いつかの記憶──紙切れより軽い私たち
いつかの記憶。
前線からほど近いとある町にて。
「以上、王国の勝利のため命を捧げた英霊たちに敬礼!」
指揮官の言葉の後に、空銃が発射される。
隊員たちは寸分違わぬ動作で敬礼して、仲間たちに哀悼の意を示している。
そんな光景を、少し離れた場所から少女は見ていた。
「どうした? ピジョン。そんな顔をして」
隣に立つ男が話しかけてくる。
「隊長。……いや何も」
「そうか」
隊長と呼ばれた男は少し悲しげな顔をする。
いい年をした男が、年端もいかぬ少女に冷たくあしらわれて、そのような顔をするとは。
そんな男をどうしようもなく思って、ピジョンはため息交じりに気持ちを吐き出した。
「ただ、私たちの命は軽いんだなって、そう思っただけです。あの人たちよりもずっと」
「……どうしてそう思う?」
「だってあの人たちには、あの紙切れに名前が載るくらいの価値はあった訳でしょ? それすらない私たちの価値は紙切れ以下。違いますか?」
男は少し考えてから、答える。
「その分、俺がお前たちの名前を覚えてるさ」
「よく言いますね。名前なんてとうの昔に捨てさせられたのに」
「だから俺は、お前に名前をやっただろう?」
隊長が少女に名前をくれた時のことを思い出す。
少年兵の教育施設では、子供たちは番号で呼ばれていた。
そんなことなど知っているだろうに、隊長は少女に名前を聞いてきた。
少女は、名前は捨てさせられた、とっくに覚えていない。
そう答えると、隊長は少し考えてから、少女をこう名付けた。
「ピジョン……変な名前ですが」
「けどお前はこうして帰ってくる。名前が持っている力とは、そういうものさ」
隊長は曇天を見上げた。
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