奪えないもの
生虎
第1話
私はチューズ伯爵家に長女として産まれた。
母は産後の肥立ちが悪く儚くなった。
そして、私は伯爵家を継ぐ子として跡取りとして育てられる事となる。
エンレイと名付けられた私は幼き頃より伯爵家を継ぐべく、英才教育という名の育ハラを受け育った。
しかし、将来、伯爵家を継ぎ、女伯爵となるのだから仕方無い事として、それを受け入れた。
現在は伯爵家の仕事を担うまでとなり、今日も今日とて仕事を行う為書斎へ向かっていると、私に声を掛ける者が居た。
「エンレイお姉さま!そのペンダント何時見ても素敵だわ!!私に似合うと思うの~♪」
「これはギルバート様より私の誕生日祝いとして頂いた品よ」
「へ~じゃあ!ギル様が良いと言えば良いのよね?」
何が良いのか不明だが、そう言って妹は私の回答も聞かずその場を立ち去って行った。
まぁ何時もの事である。
彼女は私の母が亡くなった後に父が迎えた後妻と父の子で、名をルピナスと言う。
美しい子に育って欲しいとその名を与えられた彼女は蝶よ花よと育てられ、今に至るが、ピンクブロンドで儚げな面立ちから、チューズ伯爵家の儚き花などともて囃され、現在、多くの貴族令息たちを虜としていた。
そして、件のペンダントの送り主であるギルバート様は私の婚約者で、グーフ侯爵家の三男で、王国の騎士団に所属する美丈夫である。
貴族令嬢たちにも人気で、私へのやっかみも多いが、それはある意味致し方ないのかもしれない。
「エンレイお姉さま!ギル様が『いいぞ』と言ってくださいましたわ♪」
「え?・・・本当に?・・・嘘でしょ?」
「嘘なんて言っても仕方ないでしょ?さぁ!」
後日、ルピナスはご機嫌で私の所にやって来ると、とんでもない事を言う。
言い終わると満面の笑顔で私の方へ手を指し出しながらペンダントを催促する。
我が家ではよくある出来事である。
しかし、デザインも気に入っているし、何より婚約者からの特別な誕生日の贈り物だ。
正直に言って渡したくはない。
しかし、更に後日、結局、彼女にそのペンダントは奪われることとなった。
「エンレイ、それ位は妹にあげても良いんじゃないのかな?」
「え?そ・・・それくらい?・・・」
「妹が欲しいと言っているんだし、あげても良いんじゃないかな?」
聞き分け悪い子供にでも言うように、二度も『あげても良いんじゃないのかな?』などとギルバート様は婚約者同士の定例のお茶会で言われる。
そして、それを聞いた妹はお約束の様にギルバート様の横に居座っており、ニッコリと笑顔で何故か私の婚約者の腕に巻き付きながら言う。
「嬉しい!そう言ってくれると思ったは、流石ギル様~♪」
解り切っていたことではあるが、まさかこのペンダントまで奪われることになろうとは・・・
このペンダントは私の15歳の誕生日に送られたお品ある。
この国では15歳で初めて貴族として認められるからこそ、その誕生日は特別視される。
その記念すべき年に送られた婚約者からの特別なお品な筈なのに、その送り主で肝心の婚約者が『それ位』と言う・・・
「ほら~♪ギル様が言うんだから、早くちょうだい♪おねえさま」
私は一度二人をジッと見詰めた後、諦めてペンダントを外し、そっとテーブルの上に置いた。
早速とばかりにペンダントはギルバート様によって回収され、彼の手によってルピナスの胸元に飾られた。
ここ数年は特にルピナスから私の物が奪われる事はよくある出来事で、既に日常の一コマである。
婚約者も今の出来事の通りだし、父も『妹だから』を理由に譲る様にと言うだけである。
義母に関しては『爵位はあなたの物なのだから、他は譲ってあげれば』的な事を平気で言う始末。
血の繋がった娘の我儘を優先して聞く有様である。
婚約者の私をまるで居ない者として妹と仲睦まじく戯れる婚約者を眺めつつ、そっとため息をつく。
~~~~~~~
「今回も君に負けてしまったな」
そう言って私に声を掛けて来たのは隣国から留学生してきたリドル子爵令息である。
彼とは学年首位を争うライバルである。
「次も私が勝ちます!」
「いや、いや、次こそは君に勝つつもりだよ」
こんな感じでお互いがお互いにライバルと認める間柄で、切磋琢磨している。
ここは主に学問に重きを置く貴族令息・令嬢、並びに優秀な平民の通う学院である。
ちなみに、全ての貴族がここに通う訳ではなく、
「何時も付けていたペンダントを今日は着けていないのだな」
「いつものやつよ」
「ああ・・・それは・・・ご愁傷様・・・」
仲の良い彼には事情をある程度説明しているので、『いつもの』で通じる。
最初は隠そうとしたが、あまりにも頻発することだし、彼から変な誤解をされるのも嫌なので状況説明済みである。
私が妹に御下がりを渡し、私自身はどんどん新しい物を購入していると言う噂が一時あがった。
奪われて行くので仕方なく新しい物を用意しているだけであるのだが・・・
彼は気の毒そうに私を見ていたが、ふと何か思いついた様に私に言う。
「奪えない物もあるさ」
「え?」
彼は徐に自分のこめかみ当りをチョンチョンと人差し指で突く様に指差してみせる。
私は彼が何を言わんとするか即座に理解出来た。
「そうね!それは奪う事は出来ないわね」
何だか可笑しくなり、お互い笑い合った。
私は何だか少し落ち込んだ気持ちが軽くなり、前を向けそうな気分になった。
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