第45話 支配され、そして堕ちる
夜の神社は、
張り詰めた空気に包まれていた。
月明かりが薄く差し込む境内。
木々のざわめきが、
耳に刺さるように不安を煽る。
優李は布団の上で身を丸め、震えていた。
体の内側で、
黒い霧がうねるように広がっている。
零禍の声が、彼の心を深く侵食していた。
――「お前は弱い。俺なしでは何もできない。」
――「俺と一緒にいれば、怖いものはないだろう?」
優李の目が微かに光る。
瞳の奥に、零禍の影が揺らぐ。
身体は動かず、
思考が押しつぶされるような感覚。
「……やめて……!」
彼の声は、
自分のものではないかのように震える。
だが、
零禍の囁きはそれを嘲笑うかのように、
どんどん強く、優李の意識を覆っていく。
外では澪が異変を察し、駆け寄る。
「優李!」
彼女の手が優李の肩に触れるが、
その体温が零禍の黒い霧に、
吸い込まれるように感じられる。
「……俺……もう……」
優李の声は弱々しく、
零禍の力に支配されかけていた。
――「さあ、完全に俺を受け入れろ!!」
零禍の囁きが、優李の理性を覆い隠す。
優李の瞳が完全に黒く染まる瞬間、
体がガタリ強く痙攣し、震え始めた。
意識の奥底で、
零禍が一気に前面に押し出される。
「――っ、あぁぁ……!」
声にならない呻きと共に、
優李の体が揺れる。
澪は咄嗟に抱きしめる。
「優李……しっかりして!あなたはあなたでしょ!」
しかしその手にも、零禍の圧力が押し返す。
朧は剣を構え、
結界を補強するように力を集中させる。
「……俺も、支える!」
優李の体内で、零禍が完全に目覚め、
優李の心を支配し始める。
黒い霧が全身を覆い、彼の意識を押し潰す。
しかし同時に、
優李の中に小さな光も残っていた。
澪の存在、朧の守る意志。
「……俺……俺は……っ!!」
言葉にならない叫びとともに、
優李の意識が光と闇の間で揺れる。
零禍が微笑む。
「……そうだ、それでいい。お前の心の弱さを俺は食い尽くす。」
その微笑みは、
冷酷で、しかしどこか嬉しそうでもあった。
月明かりが神社を照らし、
揺れる影が三人を包む。
優李の体内で零禍が覚醒する一方で、
澪と朧の思いが、
それを何とか抑えようとしていた。
だが、夜の闇は深く、
次に何が起こるかは誰にも分からない――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます