第2話
「それに、奪われるなら奪われる以上の物を手に入れれば良いんじゃないか?」
ある日、リドル子爵令息は私に変わった提案をして来た。
謎掛けのような事を言う彼の言に首を捻り、話の続きを促す。
「どういうこと?」
「簡単な話さ!ここを使って金を儲ければ良い」
そう言って彼はまた自分のこめかみ辺りをチョンチョンと指差して言う。
具体的に話を聞けば、私たち二人で出資し合い商会を立ち上げ、この学園の優秀な者をスカウトし一緒に一儲けしようという提案だった。
日頃の勉学を実地で学ぶ傍ら金儲けをしようという魂胆らしい。
流石は商流が盛んな帝国貴族である。
面白そうなのでその話に乗ることとした。
「共同経営者となるのだからお互い名前で呼び合おう!」
その場の勢いも手伝ってお互いに名前で呼び合う事となった。
「では宜しく頼む、エンレイ嬢」
「此方こそ宜しくお願い致します。ランスロット様」
早速とばかりに私の資産とランスロット様の資産から半分づつ出し合い、商会を立ち上げ、将来的に商会で働きたいと考えている者や錬金術師を目指している者、その他、優秀な学生をスカウトし、皆で意見を出し合いながら商会としてのあれこれを決めて行った。
先ず、売る物をどうするか?を考える必要があった。
意見を出し合い、『学生が使う』をコンセプトに商品開発をする事となったが、ここで私は一つの提案をする。
「実に面白い!!」
「それ便利そう」
「是非とも欲しいな!」
私の意見は皆に肯定的に捉えられた。
そして、試行錯誤する日々が続き、遂に完成し、売り出すことが決まった。
研究開発し試作を試す過程で徐々に話題となっていたので売り出す前から『何時売り出すのか?』等々の意見が寄せられていたので売り出すと爆発的なヒット商品となった。
「文字を書くのもインクが不要で書けるし、何より、消せるのが良いな!!」
多くの方々から言われる言葉であった。
何を作り出したのかと言えば、鉛筆と消しゴムだ。
遠い遠い異国の地で産まれたこの二つの類似品を作り上げたのだ。
鉛筆は本来、黒鉛を芯とするものであるらしいのであるが、私たちの製品は沼地に生息する泥の魔物と炭を練り込んで造られた芯を使っている。
倒しても泥しか入手できない魔物で冒険者たちには不人気な魔物ではあったが、現在、我らが商会がその泥を買い取っていることからそこそこに狩られており、冒険者ギルドからも感謝されている。
そして、もう一つ、消しゴムなのだが、本来はゴムの木と言われる木の樹液を固めた物らしいのであるが、此方も魔物由来の素材を使っている。
スライムと数種類の魔物の素材をミックスし出来上がった消しゴムは綺麗に鉛筆の書いた文字を消せる。
本来の鉛筆より書き味が滑らかで、消しゴムの方も従来品より綺麗に消せることから重宝されている。
この二つは従来品と言っても王国でも帝国でも本来使っていない品物だったので既得の物とぶつかることは無かったことで、すんなりと受け入れられたことも大きい。
何より、学生だけではなく、画家や音楽家などにも好まれ、また、書類・手紙等の下書き等にも便利という事で学生以外にも需要があったことで、作れば即売れるという好循環となった。
最終学年の商会就職希望だった者たちが率先して商会を運営してくれているので、最終学年でない私やランスロット様は学生起業した割にはそこまで忙しくもなく、非常に助かっている。
何とか両立出来ている今日この頃である。
~~~~~~
「エンレイお姉さま!その髪飾り綺麗ね~♪」
何時ものおねだりを言い始めた妹。
しかし、これにもある程度の対策を考えた。
「あげたいんだけど・・・ごめんなさいね~これ、商会の所有物だからあげられないのよ」
そう!商会の所有物という括りにして私のお飾り等の奪われそうな物は保護している。
数回程、父や義母等にルピナスにあげる様にと言われたが、『商会の所有物なので私物ではない』という事を理由に拒否し、買い取りなら可能であることを言ってからは特に何も言わなくなった。
代わりに私のドレス代等のお金がルピナスの方に流れる結果になっているが、商会による利益が大きくなると共に些細な事は気にならなくなっていった。
因みに、私の婚約者様にも父たちと同じ様な事を言われたが、同じく、買い取りできるから買い取ってルピナスに渡せばいいのではと提案したところ、喜んで購入しようとしていたが、金額が予算以上だったようで別の物をプレゼントしていたようだ。
最近は私へのプレゼントは皆無で妹への貢ぎ物に消えているようだが・・・
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