第50話 激闘、続く

2回の裏、相手の攻撃は4番から。

さすが大曲の主砲、構えからも威圧感が伝わってくる。


なるべくジャストミートされないように、スライダーを中心に配球していこう。


初球はアウトハイのボール球から入る。

しかし、釣り球には全く反応がないか。さすがの選球眼。

見た目といいガタイの良さといい、結構マン振りしてくるタイプに見えるんだが、そういうわけでもなさそうだ。


2球目は、ひざ元に入り込む高速スライダー。

手ごたえ良し。よいコースに行ったな。これには流石に相手も手を出せない。

1ストライク。


続く3球目、今度はアウトローに向けてまっすぐを投げ込む。


キィィィン!


アウトコースの遠いところにもかかわらず、思いっきり引っ張ってきた。

しかし、これは1塁線切れてファール。


一番遠いところでもお構いなしか。

典型的なプルヒッターだな。


ここで、シンプルにチェンジアップで外してもいいが、ここはひとつ、余裕のあるうちにインサイドで勝負できるっていう印象をつけておくべきか。


4球目に投じたのは、ひざ元を大きくえぐりこむスイーパー。


ここで凡退させられれば、左バッター相手にもしっかり変化球を意識させられるはずだ。


が、しかし


「ふんぬっ!」


がきぃぃぃぃん!


どん詰まりのあたり。膝より下のボールにもかかわらず、腕を器用にたたんで無理やり持っていきやがった…!


あたりは良くないが、振り切った分打球は内野を越える。

大曲高校から初の被安打を許してしまった。しかも先頭バッターだ。


配球は完璧だったが、いかんせん少し曲がりが緩かったか。そのぶんバットに当てられてしまったか。


続いては、留学生バッター。

身長は間違いなく190を超えているだろうな。俺よりでかいやつ久々にみたぞ。

しかもこれで俊足っていうんだからとんでもないな。


彼の弱点は割とはっきりしている。事前の映像で分析する限りは…


「…っ!?」


とんでもない風切り音、これは当たると飛びそうだな。

が、かなりバットとボールが離れていたな。


そう、彼はアウトコースが明確な弱点なのだ。


ここまでの試合も、インコースにはかなり強いのだが、外に逃げていく変化球は全く捉えられていなかった。


初球、俺の投げたスライダーに思いっきりバットを振ったものの、タイミングもコースもこれでもかというぐらい合っていない。


もう一球、今度は外に逃げるスイーパー。これにも果敢にスイングを仕掛けてくるものの、やはり空振り。


だが、やはりスイングスピードは桁違いだ。こういう割り切った振り方をされると、仮に打ち取れてもすごい圧力を感じるからいやなんだよな…。


これだけタイミング合ってないなら、外一辺倒でも問題はなさそうだが、この打席だけじゃなくて試合を通して対応されないよう、一度インコースも投げておいたほうがいいか。


真壁先輩の意図も同様なようだ。

ゾーンに入れると痛打される可能性が高いから、しっかりボール球になるように投げる。


球種はチェンジアップ、タイミング外してひっかけてくれれば儲けものだが…


ガギン!


バットの根っこに当たって鈍い音を響かせる。

ぼてぼての当たりはサードへ転がる。

セカンドは間に合わないか、じゃあファーストでアウトを…


「っ!?マジかよっ!」


おいおい、とんでもない足じゃないか。

あっという間に塁間真ん中あたりまで行ってるじゃないか…!

俊足極まれりだな…!


「うおりゃっ!」


しかし、そこに立ちはだかったのはうちのサードを守る館内先輩、大遠投でランナーとの競争になるが…


『アウトッ!』


「ナイス先輩!」


「任せろよ!」


あっぶない…!あれセーフだったとんでもないピンチになるところだった…。

いやまぁ1アウトながらもスコアリングポジションにランナーを背負っているので、ピンチには変わりないわけですが。


続く6番バッターは、コンタクトがうまいタイプ。

だが、パワーがあるタイプではないから、ここは球威で押していこう。


初球からまっすぐを投げ込む。

思いっきり力を込めて投げ込んだボールは、アウトコースへ。


カキーン!


初球から手を出してきたが、バットの上っ面でたたいた打球は外野へ、しかし飛距離はなさそうだ。


高々と上がって浅い外野フライ。

ランナーはさすがに進めず、これで2アウト。


そして、この試合初めて向き合って対面する。

志岐の初打席だ。






ふむ、ここまでの水瀬 龍のピッチングは、確かに一年生にしてはそこそこな感じだが、あくまでそこそこだな。


あのスイーパーは脅威だが、それでもあくまで高校生レベルを脱していない。


あれなら、名だたる強豪の強力ピッチャーと相対してきたうちの打線なら、そう遠くないうちに捉えることができるはずだ。


あの被弾は正直想定外だったが、あれは相手の選手がうまかったやむを得ない失点だったから問題ない。


まずはここで、しっかり同点にする。そのあとは僕が後続をしっかりと抑えれば必然的にうちの勝ちだ。


この試合初めてランナーを背負ったピッチング、必ずほころびが生まれる。

そこを見逃さないように…


ズドン


「…なに?」


電光掲示板に表示された球速表示をみる。


【148km】


…ここにきて過去最速か。

気合入っているじゃないか。

いいね、面白くなってきた。


さて、次のボールは何か。


ごぉっ!


またまっすぐ…!?

まるで手元で浮き上がってくるような、そんな錯覚を抱かせる。


なんとかバットを挟み込んだものの、あえなく打球はバックスタンドへ。ファールだ。これで追い込まれた。


先輩たち、ヒットにはなっていないとはいえ、このボールをあれだけ痛打していたのか…?


ベンチから見てるのとは全く違う…


だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

俺はバットを指三本分短く持つ。


チェンジアップにタイミングをずらされないようにだけ気を付けて、とにかくバットに当ててやる。


続く3球目、ボールはなんだ?スイーパーか?チェンジアップか?


ずどぉぉぉん!


…3球全部まっすぐ…だと?



【149km】



さらに球速があがった…?

変化球をまっていれば、あのまっすぐに反応するのは難しい。


「…くそっ」


「どんまいどんまい!次、次!」


「志岐」


「キャップ…」


「アイツ、もしかするとここまでの2回、全開じゃなかったのかもしれん」


「…どういう意味です?」


「全力、ではあったんだと思うが、まだ肩が温まっていなかったのかもしれん、ということだ。明らかに、工藤に投げたボールあたりからキレが上がってきている」


「…つまり、ここからさらに調子を上げてくる可能性がある…ってことですか」


「あぁ、これはもしかしたら、俺たちはとんでもない奴を相手にしているのかもしれん」


「問題ありません。ここからは僕が一点もやらないので」


「…そうだな。点は任せろ」


そういって、キャップはキャッチャー防具を身に着けてポジションへと走っていく。

俺も、グラブをはめて帽子をかぶり、マウンドへと向かう。


背筋に流れるいやな汗は、気づかないふりをして。


まだ試合は序盤、ビハインドはわずかに1点。

こんなピンチとも言えない状況、僕たちは幾度となく経験してきた。

だから、今日だって普段と同じだ。


俺が抑えて、逆転して。


そうして僕たちが甲子園に行くんだ。絶対に。








3回に入って、あの軟派野郎こと志岐のやつはさらに調子を上げてきたように思える。鳳高校の打線も、大曲高校の打線に引けを取らないと思うのだが、まるで手のひらの上で踊らされているようだ。


ここまでヒットはあのホームランの一本のみ。

それ以外は完璧な投球を見せている。


一方の龍は、ここまで無失点ピッチングをつづけてはいるものの、先ほどもピンチになってしまったし、素人目に見ても押されているのは龍のように見える。


私の隣では、顔面を真っ青にしながら試合を見守る咲夜の姿が。


「…大丈夫か?顔色が悪いぞ」


「…だいじょうぶ。体調が悪いわけじゃない」


「これだけの暑さだ。少しでも気分が悪くなればいうんだぞ。せっかく龍が勝っても、咲夜が倒れてしまえば素直に喜べないだろう?」


「…うん」


回は回って3回裏、再び龍がマウンドへと上がる。


この回から大曲高校は2巡目へと突入する。龍にとっては正念場だろう。


「龍君ー!がんばってー!」


「龍!落ち着いていつも通り!」


真琴も奏も、精いっぱいの声援を送っている。


「龍!気持ちで負けるんじゃないぞ!」


私も、彼女たちに負けじと声を上げる。


両校のブラスバンド部の演奏で、私たちの声などかき消されてしまっているはずだが、龍ははっきりとこちらを向いて、まるで私たちの声にこたえてくれているかのように帽子のつばを握った。


そうして投げ込んだ一球目。

私たちは、この一球に驚愕することになる。


彼が投じたストレートに、選手だけでなく、観客全員が息をのんだ。




【151km】




電光掲示板に球速が表示された瞬間、割れんばかりの歓声が球場を包んだ。


『な、なんと、水瀬投手ここにきて150kmの大台を超えてきたー!素晴らしいストレートです!』


『いや、試合開始直後から良いボール投げているとは思っていたんですが、まさかまだ上げてきますか!初先発ということもあって、そろそろエンジン全開といったところでしょうか!』


…まったく、この男はいったいどれだけ私を虜にすればいいんだ。

私たちの心配を返してくれ。


ここからが、龍の本当の姿というわけだ。







うん、いい感じだ。

ここまで初先発ということもあって、どこまで力を籠めればいいか探り探りの部分もあったし、緊張もあって少し動きが硬くなっている面も否めなかった。


だけど、2回の途中から少しずつ力みが取れてきて、ここにきてしっかり体が思い通りに動き始めた感じがある。


球速も上がってきたし、変化球も思った通りのコースに投げ込めている。


これなら、大曲高校ともやりあえるぞ。


さぁ、ここからが本当の勝負だぞ、志岐。





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