略奪令嬢は感謝される

@159roman

略奪令嬢は感謝される

 「……詰んだ」


 桜に似た花びらがひらひら舞う校門前。

 尻もちをついたわたしを心配そうに覗き手をさし伸ばしてくれるキラキラしい王子さま。

 

 比喩ではなく正真正銘の王子さま。


 

 下町生まれの下町育ち、母一人娘一人の母子家庭。

 優しいお母さんに将来楽をさせてあげたくて勉強を頑張って特待生になったのに。    

 何の因果か学園の門をくぐる前に王子さまにぶつかって思い出したよ、いろいろと。


 転生してた。

 乙女ゲーム転生。

 しかも、わたしヒロインだった。


 ひとまず心の内の動揺は隠して、恐れ多くも王子さまの手を借りて立ち上がりお礼と謝罪。ゲームのヒロインのように甘ったるい声で不敬な態度はとりません。

 冷静に落ち着いた態度に見えるように装って、王子さまの婚約者さまにもお騒がせしてすみませんと謝罪。

 悪印象にならないように。



 そそくさとその場を立ち去り、一人になれるところを探し状況を整理する。

 ゲームの題名は、思い出せない。

 攻略対象に王子さまはいた。

 入学式の日にぶつかるイベントがあった。さっきのがきっとそう。

 ヒロインの髪の毛の色が白っぽいピンク色。わたしの髪の毛の色だ。

 ヒロインは平民の特待生。わたしだ。


 軽く絶望する。


 王子さま以外の攻略対象者は、宰相令息、魔術師団長令息、騎士団長令息、裕福な商人子息。それと教科は忘れたけれど教師も攻略対象にいたはず。

 あとは隠しキャラで身分を隠して留学している隣国の王子さまがいたけれど、そのまま隠れていてほしい。


 王子さまとの出会いイベントはやってしまったけれど、他の攻略対象者のはまだ避けられるのではないか?

 落とし物を拾ったり拾われたり、校舎で迷子になったところを助けられたりとか、ベタな出会いイベントは気をつければ避けられそう。


 前世で乙女ゲームは楽しく遊んでいたけれど、現実になったら話は違う。

 現実の恋愛には興味ありませんから。

 そもそも婚約者がいるのにヒロインに心を奪われる浮気男とかね。フィクションだから楽しめたのであって、ノンフィクションはノーですわ。


 その日から、出会いイベントを避けるべく行動していたのに全ては無駄だった。


 王子さまが平民特待生に興味をお持ちになり、どうやら『おもしれー女』に認定された模様。

 王子さまがぐいぐいくるので、側近候補の他の攻略対象者たちも一緒についてくる。


 攻略対象の教師は担任だった。

 避けられなかったよ。

 

 もしや、これが強制力? 強制力なのか?

 「ナニコレコワイ」

 恐怖に身震いする。


 「まさしく、詰んだ」

 そう、本当に初手から詰んでいたのである。

 初手どころ学園入学からして詰んでいた。


 ここからは別の生き残り策を考えなくては……。



 王子さまたちがぐいぐいくるので、乙女ゲームの通りに貴族女子の反感を買うわけですよ。

 今はまだ動きがないけれど攻略対象者の婚約者さまたちもご立腹でしょう。ご立腹すぎて悪役令嬢にメタモルフォーゼしてしまうのがゲームの設定だったのよね。

 さて、どうしたものやら。


 好感度上昇イベントらしきものは何もしていないのに、なぜか攻略対象者たちの好感度が高いような気がする。

 ゲームのようにステータス画面が見られるわけじゃないけれど、王子さまたち攻略対象者ご一行はいつもニコニコベタベタニヤニヤと上機嫌。

 やたらと距離が近くて不快。

 セクハラ教師、その距離感は犯罪ですから!


 こちとら平民、王族や高位貴族に囲まれて粗相がないよう気を遣いますですよ。

 商人子息は平民だけど、同じ平民じゃない。あちらは富裕層で上級国民だから。

 気を使いすぎてハゲそう。


 


 そうこうしているうちに、やっと貴族女子に絡まれるイベント発生。

 待ってた。ずっと待っていたよ、このチャンスを。

 攻略対象者の婚約者を慮って義憤にかられた取り巻きの暴走。


 ちゃんと王子さまたちにみつからない場所にわたしが誘導しますよっと。

 キャンキャン吠えてますねー。

 うわあ、わたし今ののしられてるぅー。

 あちらの言い分をひととおり聞いたところで、ここからが勝負!


 瞬きをせずに前世の悲しいことを思い出して瞳をうるうるさせる。

 祈るように手を組み、哀れっぽく懇願する。

 どうか攻略対象者の婚約者さまにお取次ぎを、と。


 勝負の結果は……。

 「勝った」

 わたしは勝ったのだ。

 まだ第一段階だけど、とにかく勝ちは勝ち。

 これで次の一手に進めることができる。


 数日の後に私的なお茶会へ招待された。

 ホストは王子さまの婚約者さま。他の招待客も推して知るべし。


 当日は気合を入れて一張羅のワンピースで参加。平民なのでドレスなど持っていないのですよ。

 もっとギスギスドロドロ針の筵のお茶会になるかと思いきや、みなさん貴族らしくおすましの微笑。


 ご挨拶とご招待いただいた感謝を述べて、その場にいる面子をぐるりと見まわす。


 今日のお茶会のホストで王子さまの婚約者のローズさま。宰相令息の婚約者のヴァイオレットさま。魔術師団長令息の婚約者のカメリアさま。騎士団長令息の婚約者のガーベラさま。商人子息の婚約者のオーキッドさま。そして担任教諭の婚約者のリリーさま。

 みなさんそれぞれ公爵令嬢や侯爵令嬢、伯爵令嬢と高位貴族のご令嬢。

 年齢はリリーさまが一番年上ですが、この場を仕切っているのは公爵令嬢のローズさま。

 身分の差なのでしょうか? 平民にはよくわかりません。


 さてさて、ここからが本番。

 負けられない戦いがはじまる。


「本日わたしがみなさまにお会いしたかったのは、どうしてもご相談したいことがあったからです」


 謝罪じゃないよ。わたしからは謝ることはないからね。むしろ攻略対象者あいつらがわたしに謝れ! と思ってる。


 「わたし、みなさまの婚約者さまに懇意にしていただいていると噂になっているのですが……、あの方たちが怖いんです!」


 平民の小娘が王族や高位貴族にぐいぐい来られることの恐怖を切々と語る。

 本当のことなので真実味たっぷり。

 高位貴族云々よりも強制力の方が怖いのは内緒。

 

 「わたしの家は母子家庭で、将来いいところに就職して母に楽をさせたくて勉強を頑張って来たのに……」

 これも本当。今世のわたしは、ママンラブ! なのだ。

 母一人娘一人の楽しく愉快な母子家庭で幸せに暮らすのだ。

 

 瞬きを減らし、悲しいことを考える。前世のペットのリボンちゃんが死んだときのことを思い出して涙がにじみだす。その流れでもう会えない前世の家族のことを思い出したら自然に涙が流れてくる。

 ご令嬢たちが戸惑ったところで、そっと自分のハンカチを出して涙をぬぐう。

 チラリと目をやると、もらい泣きしている人もちらほら。


 他のご令嬢たちより少しばかりお姉さんのリリーさまと王子妃教育の賜物なのか人を見る目に長けていそうなローズさまは、ちょっと疑っていそうな気がする。


 だが負けていられない。真剣勝負。


 「それに、わたしは悔しいです!」

 突然の悔しい発言にみなさん驚いていらっしゃる。

 よしよし、つかみはOK かな?


 「素敵な婚約者さまがいらっしゃるのに男性陣の不誠実な態度が許せません」

 拳を握り訴える。


 「渦中のわたしが何をとお思いかもしれませんが、婚約者がいるのに婚約者以外の女性に声をかけても男性は許される。

 これが反対に婚約者のいる女性が婚約者以外の男性に声をかけるのは許されない。 

 理不尽だと思いませんか!?」


 わたしの怒りは本当。男尊女卑がひどすぎるし、攻略対象者あいつらは不誠実すぎる。

 口八丁で不誠実な婚約者、本当に必要ですか?

 女性ばかり我慢するのは不公平じゃないですか?

 と畳みかける。


 「わたしは平民です。貴族の婚約関係の話はよくわかりません。ですが、あの人たちと今後も婚約者でいたいですか? あの人たちと結婚したいですか?」

 握った拳をもう片方の手で押さえて、ご令嬢たちの顔をぐるりと見まわす。


 ちょっと動揺している方、うつむいている方、おすましの方、思案顔の方。

 そして、扇子で表情を隠してこちらを見ているローズさまの目力強っ!


 「もしもわたしにお味方していただければ、婚約者さま方の不誠実な言動を証拠としてご提供することができます!」

 胸に手を当て、ご令嬢たちからの庇護を求めて必死のプレゼン。


 しばしの沈黙。

 ローズさまが無言でご令嬢たちに目配せをなさる。

 みなさま無言でうなずいていらっしゃる。

 パチンとローズさまが扇子を閉じる音が響く。


 「いいでしょう。貴女の提案を受け入れましょう」

 ローズさまの言葉に、みなさま微笑んでうなずいた。


 勝った! わたしは勝った!

 

 「ありがとうございます!」

 心の中でガッツポーズをしつつ、勢いよくお辞儀をしたのでした。




 その日からせっせと攻略対象者たちの言動を報告して、贈り物は献上。

 どんな結果になるかはわからないけれど、ご令嬢たちの有利に働くように証拠集めに邁進。

 

 ローズさまたちからの依頼で攻略対象者以外の男子生徒にも接近した。

 接近といっても、偶然を装って会って挨拶したり、落とし物を拾ったり拾われたりしてお礼を言う程度。

 出会いイベントみたいなことをやって、男子生徒の婚約者が確認するみたいなことをした。


 さすが主人公(中身はわたしなのに)というかなんというか、こんなのでひっかかる人がいたりして頭を抱えた。

 攻略対象じゃないのになぜひっかかるのかなー?

 もちろん、ほとんどの人はちゃんと普通に誠実だった。


 わたしという試金石で婚約者の誠実さを計り、婚約継続か否かを考える。

 ご令嬢たちにとって良い機会になったようでなによりです。


 しばらくして、あちらこちらで婚約解消、婚約白紙に婚約破棄が続いて、浮ついていた男子生徒たちが落ち着きを取り戻した。

 落ち着いたどころじゃなく落ち込んでいる人もいるけれど(笑)

 反対に婚約解消をした女生徒たちは晴れやかな表情で、めでたし。


 担任のセクハラ教師は辞職して消えていきました。心の底からめでたしめでたし。


 「生徒に手を出そうとするなんて」と元婚約者のリリーさまがかなりご立腹でしたからね。

 いくら異世界で乙女ゲーム世界でも倫理的にヤバイよね。


 ローズさまも王子さまと婚約解消。

 王家の後継者問題が荒れるとかなんとか。

 平民にはあまり関係ないと思いたい。


 あの日のお茶会にいらしていたご令嬢さま方は軒並み婚約解消の方向でしたが、商人子息の婚約者のオーキッドさまは保留だそうです。まだ改善の余地がありそうだとかなんとかで。


 ご令嬢方が誰も悪役令嬢にならなくてよかった。

 ご令嬢のみなさまが、不誠実な婚約者と離れることができてよかった。

 自己満足かもしれないけれど……わたし、いい仕事した。




 周囲が落ち着き、これで静かに勉学に励めると思っていたら……。


 「きみ、すごいね! ぜんぶ見ていたよ!」

 と、隠れていた隠しキャラが自主的に出てきてストーカー発言をするものですから、わたしの全身が総毛立つのでした。


 ナゼデテキタシ……

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