8番には千堂君、右バッターですね』


『キャプテンを務める扇の要です。下位打線に座りながらも、すでに2本塁打を放っている、パンチ力も侮れない選手です』


『ラストバッターは正平くん、左バッターです』


『彼の特筆すべき点はやはり守備ですね。フィールディングに関してはすでにプロ顔負けです』


『以上、大曲高校の選手の紹介でした。いよいよ一回裏の攻撃がスタートします』









さぁまずは先頭バッター。

おそらくだが、この決勝、いくら歴戦のチームとはいえ、さすがに多少なりとも緊張はあるはずだ。その緊張感を払しょくするためにも、積極的に振ってくるはず。


ならば初球に投げるべくは


「っしっ!」


初球に選択したのはチェンジアップ。アウトコース低めに沈んでいくボールで、まずはうち気をそらしていく。これは見送られて1ストライク。


初球からストライクいれられたのは大きい。これで、ボール球をしっかり活用することができる。


2球目は、外から食い込むスライダー。

が、わずかに外に外れる。


見逃されてボール。


やはり、大曲高校の先頭バッターともなると選球眼もよさそうだ。

ここまで2球アウトコースを続けたし、今度はインコースへ。


投じたストレート、変化球を続けてきたところに速球は、タイミング合わないだろ…


かきぃぃぃぃぃぃぃぃん!


『痛烈なあたりは一塁線ー!しかしこれはファースト栗田選手がしっかり抑えたー!素晴らしいプレイですね!』


『正面とはいえ、あの鋭い打球をしっかりキャッチできるのは、普段からの練習のたまものでしょうね』


…さすが強豪校、いきなり初見で俺のまっすぐをアジャストしてきたか。


背中に、暑さからではないいやな汗が流れ出るのを感じる。

準決勝でも感じたことのない圧力の強さ。

これが、全国レベルの打線のパワーか。面白くなってきたじゃないか…!


さて、切り替えて2番バッター。

初球、まずはカウントを整えて…


「!」


初球から、いきなりセーフティーバントの構え。

いきなり仕掛けてきたか!

投げてすぐ、前へ猛プッシュする。が、相手は実際にバントをすることなくバットを引いた。


…こちらを消耗させるのが狙いか。

それを裏付けるように、2球目はバットを寝かせることなくスイング。が、これがファールになって、結果2ストライクと追い込むことができた。


最後に選ぶボール、どうするか。

真壁先輩のサインは…


俺はグラブの中でボールを握り変えて、振りかぶる。

投じたのは、インローに食い込む高速スライダー、まともにスイングはできないはずだ。当たってもひっかけて内野ゴロかファールか。


しかし


きぃぃぃぃぃぃぃぃん!


バッターは、左手をうまくたたんで痛打。強烈な打球が1,2塁間へ。


「ふんぬっ!」


が、これに横っ飛びで追いついたのは、セカンドを守る田中先輩。

準決勝でのプレーを彷彿とさせる好プレー。そのままボールをファーストへと送って、2アウト。


…ここだな。

今大会、最多の5本のホームランを打っている3番バッター。


彼には丁寧に投げ込んでいかないと、少しでも制球を誤れば即被弾につながる。


まず初球。

外に外れるスライダー。

しかし、これには全く反応を見せない。


ならば2球目はインコースへのストレート、これは外れても構わないぐらいの気持ちで厳しくいく。


その感覚がうまくいったか、想像以上にひざ元の良いコースへと決まった。


3球目は、外に沈んでいくチェンジアップ。

あわよくばバットを出してくれればと思ったが、これは簡単に見逃されて2ボール。


こういうボールをあっさり見逃されると、ボール球を使いづらくなるから嫌なんだよな。


わずかずつだが、こういうところで確実にプレッシャーをかけられていっているのが分かる。


だが、このプレッシャーに負けた瞬間に、一気に突き崩される確信がある。


負けない、その意思をアピールする意味でも、インコースへまっすぐ。

ボールは高目へ、これに相手はスイングをかけてくる。


かきぃぃいぃぃぃん!


痛烈な打球はライトへ…!

大きな打球に一瞬肝が冷えたものの、大きく切れてボールはスタンドへ。ファール。


さっきから、まっすぐを初見でかなり捉えらえているのは、普段から志岐のまっすぐに見慣れているからだろうか。


なんか癪だな…

だが、それでむきになってもいいことはない。

しっかり緩急で勝負する。


最後は、俺のウイニングショットでいこう。ミットを構える真壁先輩とも意見が合致する。サインに首を縦に振り、振りかぶる。


決め球に選択したのは、俺のウイニングショット。外に大きく逃げるスイーパー。

コースはばっちり。変化もよい感じ。

手ごたえは完璧だった。しかし、その瞬間、強烈な寒気が俺を襲った。


奴の目が、俺のボールを正確にとらえたような、そんな気配。


次の瞬間


かきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!


外のボール球にもかかわらず、長い腕が伸びてきた。

逆らわずに、再び逆方向へと飛んでいく打球。


ライトの柳先輩が追う。

背走しながらフェンスギリギリまで追いかけ…


パスッ


ギリギリのところでキャッチ。

ライトフライで3アウトチェンジだ。


…あ、あぶねぇ。あそこに手を出すどころか、あんな遠いところのボールをあんなフェンスギリギリまで飛ばすのかよ。パワーもバットコントロールも桁違いだな。


となると、アイツには横の変化で勝負するのはむずかしそうだな。すこし、対処の仕方を変えなければいけないかもしれない。


どうやら、真壁先輩も同じ見解らしい。


「チェンジアップをもう少しうまく使っていこう」


「そうですね…あの外スラ当てられちゃうんじゃ、空振りとるのは難しそうですし…」


「まぁ、あんなバッティングがそう何度もできるとは思わないけどな。警戒するに越したことはないか」


「はい。…そのまえに、まだ4番以降もむずかしいバッターが続きますから、切り替えないと…」


ベンチに帰って落ち着くと、気づけばものすごい量の汗をかいていることに気づく。

これは、意識していない間に、想像以上に相手のプレッシャーにやられていたらしい。


今のうちに、アンダーウェアを変えてこよう。

こういう時のために着替えは何着も持ってきてるからな。






2回の攻撃、こちらは5番からの攻撃であったが、さすがの志岐、こちらの攻撃を全く寄せ付けない貫禄のピッチングをみせた。


5番の笹岡先輩、今大会の打率一位を誇る好バッターだが、志岐自慢の快足ストレートで追い込まれると、ひざ元に沈むシンカーでいとも簡単に空振り三振。

あれは無理だ、うてん。


続く6番の挟間選手は、際どいコースを見極めて粘りを見せるも、最終的には高目の釣り球に手が出てしまって内野フライ。


7番は、先ほど好プレーで俺を救ってくれた田中先輩。

こういうときって、守備でよいプレイが出た後打撃でも結果を残すことってよくあるとおもんだが、さすがに志岐相手ともなるとそうもいかない。


追い込まれるとキレッキレの変化球が飛んでくるし、早いうちに手を出していきたいわけだが、じゃあ手を出せたらあのまっすぐを打てるかというと…


キンッ


弱弱しく転がったボールは、そのままサードへ。

簡単に処理されてアウト、3アウトチェンジだ。


これは本当に、真壁先輩のホームランがとんでもなく大きかったんじゃないか。

この投手からそうそう追加点は狙えないだろう。


これは、いよいよ俺の責任が重大になりそうだ。


「…ふぅ」


大きく息を吐いて、呼吸を整える。

正直、この相手に力を抜けるタイミングが本当に皆無だ。

力を抜いた瞬間に持っていかれるような強力なバッターが9人並んでいる。


最後の最後、試合が決まる一球まで、力を籠め続けなければ。

だが、やりきってみせる。甲子園に行くために、この試合を勝ち切るために。




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