事の顛末──終わらない地獄

 王国軍・特殊兵団、兵団長、そして団員の少女1名。

 両名を死刑に処する。

 罪状は反乱罪。

 男は王都の地下牢にて、これを聞いた。

 男はそれを聞いてただ、


「そうですか」


 と、言った。

 当然だ。

 男の管理下にあった少年兵が、停戦交渉を無視し帝国軍に攻撃を行ったからだ。

 男も後で聞いたことなのだが、水面下で休戦交渉が行われていており、すでに停戦中だったらしい。

 そんな事実、最前線のあの町には届いていなかったのだから、帝国の支配地域に残されたピジョンが知っているはずもない。

 ピジョンの行動は仕方のないことだった。

 だから男は、ピジョンを責めることはしない。

 むしろ肩から重荷が降りたような気持ちだった。

 そう思っていたのに。


「……出ろ」


 男は解放された。

 待っていたのは騎士だった。

 普通、王国を守るための力である王国騎士が、罪人の処刑を行うことはないはずだ。

 しかし他に外へ出される理由が見つからない。


「執行ですか?」


「違う。貴様の罪は無くなった」


「……は? いったいどういうことですか?」


「知らん。詳しい話はあの方に聞け」


 男は騎士に連れていかれる。

 王都の城下町を歩かされ、連れてこられたのは騎士団本部だった。

 荘厳で立派な建物内を進み、騎士はようやく足を止めた。


「失礼致します。連れて参りました」


「あなたは……参謀長」


「あぁ。よく来てくれた。君の活躍はここにいてもよく聞いていたよ」


 王国騎士団の参謀長と言えば、副団長の最側近であり、かなりの切れ者だと有名な男だ。


「君は話の分かる人間だと聞いているから、単刀直入に言う。君とその部下の少年兵、ふたりの罪は私が揉み消した」


 理解が追いつかず黙っていると、参謀長はさらに話を続ける。


「団長と、頭の固い政治屋たちを説得するのには随分と骨が折れたよ」


 団長とは、騎士団長のことだろう。

 生粋の軍人である男は、政治に関することはほとんど知らなかった。

 そんな男ですら、団長と副団長の仲が、あまりよろしくないことを知っている。

 そんな中、副団長側である参謀長に、多大な借りを作らされてしまった。

 男の表情は自然と険しくなる。


「……つまり私は、これからあなたの懐刀として働かなければならない、ということでしょうか」


「そうなってくれることを期待しているよ」


 これは、あのまま処刑されていた方が楽だったかもしれない。

 もし参謀長の期待に応えられなかったら、真っ先に切り捨てられるだろう。

 そうならないためには、どんなに無理な命令でも必ず成功させなければならない。

 男はつばを飲んだ。


「了解しました。ご期待に沿えられるよう尽力致します」


 諦めを込めて、男は敬礼をした。


「よろしく頼むよ。なに、あの戦場を生き残ってきた君たちからしたら、楽な仕事になるだろう。そんなに気構えないでくれたまえ」


「楽な仕事、ですか」


「あぁ。戦争は終わった。だが敵はまだ存在している。君にはそれらを排除してもらう」


「敵とは?」


「この国を変えることを邪魔する存在さ」


 つまりは参謀長にとっての政敵を殺せということだろう。

 拾われた命とはいえ、汚れ仕事を押し付けられるとは気が重い。


「そんな顔をしないでくれたまえ。相応の報酬は与えるつもりだ。もちろん、私の期待通りに働いてくれたら、の話にはなるがね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る