第3話
何時もの定例の婚約者同士のお茶会での出来事である。
ルピナスが私の婚約者であるギルバート様の腕に絡まりながら二人でやって来て、最近は当たり前の様に二人がテーブルを挟んで私の向かい側に座る。
「エンレイ大事な話があるんだ・・・」
「エンレイお姉様・・・ごめんなさい・・・」
ギルバート様は真剣な顔で、妹は今にも泣きそうな顔で私に何か大事な話があるようだ。
またろくでもない話だろうと思いつつも、紅茶を一口飲み、冷静に話を聞く体勢を整える。
「何かしら?」
私が聞き返すとギルバート様が話し出す。
「婚約を解消して欲しい・・・」
「え?・・・婚約は家と家との契約よ?」
「それは・・・」
ギルバート様はばつの悪そうに顔を歪めながらジッと私を見詰めて来る。
私とギルバート様の婚約は家の利益を結ぶ契約でもある。
私たちの一存で勝手は出来ない。
「エンレイお姉さま!ギル様を責めないで!!」
いや・・・責めているのではなく確認である。
婚約者同士の話に割り込んで来る常識知らずの
「私たち真実の愛に目覚めたの!!」
『真実の愛』・・・最近、若い貴族たちの間で流行っている物語に出て来るワードだ。
不貞も『真実の愛』と言い換えれば、何故か赦されるらしい・・・
赦しているのは一部の者に限るが・・・
「目覚めたのは置いといて、家と家の契約を蔑ろにする貴族は貴族としての体面を保てないわよ?」
「それは・・・」
先程から『それは・・・』ばかりですね?
不貞を働いていることを認めた(現)婚約者様は、顔を歪め決まり悪そうに俯く。
その時、ルピナスがいい考えを思いついたよと言うように、笑顔で明後日な事を言う。
「お父様が認めればいいのかしら?」
私は呆れてしまったが、妹に常識を教える為に言葉を紡ぐ。
「そういう問題ではなく」
「そうだ!父とチューズ伯爵が認めれば!!」
ギルバート様は
二人は私の存在など無きが如く、二人で手を取り合い自分達だけの世界に旅立った。
「早速父とチューズ伯爵に話そう!!」
「はい!お供しますわ!!」
二人は私の事など置き去りで席を立ち去って行った。
~~~~~~
「エンレイ、ギルバート君との婚約はルピナスに変更する」
「左様ですか・・・」
「うむ」
父は全く問題無いというように、私にそう伝えた。
まぁお花畑の住人達のお相手は疲れるので、前向きに捉えることとした。
しかし、父の話はそこで終わりではないようだ。
「伯爵位もルピナスに渡すこととした」
「え?・・・どういうことですか!?」
父曰く、ギルバート様のご実家のグーフ侯爵家も話を通し認められたという。
私は完全に梯子を外された形だ。
とうとう物だけではなく、婚約者も爵位も妹に奪われる形となった。
商会も奪われそうになったが、ランスロット様と商会を立ち上げる際の契約内容に『両者が合意しない限り権限を移す事は出来ない』旨を盛り込んでいたことで難を逃れた。
~~~~~~~
「エンレイ嬢大変だったな・・・」
「そうですわね」
ランスロット様は気遣うように私に話し掛けて来た。
しかし、以外にも何時か訪れるであろう出来事だと割り切っており、ショックは少なかった。
そして、ランスロット様からは卒業後は帝国に来ないかと誘ってくださった。
大変有り難い。
私に落ち度なぞ一欠片もないが、未婚の貴族令嬢とっては婚約が白紙になるという事は汚点となる。
この国の口さがない貴族たちは私のこの出来事を面白可笑しく皮肉を込めて囀る。
「そうね・・・良いのかもしれないわね」
このままこの国に残っても良くないと思える。
汚点持ちの私のこの国での未来は、明るいものではないだろう。
後妻として父親程の年の離れた方に嫁がされる未来などしか思い浮かばない。
最悪は伯爵位を継ぐルピナスの補助とかをさせられる事とかだろうか?
暗い未来しかない国に残る選択肢は捨てることとした。
商会の方はこの国だけではなくランスロット様の母国である帝国の方にも店を構えるまでとなっているし、彼の誘いに乗ろう。
早速とばかりに父に話を通した。
流石に私に対して多少は悪いと感じていたのか、父は了承してくれた。
学院を卒業後はランスロット様と共に帝国へと渡る。
「ようこそ!!」
「お世話になります」
「ああ、今度は幸せになろう!!」」
「今度は?」
「いや、何でもない」
ランスロット様は不思議な事を言われる。
まるで前回があった様な言い様をされる。
まぁ言い回しの間違いなのだろう。
1年後、私はランスロット様のプロポーズを受け、彼と結婚する事となる。
彼のプロポーズを受け入れた後、結婚する少し前に彼は言った。
「ここは奪われない」
かつて見た仕草で、トントンとこめかみを指差す。
そして、少しはにかみながら、言葉を続ける。
「私のここは君に奪われたがな」
ランスロット様は心臓の辺りを押さえる様な動作をしつつニッコリと微笑みながら私に言う。
私は頬を染め、頷く。
何か言ったかもしれないが、心に任せたので覚えていない。
奪われるばかりの私であったが、学び蓄えた知恵という希望は残り、彼の心という宝物を手に入れた様だ。
~エンレイFin~
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