第17話 勉強会をする話

☆本日2話目の更新です。まだ1話目(第16話)をご覧になっていない方は、そちらからお読みください☆




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「お邪魔しまーす!」


「おじゃまします」


「とりあえずソファーに座って待っててくれ。飲み物準備するから」


時は過ぎ週末、

テスト期間に突入し、いよいよ定期試験を目前に控えた最後の日曜日。

今日は、かねてから約束していた勉強会の日である。


三人の中で唯一一人暮らしをしている俺の家に集まり、最後の追い込みをかけようというわけだ。


「にしても、龍くんってきれい好きだよね?部屋すごいきれいだし」


「あぁ、きれい好きってより、体調管理の一環だな。埃なんかがたまって、そこから体調とか崩すと野球に影響出ちゃうから。昔から父さんから『掃除だけはちゃんとしろ!』って口酸っぱく言われてきたんだ」


「なるほど…ストイックだ…」


「私もアレルギー体質だからわかる。埃とかダニとかでアレルギー出ると、意外としんどい」


「そうなんだぁ…私はアレルギーとか特に持ってないからわかんないや…」


「こういうのはわかんないほうがいいと思うけどな。ほい、お茶」


「あ、ありがと龍くん!」


「いただきます」


「じゃあさっそく勉強始めるか」


「オッケー!文系科目のことならなんでもきいて!」


「理系に関しては任せてほしい」


「今日は二人に頼りっきりになるから、よろしく頼むな」


さぁて、集中してやっていきますか!




数学や理科は奏が、


「ここはこの公式を使うのといい。こっちの方法だと少し回り道」


「なぁるほど…計算も楽になっていいな!」


「こっちの定理も併せて覚えておいて。あとあと組み合わせて使うことになる」


「わかった」


英語や古文は真琴が、


「この文法は、厳密にはこう訳したほうがいいよ。この単語の意味がややこしいけど…」


「じゃあこういう感じの意味になるのか?」


「そうそう!いい感じ!じゃあ実際に類題解いてみよ!」


という感じに、俺の苦手なところをしっかり教えてくれたおかげで、テスト前にかなり自信をつけることができた。


と、いい感じに勉強が進んでいたところ、ふと時計を見てみると、針はすでに12時を過ぎたところを指していた。


「お、もうこんな時間か」


これまで相当集中していたおかげで気にならなかったが、結構おなかもすいてる気がするな。


「おなかすいたと思った」


と、奏もおなかをさすりながらつぶやく。どうやら俺と同じ考えらしい。


「そろそろ昼ごはんにするか。なんか頼むか?」


「う~ん、せっかく龍くんのおうちにきてるのに、宅配ってのはなんか味がないなぁ…」


「じゃあ、私たちが作るのはどう?」


「作るって、奏が?」


「私と真琴で、なんか作る」


「…それいい!彼氏をメロメロにするには、まず胃袋をつかむといいって聞くしね!」


彼女たちが作る手料理か…

いかん、すでによだれが出そうだ。

だが、いかんせんそれにはとても大きな問題点があるんだ…


「うち、冷蔵庫に何もないんだよな…」


「そうなの?ちょっと見ていい?」


「あぁ、好きに見てくれ」


そういうと、二人はキッチンにある冷蔵庫を開ける。


「あるのは卵とプロテイン…パスタもあるね」


「あとはお茶と牛乳…龍って普段何食べてるの?」


「普段はもう少しはいってるんだぞ?昨日は魚焼いて食べたし…今日はたまたま切らしてて…言い訳じゃないからな!?」


実際、栄養面を考えて、割と自炊はしっかりしている方だと思う。

というか、たまに父さんから抜き打ちで食事の写真を送ってくるよう連絡が来るから、手が抜けないんだよな…


「じゃあさ、ずっと座って勉強するのも疲れるし、運動がてら買い物行かない?」


「それいい。足とか座りっぱなしで少し痛かった。いいストレッチになる」


「じゃあ近くのスーパー行こうか」


なんかいいなこういうの。彼女とスーパーで買い物とか、なんというか、新婚夫婦っぽいというか。


そんなことを考えながら、俺たちは近所のスーパーへと足を延ばした。






「で、なにをつくるんだ?」


スーパーの野菜売り場の前で、ふと何を作るか決めてなかったよなと思い、俺は二人に尋ねた。


「う~ん、シンプルに野菜炒めとかでもいいかなとか思ったんだけど…」


「せっかく龍にはじめて私たちの料理を食べてもらうんだし、少し凝ったものが作りたい」


「気持ちはうれしいけど、あんまり無理はするなよ?二人の料理ならなんだって美味しくいただくから」


「…そういうとこだぞ」


「全く、龍は私たち専門のジゴロ」


「ひどい言われようだな?」


そんな会話を繰り広げながら食品コーナーをめぐる。二人ともウンウンうなりながら何を作るかしばらく考えていたようだが、お肉のコーナーを眺めながら、なにやら思いついたようだ。


「奏、にしよう」


「ム、でもそれは諸刃の剣。一歩間違えば家庭の味と比較されて悲惨な目に…」


「でも、これからは私たちの味が家庭の味になるんだから、逃げてはいられないでしょ?」


「…真琴がそういうなら、わかった。私も最大限助力する」


「二人で美味しいもの、作ろうね…!」


「ん!絶対に、龍に美味しいって言わせて見せる…!」


えっ、なにやら二人とも、バトル漫画で最終決戦に挑もうとする主人公みたいな雰囲気醸し出していますけれども。料理ってそんな死地に向かうみたいな感じでやるものでしたっけ…


何やら顔の作画が濃くなったような気がしないでもない二人は無事に食材を手に入れ、自宅へと帰還したのであった。





「というわけで、本日作るのはこちら!」


「じゃん、肉じゃが」


奏さんや、どうせやるならもう少しなり切っていただけませんか。

真琴とのテンションのギャップがすごいことになってます。寒暖差で風邪ひきます。


にしても、肉じゃがか。

まさしく家庭の味の代表格だな。日本で肉じゃがを食べたことがない人っていないんじゃないか?


だが、地域や家庭ごとに味付けや具材のバリエーションが豊富で、非常に奥が深い料理でもある。これは二人の肉じゃが、非常に楽しみになってきたな!


「…なんか龍くんからすごい期待の目が寄せられている気がする」


「すごいプレッシャー…さすが龍…!」


最初は手伝おうかと思ったのだが、ふたりいわく


「これは将来龍くんのお嫁さんになるために必要な試練だから!」


「旦那様は座って待ってて。必ずおいしい肉じゃがを食べさせるから」


といって、俺を台所に立たせてくれなかった。


せめてご飯を炊くぐらいはさせてもらおう。


そうして待つこと1時間。

遂に、は俺の前に姿を現した。


「おぉ…!」


美しい黄金色にスープに、しっかり味が染みていることがわかるジャガイモや玉ねぎ、にんじんといった野菜たち。そこに脂身が乗った牛肉が所狭しと浮かんでいる。


「めっちゃおいしそうだ」


「自分でいうのもなんだけど、結構会心のできかも!」


「うん。味付けもバッチリ、味見もちゃんとした」


「いい感じにおなかもすいたし、ごはんよそって食べようか」


「うん!早く食べよ!」


「おなかすきすぎて、おなかと背中がくっつく。非常にまずい」


奏の内臓がなくなってしまう前に、早急にご飯を用意することにしよう。


結論から言おう。これとんでもなく美味しいんだが。

野菜にはしっかり味が染みているのはもちろん、かといって身崩れせずに素材の味もしっかり残ってるし、


お肉もそんな高いものを買っていないにもかかわらず、しっかり脂身の味がのってとてもおいしい。


何よりこのスープ。甘辛の濃いめな味付けのおかげで、米が進む進む。


間違いなく過去最高級の肉じゃがである。


いやお店出せるレベルだろこれは。


「言葉もないな…美味しすぎる…」


「ふふ…、そういってもらえてうれしいよ」


「頑張った甲斐があった」


「いやさ、こんなきれいで可愛くて、それでいて料理もうまいなんて、こんな彼女たちを持てて俺は幸せ者だ…」


「…えへへ」


「ムフー。もっと自慢すべき」


こんなおいしい肉じゃがを食べさせてもらったんだ。午後の勉強はより一層気合いを入れて挑まないといけないな…!









「んん~っ、結構やったね」


「さすがに首とか腰が限界」


「同じ姿勢でずっとやってたからな。でもかなりはかどったんじゃないか?」


昼食から4時間、俺たちはぶっ続けで勉強を頑張った。

本当によく集中力が持ったと思う。これもひとえに、二人がそばにいてくれるからだろうな。


「そろそろ帰るか?」


「そだね…夜はお母さんが用意してくれてるし…」


「私もそう。さすがにお泊まりは許可が下りなかった」


「いやそりゃそうだろうよ」


付き合ってまだ1週間とかそこらでお泊りとか、ご家族からしたらとんでもないからな。


思い返せば、今日みたいに朝から1日中一緒にいるなんて初めてのことだったわけだ。道理で、別れが普段以上に惜しく感じる。少し言い過ぎかもしれないが、なんか自分の半身がなくなってしまうような感覚に近いかもしれない。


たぶん、二人も同じなんだろう。さっきまで浮かべていた楽しそうな表情が一転、さみしそうな表情を浮かべている。

勉強会という名目とはいえ、初めての家でのデートが、こんなしんみりした空気で終わってほしくはない。


ここは、男である俺が勇気を出すべき場面だ。

俺は意を決して口を開いた。


「…2人とも、すこしこっちに寄ってくれるか?」


「…?どうしたの?」


「なにかあった?」


2人が俺の両脇に近づいてくる。

そんな二人を、両腕で抱え込むように抱きしめた。


「龍くん…ッ!?」


「…ッ!」


2人は、初めこそ驚いたように体を硬直させたが、すぐに弛緩させた。


「今日は勉強会だったから、あんまり遊べなかったからさ。テスト終わったらまた3人で出かけよう。家でのんびりだってしよう」


「…うん。今日はお別れでも、また明日すぐ会えるもんね」


「会えない時間が恋を育てる、ともいう。こういう気持ちのおかげで、もっと龍のこと好きになれる」


「そうだな。もう俺たちは付き合ってるんだ。恋人つなぎだって、ハグだっていつでもできるさ」


「…ねぇ、龍。帰る前に一つおねがいしてもいい?」


「ん?なんだ?」


「…キスしてほしい」


「…わかった」


俺は、真琴の柔らかな頬に手を触れると、彼女の顔をゆっくりとこちらに向ける。唇と唇が触れるだけの、優しいキス。

それなのに、彼女の想いが俺に流れ込んでくるように感じる。


「奏も、おいで」


「…ん」


奏は、俺の声に応じるようにそっと目を閉じる。

そんな彼女の無防備な唇に触れる。

柔らかな唇の感触が、奏の優しさをそのまま表しているみたいだ。


「…しちゃったね」


「…なんか、初めての感覚。フワフワする」


…あまりここで感想会はやめてくれ。俺の情緒が死ぬから。


「これで、龍くんのこともっと好きになっちゃった」


「私も。どんどん沼にはまっていっている気がする」


「…それは俺もだよ」


こんな沼なら、いつまででも浸かっていたい、なんて柄にもないことを考えてしまう夕暮れ時だった。







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