第18話 いざ、テストに挑む話

翌日、いよいよテストまで数日と迫ってきた。

奏と真琴のおかげで何とか形にはなったが、さすがに高得点を狙えるほど、すべての範囲を網羅することはできなかった。


まぁ、出遅れた割にはうまくいった方と割り切るべきか…

でも、せっかく二人に協力してもらったんだし、少しは良い結果残したい気持ちもあるし…


と、昼休みにそんなことを考えながらお手洗いから教室に帰っていた時、目の前から見覚えのある人物と出くわした。


「あら、水瀬君」


「小鳥先生、こんにちは」


廊下の角でばったり会ったのは、担任の小鳥先生であった。


「テスト勉強は順調~?」


「う~ん。ボチボチですかね…」


「あら珍しいわぁ。中学のころから割とテストのこと聞いても、自信満々な返事しかしなかったのに~」


「いやぁ、スタートダッシュ出遅れたのがきついっすね…」


「あぁそうか。それがあったわねぇ…」


確かに中学時代は、しっかり普段から勉強してたし、小鳥先生に聞かれても「バッチシです!」しか言ってなかった気がする。が、今回はさすがにそうは言ってられない。


「そうねぇ…本当はだめだけど~…。よし、じゃあ水瀬君、放課後にまた私のところに来てくれる?」


「え、なんかあるんですか?」


「ふふふ、それはその時のお楽しみよ~?」


「…?わかりました。じゃあ、放課後に職員室でいいですか?」


「えぇ、それでいいわぁ~」


「了解です。じゃあまた」


「は~い。また放課後にね~」


はて、小鳥先生の用事とは何だろうか。

別に怒られるようなことはしていないと思うんだが…

ま、放課後のことは放課後の俺に任せよう。






「龍くん、遅かったね」


「小鳥先生とあってさ、放課後呼ばれたから、帰り少し待っててもらえる?」


「あ、オッケー。一緒に行こうか?」


「いんや大丈夫。サクッと終わらせて戻ってくるよ」


「わかった!じゃあ教室で待ってるね」


「たのむ。そういえば奏は?」


「新聞部の部室。なんか忘れ物したって…あ、噂をすれば」


真琴が目を向けると、大きな紙袋を持った奏が教室に入ってくるところだった。


「何だその大荷物」


「うちが昔作った新聞。記事作りの参考にしようと思って。」


「テスト期間なのに熱心だな」


「むしろ、テスト期間で活動がない時しか見れないから。勉強の合間に息抜きにもなる」


「えらいな、奏は」


そういって奏の頭を撫でた。

いかん、昨日からの流れでついついやってしまう。

奏の髪って、こう、サラサラっとしてて撫で心地抜群なんだよな。


肝心の奏は、頬を真っ赤に染めてうつむいている。


「だから不意打ちはだめだって…」


「や、ごめん…つい…」


すると、背後から背中に衝撃が。

首だけ向けると、真琴が抱き着いてきていた。


「奏だけずるい!」


「ごめんごめん。真琴も、ほら」


ひとりだけってのは確かに不公平だからな。

少し恥ずかしいが真琴のことも撫でてあげる。

逆に真琴の髪は柔らかくフワフワだ。奏とはまた違った感触で面白い。


だが、この時俺たちはとんでもない失敗を犯していることに気づいていなかった。

俺たちはまるで、自宅にいるかのようにリラックスして会話をしていたのだが、


そう、ここは教室なのである。


繰り返す。教室である。


「ほわぁ…」


「すっごい大胆…」


教室のいたるところから声が聞こえる。

ふと周囲を見渡すと、クラスメイトほぼ全員の視線がこちらに向いていた。


「あっ…」


なにか視線を感じると思っていたが、そうだ、ここ教室じゃないか…

まずい、リラックスしすぎた…


「…プシュゥ」


「か、奏がオーバーヒートしたぁ!?」


「…本当にすまん」







そんなこんなで放課後、

俺は奏と真琴を教室において一人職員室へと向かった。


「失礼します。小鳥先生は…」


「あ、水瀬くん~こっちこっち~」


小鳥先生は、自分の席で俺のことを待っていてくれたらしい。

俺はそのまま彼女のもとへ向かおうとした瞬間だった。なにやら職員室の端から視線を感じる。気配の先をたどると、そこには一人の先生がこちらを眺めている姿があった。


あれは、確か古文の先生だったか。

この学校でも珍しい若い男性の先生で、しかもそこそこ顔が整っていることもあって、女子生徒に人気だと聞いたことがある。


名前は、高橋先生といったか。確か2年生の授業を主に担当しているから、俺は全く交流したことないんだよな。


まぁ、特に引け目を感じるようなことはしていないし、単純に職員室に入ってきた生徒が気になっただけだろう。


俺は特に気にすることなく、席に座っている小鳥先生のもとに近づいていった。


「ごめんねぇ、わざわざ呼びだしちゃって」


「いえ、全然。それで用事ってのは…」


「そうそう、これなんだけど」


そういって先生が俺に渡してきたのは、一冊のノートだ。


「これは?」


「学校始まって最初の一週間でやった内容を私なりにまとめたノートよ~。良ければテスト勉強に使って?」


「え!?いいんですか!?」


現役の教師がまとめたノートなんて、そんなのほしくないわけがない。

まさか、わざわざ昼休みから今までの間で作ってくれたのだろうか。


「今回は事情が事情だからねぇ、ちょっとだけお手伝いしてあげる」


「正直、すごいありがたいんですけど…その、大丈夫なんですか?」


こういうの、教師が特定の生徒に肩入れするのって、あんまり良い印象がないイメージがあるんだけど…俺のせいで小鳥先生に不都合が起きるのは本意ではないし…


「まぁ、あんまり良いことではないんだけど~、答えとか問題を教えているわけではないし、いざとなれば私が謝ればいいの」


「…ありがとうございます。めっちゃ助かります」


「よかった~。今回のテストも変わらず良い点とってほしいもの~」


「なんかお返ししたいんですけど…」


「そんなのいいわよ~、って普段ならいうところなんだけどねぇ…じゃあ、テスト終わったら一回食事を一緒してもらおうかしら~」


「や、俺はいいんですけど、小鳥先生はいいんですか?」


小鳥先生は、その美貌から男女関係なく生徒から慕われている。

男子の中には、先生のことを本気で好きな人もたくさんいるって話だ。

そんな先生が特定の、しかも男の生徒と一緒にご飯なんて大丈夫なのだろうか。


「フフッ、一回ぐらいなら大丈夫よぉ。水瀬君だって、ノートもらえた上にこんな美人の先生とご飯なんて一石二鳥じゃない?」


「俺には得しかなくて、逆に困っちゃいますね」


「じゃあ目いっぱい困っちゃいましょう~」


本当に、小鳥先生は中学のころから生徒思いで優しい良い先生だな。

こういう先生にずっと勉強を教われたら、成績なんてすぐ上がりそうだ。


「じゃあ、俺はこれで」


「えぇ、テスト頑張って~」


「ありがとうございます!ノート活用させてもらいますね」


そういって、俺は職員室を後にした。


先ほどの高橋先生が、なにやらにらむような視線を俺に向けていたような気がしたんだけど…


もう一度改めて記憶をたどったが、やはりあの先生とは話したことすらなかったと思うんだけど、気づかない間になにかしてしまったとかあるんだろうか…


俺の気のせいだよな…?






小鳥先生からいただいたノートと、放課後の真也や真琴たちとの勉強会のおかげで、ギリギリにはなったが想定よりかなり良い感じで勉強を進めることができた。個人的には納得できるだけの学習ができたと思う。


これならテストも何とか乗り切れそうだ。


そんなこんなで、いよいよ迎えた高校生活初の定期テストの日。


「龍くん!せっかくだし勝負しない?」


「勝負?テストの点数でってコト?」


「そう!ベタだけど、私たち三人のうち順位が一番高かった人が他の二人にお願いをひとつできるとかどう?」


「それいい。今の時点で二人にしたいお願いを10個は思いついた」


「もう勝った気でいるじゃん」


「当たり前。そのための修業は積んできた」


「すごい、今からバトル漫画始まりそう」


それなりに良い点数が取れればいいなぐらいしか思っていなかったが、

これはなかなか気合いを入れて臨まなければならないみたいだな。


せっかくだし、過去最高点狙ってみようか…!






結果から言おう。

2人とも頭良すぎないか?


俺自身、想像以上に良い手ごたえがあったし、実際返却されたテストを確認すると、全科目80点以上とかなりの好成績であった。もともと得意だった社会なんかは満点だったからな。


順位も学年TOP10に入ってたから、今回の勝負はもらった!


と思ったのだが…


「むぅ…やはり英語が足を引っ張った…」


「フッフ~ン、今回は数学も理科も気合い入れたからね!」


「まさか…これを狙って…!?」


「こういうのは二手三手先を読むものだよ…奏くん…」


「グッ…はめられた…!」


…なんかここだけ時代劇みたいなドラマが始まってるんだけど。

これは俺もノるべきなのだろうか…


職員室の前に、学年で成績上位TOP30の生徒が掲示されていた順位表を見てみると



8位 水瀬 龍





2位 皇 奏


1位 柊 真琴



見事に玉砕しました。

いや、素直に脱帽だ。二人ともほぼ全科目満点だったようだが、お互いの苦手科目でどれだけ点数を取りこぼさなかったのかが、勝敗を決したみたいだ。


「じゃあ約束通り、二人にお願いできるってことだよね!」


「敗者は多く語らず…煮るなり焼くなり好きにすればいい」


「良識の範囲内でな…」


まぁ、真琴が無茶なフリをするとも思わないし、大丈夫だろう、たぶん。


「ふっふっふ…私のお願いはね…!」


「…ゴクッ」


「なんだこの妙な緊張感は…」


さて、いったいどんなお願い事をされるのだろうか…

そう身構えていた俺たちだったが…


「まだ決めてない!後でゆっくり考えるね!」


ズコーっ!


俺も奏も、思わずまるで昭和の芸人のようなリアクションをとってしまった。


「自分で言っておいて、何も考えてないことあるんだ…」


「えへへ、実はこの勝負も思い付きだったからね」


「真琴は昔からこういうとこある」


真琴からのお願いという爆弾を抱えることにはなったものの、

学年8位という成績は個人的に満足いくものだった。


それもこれも可愛い彼女二人の協力と、小鳥先生のノートのおかげだな。

小鳥先生、お礼は一緒にご飯食べてくれれば~なんて言っていたが、それだけじゃ俺の気が済まない。なんかお菓子でも送ろうかな。


センスが良いお菓子、二人に一緒に探してもらうか。

それを除いても、せっかくテストも終わったことだし、二人とちゃんとデートしたいからな。今度部活がオフの時に買い物にでも誘ってみようか。





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